(1) 災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)による海底観測
(1-1)令和6年能登半島地震震源域の海底地震観測
能登半島北東部では2018年から地震発生回数が増加傾向になり,2020年12月頃から地震活動のさらなる活発化と局在的な非定常地殻変動が観測されていた.この一連の地殻活動のなかで,2024年1月1日にM7.6の地震が発生し,地震活動の範囲が海域にまで広がり,能登半島の広い領域と北東側の海域を中心とした北東-南西方向にのびる150km程度の範囲に拡大した.この地震活動と海底活断層の関係を調べることは,この地域における地震発生過程を解明する上で重要であり,高精度な震源分布は最も基本的な情報になる.このため,自由落下自己浮上式海底地震計を用い,震源域北東部における緊急海底地震観測を開始した.はじめに海洋研究開発機構所属学術研究船「白鳳丸」による緊急調査一次航海(2024年1月16日~23日)により,短周期地震計を用いた短期観測型地震計と長期観測型地震計,および広帯域地震計併せて30台以上を設置した.次に学術研究船「白鳳丸」緊急調査二次航海(2024年2月18日~3月1日)により短期観測型地震計を回収するとともに,短期観測型と長期観測型地震計および広帯域地震計を用いて,計20台の追加設置を行った.さらに学術研究船「白鳳丸」と傭船を用いた6月と9月の航海により短期観測型地震計の回収・設置を行うとともに,一部の広帯域地震計の回収を実施した.2025年1月1日現在,海底地震観測を継続中である.なお,この観測研究は,北海道大学,東北大学,千葉大学,東京海洋大学,東海大学,京都大学,鹿児島大学,海洋研究開発機構との共同研究である.
(1-2) 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震震源域の海底モニタリング観測
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下東北沖地震)の発生時には震源域の一部に海底地震計が設置されており,本震発生直後から海底地震計を追加設置し余震観測を実施した.その結果,本震時に大きな滑りが推定されている本震震源付近では本震直後から余震活動が低調であり,地震活動の様式が変化したことがわかった.その後2011年9月からは主に長期観測型海底地震計を用いて震源域における海底モニタリング観測を長期にわたって実施している.地震時の滑りが大きかった東北沖地震震源域本震付近における長期の地震モニタリング観測はプレート間固着の変化などを把握するために重要である.そこで2013 年9 月から長期観測型海底地震計を宮城県・岩手県沖に展開し,複数回のモニタリング観測を行っている.1回の観測期間は,数ヶ月から長くて2年である.また,震源域に接する青森県沖・北海道沖においても,モニタリング観測を複数回実施している.これらの観測は場合によっては,小スパンアレイによる観測も併用している.岩手県沖において2022年5月および11月に設置した小型広帯域海底地震計と長期観測型海底地震計によるモニタリング観測を行った。観測を終了したこれらの海底地震計を2024年7月に,海洋エンジニアリング(株)所属「第三開洋丸」にて回収した.また,2023年5月から,東北沖地震震源域周辺である北海道南方沖えりも海山付近に小型広帯域海底地震計と長期観測型海底地震計を設置して,スロー地震を含むモニタリング観測を行った.2024年7月に,同じく海洋エンジニアリング(株)所属「第三開洋丸」にて,海底地震計を回収して観測を終了した.なお,これらの観測研究は,北海道大学,東北大学,京都大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.
(1-3)南西諸島海溝北部における長期海底地震観測
南西諸島海溝域では島嶼が海溝軸から100~200 km 離れた島弧軸に沿って直線状に配列するのみであり,プレート境界付近の微小地震活動等の時間空間的変化の詳細な把握が難しい.本観測研究は海域に長期観測型海底地震計を設置してプレート境界3次元形状などを明らかにするとともに活発な活動が確認されている短期的スロースリップイベントや超低周波地震の詳細を明らかにする.本観測は長期計画の元に,設置間隔が狭い空間的に高密度な観測網により1年間の海底地震観測を行い,毎年観測域をずらすことにより,空間的に広い範囲での観測を行うこととしている.2021年8月に長期観測型海底地震計をトカラ列島東方海域に海底観測網を構築して観測を開始した. 以降,2022年4月および5月に,2023年4月に回収及び再設置を行い,観測を継続している.2024年4月に,長崎大学水産学部付属練習船「長崎丸」により,前年に設置した海底地震計を回収して観測を終了すると共に,隣接する領域に海底地震計を設置して観測を開始した.なお,この観測研究は鹿児島大学,京都大学,長崎大学との共同研究である.
(1-4)ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯における海底観測
ニュージーランド(NZ)北島ヒクランギ沈み込み帯北部では,平均しておよそ2年の周期でスロースリップが発生しており,このうち6年程度の周期で規模の大きなイベントが起こっている.他の沈み込み帯と比較して特に浅いプレート境界上において高頻度で発生するスロースリップイベント(SSE)と,それに伴う多様な断層すべりを発生域直上で観測し,その発生メカニズムの解明を目的として,2013年より継続的に海域地震・地殻変動観測を国際共同で続けている.2014年5月から2015年6月にかけて海底地震計と海底精密圧力計を用いて実施した観測では,比較的大規模なSSEを観測網直下で捉えることに成功し,そのプレート境界面上のすべりが部分的に海溝軸近傍まで達していることが,世界で初めて確認された.また,このSSEが終了する時期から,沈み込んだ海山周辺で3週間ほど連続して発生する,テクトニック微動活動を明らかにした.2024年9月にはNZの研究機関であるNIWA所有の観測船R/V Tangaroaを用いて,2023年9月にギズボーン沖に設置した海底地震計を回収し,これを再整備した後に2024年10月に9台を再設置し観測を開始した.2023年からは,海底下の比抵抗構造から流体の分布およびその挙動をあきらかにすることを目的として海底電位磁力計を用いた電磁気観測を始めており,2024年9月に回収,整備ののち,同10月の航海にて3台を再設置して,観測を継続している.これらの観測機器は2025年9月に回収の予定である.なお,この観測研究は,東北大学,京都大学, GNS Science(NZ),Victoria University of Wellington(NZ),LDEO(米国),University of Rhode Island(米国),GEOMAR(ドイツ)との共同研究である.
(1-5)宮崎県沖日向灘における長期海底地震観測
宮崎県沖日向灘では活発な低周波微動活動が確認されている.その活動状況を正確に把握することは海洋プレート沈み込みを考える上で重要である.そこで2020年度から宮崎県沖日向灘に長期観測型海底地震計を設置してモニタリング観測を開始した.毎年海底地震研の改修と設置を繰り返して,長期にわたる観測を行っている.当初は,長期観測型海底地震計による小スパンアレイを含む観測を実施したが,2022年8月からは広域観測網による観測とした.広域観測網による観測は,2023年7月に長期観測型海底地震計の回収再設置を経て継続した.2024年7月には,長崎大学水産学部付属練習船「長崎丸」により,長期観測型海底地震計を回収して,観測を終了した.この海底観測は文部科学省委託事業「 防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」と連携して行った.なお,この観測研究は,京都大学,鹿児島大学,長崎大学との共同研究である.
(1-6)東北日本弧横断構造探査実験
日本列島の形成や海溝型地震の影響を考える上で深部構造を精度よく求めることが必要である.特に,日本海溝外側から日本海までの領域についてリソスフェアとアセノスフェアの詳細な構造を求めることは日本海における地殻構造の不均質や日本海東縁の歪み集中帯の形成,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震が長期に与える影響などを考える上で有益な情報である.そのために日本海から日本列島を横切り日本海溝に至る測線を設定し測線上に長期観測型海底地震計を設置して実体波トモグラフィー・レシーバー関数解析・表面波解析などから深部までの構造を求める観測を計画した.また,この測線の海域部では制御震源であるエアガンを用いて構造探査実験を行い,深部構造と上記の解析に必要な詳細な浅部構造の情報を得る.2022年11月にこの計画の一環として山形県沿岸から大和堆にいたる日本海において長大な測線を設定し,海洋研究開発機構学術調査船「白鳳丸」KH22-9研究航海により小型広帯域海底地震計を設置し長期観測を開始した.さらに設置した小型広帯域海底地震計に向けてエアガン発震を行った.同時にマルチチャンネルハイドロフォンストリーマを曳航して,反射法地震探査も実施した.2024年7月に,東京海洋大学練習船「神鷹丸」SY-24-05航海により,日本海に設置した小型広帯域海底地震計を回収して,観測を終了した.回収した小型広帯域海底地震計からは良好な記録が得られてる.なお,この観測研究は,東京海洋大学との共同研究である.
(1-7)房総半島沖における長期海底地殻変動観測
房総沖スロースリップ領域において海底地殻変動を検出することを目的として長期観測型海底水圧計による観測を実施している.1年から2年毎に海底に設置されていた海底圧力計を回収,新たに準備した海底水圧計をほぼ同一箇所に再設置を行う繰り返し観測により,観測を継続している.用いている海底水圧計は最大3年間程度の連続収録が可能である.2024年は,2022年9月に設置した海底水圧計を,東京海洋大学練習船「神鷹丸」および海洋研究開発機構東北海洋生態系調査研究船「新青丸」を用いて,回収した.回収したOBPには,2024年2月から3月に発生した房総沖スロースリップのデータが含まれる.また,同一地点に同航海により新たに準備した水圧計を設置して,観測を継続した.これまでに回収した長期観測型海底水圧計のデータについて解析した結果,海底の上下変動が約1 cmの精度で観測できることが示されている.2024年は,海底圧力データ処理の高度化を引き続き行い,2018年房総沖スロースリップのすべりモデルを改訂した.なお,この観測研究は千葉大学,東京海洋大学との共同研究である.
(2) 文部科学省委託事業および共同研究による海底地震調査観測研究
(2-1)防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト
南海トラフでは将来規模の大きな地震の発生が想定されている.そこで南海トラフ地震の活動を把握・予測し社会を守る仕組みを構築し,地域への情報発信による減災への貢献をめざす委託研究プロジェクトが2020年から5カ年の計画で実施された.このプロジェクトの一環として,南海トラフ西部の日向灘において広帯域海底地震観測を実施している.2021年3月に小型広帯域海底地震計を含む長期観測型海底地震計を宮崎県沖日向灘に設置して観測を開始した.2022年1月および2022年8月に小型広帯域海底地震計を含む長期観測型海底地震計の回収・再設置を行い,観測をおこなった.この観測は,設置間隔が短い小スパンアレイを構築したことが特徴である.2022年8月からは,全体の活動を把握するために,広帯域観測網を構築した.2023年8月に広域観測網を構築する長期観測型海底地震計を回収し,さらに南の種子島東方の領域にやや設置間隔が短い広域観測網を構築して観測を継続した.2024年8月に1年間観測を行った長期観測型海底地震計を回収して観測を終了した.これらの観測から,同じ領域での低周波微動活動および通常の地震活動が把握され,通常の地震は沈み込む海洋プレート内で発生し正断層型の発震機構解を持つものが多いことがわかった.なお,この観測研究は京都大学と連携して行っている.
(2-2)南海トラフにおける高密度海底地震計アレイ観測
西南日本沈み込み帯では,室戸沖から熊野灘沖にかけて海底ケーブル地震観測網(DONET)が敷設されており,スロー地震の活動が長期にわたってモニタリングされている.しかし,スロー地震の震源断層の特定や発生メカニズムの解明には,既存の観測網では震源決定精度が十分ではない.2019年度以降,スロー地震の高精度な震源決定と詳細な3次元S波速度構造の推定を目的として,当該海域に長期観測型海底地震計を設置し,自然地震観測を実施している.2020年12月には熊野灘で大規模なスロー地震活動が発生した.本観測およびDONETのデータを用いてテクトニック微動の震源を高精度に決定した結果,微動の発生域と地質構造との対応関係が明らかとなった.具体的には,テクトニック微動は覆瓦スラスト帯で主に発生し,前縁スラスト帯ではほとんど発生していなかった.また,微動発生域の上端は,デコルマ面が折れ曲がる位置に相当する.このことは,微動を駆動する背景のスロースリップの進展が,断層面の折れ曲がりによって妨げられた可能性を示唆する.本研究は東京大学工学系研究科,京都大学,神戸大学,東北大学,海洋開発研究機構との共同研究である.
(3) 海底地震地殻変動観測システム開発およびデータ解析手法開発
(3-1) 三陸沖に設置した光ケーブル式海底地震・津波観測システムの運用
地震研究所が開発し1996年に三陸沖に設置した海底地震・津波観測システム(1996システム)は3台の地震計(加速度計)と2台の津波計(水圧計)を光海底ケーブルで結んだものであり,データ伝送には従来の光通信技術が使用されている.1996システムは2011年の東北沖地震の地震動及び津波を観測したが,陸上局舎が津波被害を受け観測が中断した.その後,陸上局舎の再建と陸上設備の再製作を行い2014年から観測を再開した.一方,従来の光ケーブル海底地震・津波観測システムは海底通信技術を用いた高信頼性システムであるが,コスト面や運用面に改善の余地がある.そのため,データ伝送とシステム制御にインターネットに代表される情報通信技術を用いたシステムを新たに開発した.このシステムはデータ通信の冗長性を備え,より低コストで観測装置を小型・軽量に製作できることが特長である.1996システムの更新も視野に入れた開発に基づいたシステムを製作した.このシステムは地震計と津波計を装備した観測点を2点,地震計と拡張ポートを装備した観測点を1点装備し,海底ケーブル全長は約110 kmである.拡張ポートにはデジタル出力型高精度水圧計を接続して2015年9月に岩手県釜石市沖へ設置を行った(2015システム). 2015年以降は両システムによる観測を継続しながら効率的な運用技術構築の開発を行っている.2017年4月には2015システムにおいて波浪の影響を受けやすい汀線部から沖側約30 mまでの区間のケーブルの保護対策とアース電極の沖合への設置作業を実施した.その結果,給電電圧の変動はほぼ無くなり安定した運用ができるようになった.2018年9月には1996システムについてシステムの監視と観測データの冗長性向上を図るために陸上局舎内に既設システム監視用サーバを新規に追加した.2019年10月に台風19号の影響により道路の被害や局舎付近への土砂流入などが発生し,復旧作業は2021年3月までかかった.また、2019年11月11日落雷により陸上局舎内の2015システム給電装置に不具合が発生し,約1ヶ月間欠測となったが,その後,局舎内のアース配線を改良し,その後は連続観測を行っている.2022年1月および10月には,それぞれ1996システムおよび2015システムのGPS受信器の交換を行った.また,2022年には2015システムの地震計と水圧計の記録をwebシステムを通じて公開するシステムの構築を行った.2023年1月には陸上光回線を釜石市の陸上局舎に導入しデータ通信の高速化を行った.2024年11月には,海底ケーブル陸揚げ付近の潜水状況調査を行い,海底ケーブル敷設及び陸上設備に補修が必要であることが判明したことから,それらの準備を行っている.1996システムおよび2015システム共に長期間の安定した運用を行っており,特に最新技術であるインターネット情報通信技術を用いた2015システムの長期運用には,注目が集まっている.
(3-2) 光ファイバ計測技術による海底ケーブルを用いた海底高密度地震観測システムの開発
光ファイバセンシングの一つであり振動を計測する分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は近年様々な分野で応用され始めている.地震関係の分野では石油探査のために構造調査に利用が始まり,地震観測にも適用されている.この計測は光ファイバ末端からレーザー光のパルスを送出し,光ファイバ内の不均質からの散乱光を計測する.その散乱光の変化から振動を検出する方法である.光ファイバに沿って時空間的に密な観測を実施できることが特長である.地震研究所が1996年に設置した三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムは,伝送路である海底ケーブルに予備の光ファイバを持っている.この予備光ファイバにDAS計測を適用することによって空間的に高密度の海底地震観測を実施できる.2018年からDAS計測技術を三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムの予備光ファイバに適用する開発を開始し,2019年2月に最初の観測を行って以降複数回の観測を行っている.生成されるデータ量が莫大であるために現在は臨時観測の形態をとっており,1回の観測期間は数日から約4ヶ月である.測定長は最大100 kmとし,計測点間隔は2 mから10 mである.これらの観測により多数の地震が収録され,記録の解析から,DAS計測が地震観測として有益であることが確認された.2020年にはエアガンとDAS計測による構造調査を海洋研究開発機構学術調査船白鳳丸を用いて実施した.これらの観測の結果,空間的に高分解能なケーブル直下浅部のS波速度構造が求められた他に,構造探査実験からケーブル直下浅部の反射法構造断面および水平方向に高分解能なP波速度構造が求められた.2022年には地震研究所にOptaSense社のDAS計測装置(QuantX)が導入され,観測の機会が増加した.2024年は仏国FOSINA社の計測方法が異なる計測器によるDAS観測を実施して,引き続き,DAS計測の地震観測への適用を検討している.2024年1月に能登半島地震が発生した.新潟県粟島に敷設されている地震研究所の海底ケーブル観測システムファイバによる余震DAS観測を2024年2月から約3ヶ月間実施した.比較的距離があるにもかかわらず,マグニチュード2クラスの余震を観測することができた.2024年に南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)の沖合システムが設置された.串間局から沖合約55kmまでは使用されていないファイバがあり,そのファイバを用いたDAS観測を 8月から約2ヶ月間実施した.観測中に日向灘でマグニチュード7.1の地震が発生し,本震を含め規模の大きな地震が比較的近い距離において記録された.その結果,大振幅の歪み変化による記録の飽和が認められ,今後も課題を明らかにすることができた.なお,本研究の一部は,防災科学技術研究所との共同研究である.
(3-3) 短周期海底地震計のデータを用いたモーメントテンソル解析手法の開発
2024年に発生した能登半島地震を受け,地震発生の約2週間後から,短周期海底地震計(4.5 Hz速度計)を用いた余震観測が実施された.これらの観測データをもとにP波初動の極性を解析し,余震の発震機構解を推定した結果,多くの余震で横ずれ断層型であることが示された.一方,F-netのルーチン解析で得られたモーメントテンソル解では,逆断層型のメカニズムが多く報告されており,両者の結果には整合性が見られない.本研究では,この不整合の要因がモーメントテンソル解の非ダブルカップル成分に起因すると仮定し,検証を進めた.一般的に,モーメントテンソル解は周期20–50秒程度の低周波帯域の波形を用いて推定される.本研究では,短周期海底地震計の記録を用いてモーメントテンソル解を推定するための新たな手法を開発した.この手法では,波形の代わりにP波の極性および振幅を入力データとして用いる.また,非ダブルカップル成分の有意性を評価するため,マルコフ連鎖モンテカルロ法を採用し,誤差を考慮したモーメントテンソル解の推定を可能とした.この手法の適用した結果,能登半島地震の余震には有意な非ダブルカップル成分を有含む逆断層型の地震が多いこと,さらにP波極性のみを用いたメカニズム解の推定では横ずれ型断層と判定されやすいことが明らかとなった.