浅部マグマ活動に関する研究では,マグマ活動の実体を明らかにすることを目標に,化学組成,含水量測定や組織観察を中心とした火山噴出物の解析を行なっている.マグマ中の含水量は火山噴火のポテンシャルとして重要であり,噴火に到る準備過程を理解する上でマグマ中の含水量変化を明らかにする意義は大きい.また,含水量を適切に評価することによって,斑晶鉱物やマグマの液組成を用いた熱力学的温度圧力計の精度向上も期待できる.斑晶の組成累帯構造や石基組織の観察からは,噴火に伴うマグマの運動についての情報が得られる.これらの情報を総合して,火山噴火の前駆現象の解明に取り組んでいる.
2024年度は火山噴火予知研究センター,山梨県富士山科学研究所,鹿児島大学,静岡大学,防災科研との共同研究を実施し,富士山,三宅島,霧島,桜島,池田カルデラ,硫黄島,西之島,諏訪之瀬島など,いくつかの活動的火山について噴火前のマグマの状態を検討した.加えて,受託研究「次世代火山研究推進プロジェクト」の一環として,火山噴出物の分析・解析プラットホームの構築を進めている.これは,膨大な量の火山噴出物を高精度かつ高効率に解析可能にするとともに,火山噴出物解析の自動化と分析結果のデータベース化によって火山噴火の推移予測に資することを狙っており,取得したデータを用いて噴火予測をどのように実現するのかという課題に取り組んでいる.
一例を挙げると,火山噴火をコントロールする主要因の中で噴火と同時進行で観測可能あるいは噴火に先立って推測可能なものを”予測の鍵”と名付け,どのような鍵が存在し,どのタイミングで噴火予測に使うかについて検討している.例えば,「マグマの含水量」は浮力を通じてマグマがどこまで上昇できるかについて強く影響する.先行する噴火噴出物の分析からマグマ溜まりでの含水量が制約されてそれに基づいて次の噴火でのマグマの含水量がある程度推測できるとともに,実際の噴火が切迫した際には噴火に先行して採取できる火山ガス組成から実際に上昇しつつあるマグマの含水量が推定できる.これらの情報をマグマの浮力計算式に入れると,マグマが上昇途中で停止して噴火未遂となるか,それとも地表まで到達して噴火に到るか,どちらの可能性が高いのかを評価でき,リアルタイムでの噴火推移予測につなげられる.「マグマの上昇速度」,「マグマの温度」,「マグマの組成」なども影響力が高い”予測の鍵”であり,これらをどのような観点から何時のタイミングで用いると噴火予測が有効に機能するようになるのかについて検討をおこなっている.