3.2.4 観測や室内実験と理論を結びつける研究

(a)粉体層の摩擦強度に対する圧密効果と時間効果

有効法線応力以外で断層の摩擦強度を変化させる要因としては,時間とともに断層面の真実接触部の固着が強固になるエージング効果が有名で,我々は,その強度変化が断層面の音波透過率でモニタできることを示してきた.いっぽう,天然の断層でよく観察されるように,断層面が粉体層を挟んでいる場合には,鉱物粒子の幾何学配置が変化し,剪断力を支える粉体層内の巨視的な骨組構造が変化することで大きな強度の変動がおきる.気象大と共同して,両者の強度変化メカニズムに対応する音波透過率の変化を区別する実験に成功し,断層全体の強度は,両者のメカニズムのうちの強い方で決まっていることを見出した.熱水条件下で同様の実験を行うための実験装置の整備を進めている.今年度は温度制御システムを改修し,ヒーター電流・電圧の監視記録を取れるようにした.また,京都大学と協力して,軟鉱物である蛍石の直接接触と粉体層剪断での動摩擦強度が,どちらもバヤリー則程度であることを見出した.

(b)摩擦構成則に関する理論的研究

地震発生の理論的研究に多く用いられている速度・状態依存摩擦則の強度発展則は,実験で知られる三つの正典的な挙動(速度ステップに続いて滑りの指数関数でおきる強度変化の特性滑り距離が速度ステップの大きさや正負によらないこと,定常状態の強度がすべり速度の対数に負の線形依存をすること,純粋な時間効果としての対数ヒーリングが定常滑り強度の対数速度依存性と同じ大きさで存在すること)を全て再現しようと様々な数式が提案されてきたのだが,いまだにあちら立てればこちら立たずである.そこで,これまでのように何か良さそうな式を思いついてその振舞いを調べるのではなく,三つの正典から数学的論理で強度発展則を演繹することを,東京大学理学部と協力して試みた.まず,純粋な時間効果としての正典的対数ヒーリングと速度ステップ実験における正典的遷移挙動が,全ての速度・強度にわたって両立することはありえないことを数学的に証明し,次に,両者の間に実験で探られていない速度・強度の領域があることに着目して,その領域でこの対立する正典挙動を,現在の強度と現在の速度に対応する定常滑り時の強度の差に応じて遷移させることで,既に実験で確立している範囲での正典的挙動が全て再現でき,かつ,それがほぼ唯一の方法であることを示した.こうして演繹的に提案された新たな発展則は,既存の速度ステップ実験の範囲を大きく超える非常に大幅な減速ステップに対しては速度ステップ正典から逸脱した挙動を予測するので,そのような実験ができれば検証可能である.

(c) 地震波到達前の重力信号の研究

巨大地震などでは断層運動に伴う震源の質量移動と,物質の粗密を伴う地震波の広がりにより,重力場が時間・空間変動する.地震波の到達よりも前に微弱な重力場の変化が計測され,理論的な予測と比較検証されるようになった.究極の地震早期検知手法として,地震波到達前の重力信号を地震波解析し,地震の発生位置や時刻,マグニチュードや発震機構解を求める手法を開発している.

(d) 地形効果を加味した地殻変動・重力変動の理論計算

マグマだまりの膨張・収縮にともなう地殻変動や重力変動をモデル化する際,半無限媒体における点圧力源の変形場(茂木モデル)が頻繁に用いられてきた.しかし,半無限モデルでは地表面の起伏がもたらす効果が考慮されていないため,地形起伏を円錐形で近似した場合の変形場の解析解を構築した.これまでは圧力源が円錐の軸上にある場合のみにおいて解析解が得られていたが,2024年度は圧力源の位置を任意に設定できるようにモデルを拡張し,理論を完成させた(図3.2.1).