多相固相系である多結晶体(つまり、岩石)において、2相目が孤立している場合は、クリープと粒成長は同じ拡散メカニズムで進行することを我々は既に明らかにしている (Okamoto & Hiraga, 2022 JGR)。その事実を用い、下部マントル粘性率推定を行った(Okamoto & Hiraga, 2024 JGR)。その結果は以下にまとめられる。深さ660 kmを下方通過後、ブリッジマナイト安定深度域内を下降するマントル内でほぼ一定となる粒径に直ちに到達する。ブリッジマナイトからポストペロブスカイトへの相転移直後に急激な粒成長が生じる。コアからの熱供給により高温な下部マントル底部をマントル物質が水平方向に移動する期間にも粒成長が継続する。マントル上昇(湧昇)に転じるまでに粒径は~10 mmに達し、そのサイズは上昇流中さらなる粒成長が生じえないほど十分に大きい。得られた粒径および拡散係数より、マントル対流時の深度と共に変化する粘性率を得た。マントル下降流および上昇流の温度差が小さい場合には、下降マントルが細粒であるために上昇マントルと比べ低粘性になりうる。地球物理学的に推定されるブリッジマナイト安定域での深度ともに1021から1023 Pa·sと変化する粘性率、ポストペロブスカイト安定深度域で推定される1016から1020 Pa·sの低粘性率がよく再現された。下部マントルでは、沈み込む物質の多様性に応じて、2相目の分率は大きく変化する。このことは地殻・上部マントル物質でも同様である。多様な岩石に適用可能な粒成長・クリープ則を作る必要がある。その目的で、現在、2相目の体積分率が3割を超え、2相目が岩石中で3次元的に連結できる構造を持つ際の粒成長とクリープ特性を明らかにする実験を行っている。