(a) 経験的な地震先行現象の吟味
地震に先行する傾向があると考えられている様々な現象について,全国の大学・研究機関と協力して,予測能力の定量的評価を行っている.今年度は,上海天文台と協力して,これまでデータの入手できなかった2008年のM7.9四川地震の直前30分に,世界の他のM8級地震に先行したのと同様の電離層全電子数の異常を見出した.今回観測された異常の強さおよび異常の先行時間は,これまでM7.3–9の範囲で知られているマグニチュード依存性に整合的であった.似たような電離層全電子数の異常は,地震直前に限らず頻繁に見られるため,地震前の異常も偶然である可能性が高いという最近出された批判に対しては,根拠とされた多数の異常のほとんどが衛星仰角の低いときに見られたものであり,我々の主張する地震前異常のほとんどは,衛星仰角の高い場合でも見えていることを指摘して反論した.
(b) 摩擦における三次クリープの実験
先行現象に関して,震源核等,「壊れ始め」に起因すると考えられているメカニズムでは,断層での損傷蓄積による弱化によってますます破壊が加速する自己フィードバックが働くと考えられている.そのようなプロセスとして,岩石の破壊に関しては,一定の応力を載荷しつづける場合,この応力があるレベルより高ければ,破壊プロセスがだんだんと加速する三次クリープという現象が知られている.同様のプロセスを摩擦断層で観察するため,一定条件の準静的接触である程度静摩擦強度を高めた模擬断層に様々なレベルの一定応力を印加して,滑りの発展および断層面音波透過率(断層強度のプロキシと考えられている)を観察するシステムを作り,予備実験で,摩擦滑りが減速していくか,加速していくかが載荷応力レベルで決まることを確認できた.また,その挙動が速度状態依存則と整合的であることを数値計算で確かめた.