(1)陸域地震観測
(1-1)広域的地震観測
関東・甲信越,紀伊半島,瀬戸内海内帯西部に展開している高感度地震計を用いた広域的地震観測網による観測,および伊東沖(故障中)と三陸沖に設置している光ケーブル式海底地震・津波観測システムを用いた海陸境界域の観測を継続し,地震活動と不均質構造との関係を明らかにする研究を進めてきた.
全国の国立大学や研究機関等によって観測されている地震波形データを収集し,本センターのデータと統合して処理している.これらのデータは,日本列島周辺で発生する地震に対して行った臨時観測データと合わせることによって高密度な観測網となり,より詳細な地震活動が明らかになった.
最近の技術の進展により,観測機器の小型化,省電力化が進み,大規模な観測局舎が必要なくなってきた.さらに伝送経路の光回線化等のため,各観測点の伝送装置の切り替えを進めている.その結果,全観測点に対して,不必要な大規模観測施設は撤去もしくは小型の機器収納ボックスに置き換える等の検討・作業を行っている.光化作業については、陸域の広域的観測網だけでなく火山等も含め工事が進捗し、モバイル化などで別対応を行った観測点もあり、残り1回線になった。
(1-2)臨時集中観測
日本列島周辺で発生した顕著な地震に対して,それらの地震活動を把握するため,全国の国立大学や研究機関等と共に,臨時地震観測を行っている.2011年東北地方太平洋沖地震の発生後には各地で地震活動度が高まったため,千葉県,茨城県,栃木県,福島県,長野県に臨時観測点を作り,リアルタイムで連続的にデータを収集してきた.2024年度からの「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第3次)」では,分野横断で取り組む地震・火山噴火に関する総合的研究「首都直下地震」において,神奈川県温泉地学研究所,横浜市立大学,千葉大学と共同で首都圏南部での稠密地震観測が計画されている.そこで,茨城・福島地域の10か所に設置していた臨時テレメータ観測点を撤去し,新たに首都圏南部の神奈川県,千葉県南部に臨時地震観測網を構築することにした.本年度は,10か所中6か所の撤去作業が完了した.能登半島北東部に位置する珠洲市付近では,2018年頃から地震発生回数が増加傾向になり,2020年12月頃からは地震活動のさらなる活発化と局所的な非定常地殻変動が観測されていた.この一連の地殻活動の中で,2023年5月5日にはマグニチュード6.5の地震がそれまでの地震活動域の北端付近で発生し,地震活動域は珠洲市北方沖に拡がった.2023 年12 月までの地震活動域は能登半島北東部の概ね30 ㎞四方の範囲であったが,2024年1月1日に発生したマグニチュード7.6の令和6年能登半島地震以降の地震活動域は広く海域にも拡がり,北東-南西に延びる150 km程度の範囲に拡大した.そこで,令和6年能登半島地震後の地震活動域陸上部において,定常観測点が少ない地域であった輪島市縄又地区と能登町鵜川小学校に臨時テレメータ観測点を設置し,データ取得を2024年3月22日から開始した.また,令和6年能登半島地震震源域の西部は,志賀町西方の海域まで拡がった.そこで,文部科学省科学研究費助成事業(特別研究推進費「2023年5月5日の地震を含む能登半島北東部陸海域で継続する地震と災害の総合調査」代表:金沢大平松良浩)と連携し,千葉大学と共同で志賀町西方沖の沿岸浅海域を含む海陸境界域に臨時地震観測網を構築した.観測は,2024年8月1日から2024年9月18日まで実施し,陸域では,志賀町を中心とする10km×20kmの領域に10台の独立型地震観測装置(GSX)を設置した.陸域臨時地震観測が実施されている期間中の2024年8月3日から2024年8月26日に,浅海用係留ブイ方式海底観測システム(OBX)を志賀町西方沖における5km×12kmの浅海域に4台設置することで稠密な海陸統合地震観測網を構築した.設置した4台のOBXの内,1台は回収できなかったが,残り3台のOBXと10台のGSXでは,良好な記録が得られた.これら海域と陸域に設置した臨時オフライン観測点と,能登半島西部のテレメータ観測点(11か所)で得られている波形データとの統合処理を実施した.統合処理後のデータに対して気象庁一元化震源カタログに基づいたイベント毎へのデータ編集作業を実施した.イベントデータから,観測期間中に発生したマグニチュード1.0以上の地震を抽出し,各観測点におけるP波到達時刻,S波到達時刻,最大振幅,P波初動振動方向の読み取り作業を開始した.
(2)地殻変動観測
南関東・東海などにおいて歪・傾斜などの高精度センサーを用いた地殻変動連続観測を行うとともに,GEONET 等によるGNSS 観測結果と比較検討し,地震発生と地殻変動の関係に関する研究を行っている.1970 年頃より長期にわたって継続観測を実施している油壺,鋸山及び富士川の各地殻変動観測所における横坑式観測と,伊豆の群発地震発生地域や想定される南海トラフ地震発生地域などに設置されたボアホールあるいは横坑での観測が行われている.横坑においては水管式傾斜計と水晶管伸縮計を中心とした観測方式を採用しており,ボアホールにおいては地殻活動総合観測装置(歪3 成分,傾斜2 成分,温度,加速度3 成分,速度3 成分,ジャイロ方位計)を用いて観測を継続している.また,全国の地殻変動研究関係者が中心となってデータの公開を進めており,地震研からは鋸山と富士川の両観測所及び伊東,室戸のデータを提供した.なお,弥彦観測所は1967年より53年間にわたり観測を続けていたが,2020年度に閉所した.弥彦観測所の傾斜観測記録については地震研究所技術研究報告第26号(2021)に掲載されている.
(3)スロー地震モニタリング
「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の研究課題「南海トラフ域を中心したプレート境界すべりの時空間発展のモデリング・予測に関する研究」において,九州東部から四国西部に合計6点における広帯域地震計臨時観測を継続し,地震計の交換などを行った.さらに,科研費新学術領域研究「スロー地震学」において四国西部,紀伊半島,東海に設置した広帯域地震観測点のうち,それぞれ3点,3点,4点の観測を継続し,現地作業や遠隔作業を含む保守作業を行ったほか,科研費学術変革領域研究「Slow-to-Fast地震学」において四国東部に広帯域地震観測点を2点新設した.これによりマグニチュード3を下回る比較的小さい超低周波地震の検出に成功した他,四国東部で実施中の光ファイバ観測記録との合同解析を行う予定である.
(4)プレート境界域における不均質構造と地震活動の解明
(4-1)スロー地震の滑り特性を規定する地下構造の特徴抽出
「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の研究課題「スロー地震モニタリングに基づく南海トラフ域の地震発生可能性評価手法に関する研究」において,スロー地震活動様式に違いがある四国東部地域で得た稠密地震観測データの解析を継続して実施した.四国東部では,1999年と2002年に発破を使用した地殻構造探査が実施されている.それら探査で実施された発破を,四国東部に設置されている定常地震観測点で収録したデータからP波初動走時を読み取り,四国東部における稠密自然地震観測により得た走時データと統合したデータセットを用いた地震波モグラフィー解析を実施した.得られた南北測線下のVp/Vs構造からは,深さ15km以深でVp/Vs値の大きな領域が北傾斜で確認でき,反射法断面図でフィリピン海プレート上面近傍の反射層が厚く確認できる領域と対応することから,流体の存在が示唆される.なお,この観測研究は,千葉大学との共同研究である.
(4-2)1923年大正関東地震破壊域におけるプレート構造解明
関東地域下は,フィリピン海プレートが陸側プレートと太平洋プレートとの間に沈み込むという複雑なプレート配置を形成している.首都直下地震を考察する上で,関東地域下におけるプレートの配置・形状を詳細に把握することは必要不可欠である. 1923年大正関東地震の破壊域と推定されている丹沢東部から三浦半島下にかけてのフィリピン海プレートの形状,プレート境界面近傍の不均質構造,上盤側の構造を明らかにすべく,丹沢山地東部〜三浦半島にかけての地域で制御震源地殻構造探査を実施した.本探査では,神奈川県清川村から葉山町に至る測線(測線長:約47㎞)を設定し,測線上に約200m間隔で独立型地震観測装置を246カ所に設置した.各観測点では,固有周波数4.5Hzの上下動地震計を使用し,Geospace社製GSX-1を用いて連続収録を行なった.収録の期間は,2024年1月20日~2024年1月28日であった.収録期間中の1月25日から1月26日にかけて,探査測線上の7カ所で,大型バイブレータ震源(UNIVIB2)4台による多重発震を行った.バイブレータの発震は,スイープ周波数 3-30Hz、スイープ長 24秒で行い,各発震地点での発震回数は50回もしくは100回とした.取得した発震記録に対して初動走時の読み取り作業を実施し,初動走時データセットを作成した.得られた初動走時データにトモグラフィー解析を適応することで得られた速度構造モデルからは,表層地質と良い対応を示す,測線下の水平方向における顕著な速度変化が確認できる.
(5)地殻活動モニタリングシステム構築
地震活動や地震波観測記録を基にした地殻活動の現況のモニタリング,新たな地震学的な現象の発見・研究テーマの創出等,所内研究活動の更なる活性化を目的とした計算機システムを新たに構築した.本システムはリアルタイムで流通する高感度地震連続記録を長期間一元的に整理蓄積し,所内研究者に広くデータ利用可能な環境を提供している.さらに,連続あるいはイベント波形データに様々な自動解析処理を施した結果を閲覧可能なwebシステムを構築し,観測点毎の連続波形画像,深部低周波微動モニタリング用エンベロープ画像,広帯域マルチトレース,近地地震・遠地地震波形画像等の作成・閲覧に関する運用,新たなモニタリング手法の開発,所内公開を継続的に実施している.