海洋プレートを動かす原動力や沈み込み帯における地震・火山活動の原因を考える上で海洋リソスフェア・アセノスフェアの構造を理解することが不可欠である。そこで本研究では中央海嶺近傍に焦点を当てた2次元数値モデルを用いて海洋リソスフェア・アセノスフェアにおける熱伝導率、熱膨張率、地震波速度の異方性を予測した。ここで異方性はマントル構成鉱物の結晶選択配向に起因すると仮定した。その結果、プレート拡大速度を与えるとカンラン石の[010]軸が鉛直方向に揃うためにその方向の熱伝導率が小さくなり、熱伝導率が等方的である場合と比較して海洋プレートの温度が数十度上昇することが明らかになった。また熱伝導率の異方性が地殻熱流量に与える影響、および熱膨張率の異方性が海洋底深さに及ぼす影響は限定的であった。さらに中央海嶺下における部分溶融とメルトの抜き去りに伴い、深さ60 kmより浅い部分のマントルの粘性率が高くなった場合の計算を行なった。その結果、プレートの年代にほぼ依らず深さ60 kmの直下で岩石の変形が集中し、その場所において地震波速度異方性の急激な増加が見られた。実際この結果に対応するような地震学的観測も報告されている