日向灘は,巨大地震の発生してきた強い固着域である南海トラフの西端に位置し,固着が弱いと考えられている琉球トラフへの遷移域である.日向灘・豊後水道における巨大地震の発生は確認されていないものの,南海トラフ地震の破壊領域の端に位置し,地震活動や固着メカニズムの解明及び防災計画立案に対し重要海域である.南海トラフと琉球トラフの境界に九州パラオ海嶺が存在し,そこを境として沈み込むプレートの凹凸や熱流量値が急激に変化している.また海山列の沈み込みが上部プレートの破砕や応力の局所的な増大をもたらし,日向灘・豊後水道における地震発生に大きく影響を及ぼしているであろう.これまでになされていない詳細な構造推定や原位置の岩石物性の把握を進め,定量的に地震分布・発生との関係を導く必要がある.
このプロジェクトでは,海山が現在沈み込みつつあるトラフ付近に焦点を当てる.沈み込む海山の前方に微動・超低周波地震が分布しており,明瞭な関連性が見られる.しかしながら,海山の具体的な位置・形状,プレート境界断層の形状,上盤内部の構造は十分に得られたとはいいがたい.加えて,過去に掘削が実施されていないため物性が不明であり,定量的なモデル評価が困難である.地震波による地殻構造推定が不可欠であると同時に,掘削を通じたコア採取・原位置計測・室内実験,孔内観測が必須である.
2020年4月に,国際深海科学掘削計画(International Ocean Discovery Program; IODP)に対して掘削予備提案を提出した.その後国際ワークショップ(2020年9月)等を経て,2022 年8 月に提案が受諾され,掘削実施に向けた準備に入った.地震学・地質学・地球化学など学際的な連携が不可欠であり,国内(海洋開発研究機構・京都大学・高知大学・神戸大学など)のみならず,アメリカ・カナダ・ニュージーランド・フランスなどを含めた国際性の高いプロジェクトである.日向灘~豊後水道域では,海底地震観測,GNSS 観測が継続的に実施されていることに加え,防災科学技術研究所による N-net の敷設が予定されており,関連研究と連携していく予定である.本年度は,2020-2021年度,2021-2022年度に取得した構造探査の高度解析を進め,微動の発生と流体挙動の関係について反射断面と速度構造から議論を進めた.さらに微動の発生域の詳細な同定に向け,連続観測データからノイズに基づく構造推定,微動の逆時間イメージングに向けた技術開発研究を進めている.
日三浦半島断層群(主部/武山断層帯)は,三浦半島を横断して複数併走して分布する,長さ約11 km以上,北西走向の右横ずれ主体の断層帯である.断層群主部を構成する衣笠・北武断層帯,武山断層帯は,神奈川県横浜市・横須賀市など首都圏近傍に位置するA級活断層として,従来から注目され,数多くの調査研究が行われてきた.既往の調査研究の結果得られた断層帯の活動履歴や平均変位速度などの活動性データに基づき行われた長期評価では,今後30年以内に地震が発生する確率が国内の主要活断層帯の中で高い部類であり,特に武山断層帯は今後30年以内の発生確率が6-11%と非常に高くなっている.また,強震動予測では,武山断層帯が活動した場合,震源断層の直上にあたる首都圏南部の広い領域が震度6弱以上の揺れに見舞われ,震度6強のり災人口が約13万人と見積もられるなど,甚大な被害をもたらす可能性が指摘されている.しかし,一方,断層帯の長期評価で採用された平均変位速度の幅が大きく,信頼性が高くないこと,断層帯が相模湾・浦賀水道の海域に達している可能性があり,正確な断層長が不明であることなど,武山断層帯の長期評価には重要な課題があることが指摘されている.また,武山断層帯をはじめとする三浦半島断層群はフィリピン海プレート上面のメガスラストと近接し,相模トラフで発生する巨大地震との連動の可能性があることから,断層帯とフィリピン海プレート上面の構造的な関係を解明することが望まれる.加えて,強震動予測を行う上で重要な震源断層面の形状や断層帯を含む地下構造,近接する複数の断層帯の構造的関係を推定するための反射法地震探査等の地球物理学的手法による構造探査や物理探査は,三浦半島断層群においてこれまで十分に実施されていない.このような課題を解決するために,2023年度から3ヵ年で「三浦半島断層群(主部/武山断層帯)における重点的な調査観測」が開始された.このうち,サブテーマ1.1「活断層の詳細位置・形状・活動性解明のための調査」を担当し,断層帯の変動地形解析および陸域の深部構造探査・海域音波探査を実施した.

四国西部における深部超低周波地震累積個数の経年変化.G1は豊後水道域,G2は愛媛県西部,G3は愛媛県中部に対応する.黒い矢印は豊後水道の長期的SSEの発生時期を表し,赤い直線は2004年4月–2009年12月および2014年7月–2017年3月の回帰直線を示す.回帰直線の傾きを比較すると,G1とG2で2014年後半以降超低周波地震の活動が静穏化していることがわかる(Baba et al. 2018).



1997年7月11日から2017年12月31日までの鋸山観測所における歪, 傾斜, 気圧, 雨量のデータ.2011年の東北地方太平洋沖地震の影響によるデータ欠測期間を破線で示した.
上段:歪三成分 (NS, EW, NE,いずれも伸びが正)と大気圧.
中段:傾斜二成分 (NS:N-down正,EW:E-down正).
下段:24時間降水量.