3.1.1 地震発生機構の研究

(1) 地震発生の単一欠損OFCモデルにおけるGR則出現の条件と新たな相転移現象の発見

地震の大きさは非常に広範囲にわたり、大きい地震ほど発生頻度が低いというGR則が成り立つが、そのメカニズムは未解明である。多数の破壊要素からなる系を一様に載荷していき、どこかの要素の応力がその要素の強度に達したら壊れて自身の応力を隣接要素に分配し、そこでまた応力が強度を超えればさらに隣へと連鎖反応的に一つの地震イベントが成長するという OFCモデル(Olami et al., 1992)は、1つの要素だけが壊れる最小地震から全系が連鎖して壊れる最大地震まで GR則に従う複雑かつカオスな地震活動を生み出す。

既往研究では、OFCモデルが複雑性を生み出す鍵は、 外側境界でのみエネルギーの散逸が大きいという不均質性の存在である。実際、周期境界条件を課して散逸を均一にすると、1要素のみが壊れる小地震だけがばらばらと発生し続ける単調な活動になることが知られている。そこで、本研究では、周期境界条件のOFCモデルに 一箇所だけ散逸量の異なる要素を導入する、つまり最も単純かつ 強さを自由に設定できる不均質性を導入し、その挙動を調べた。その結果、不均質が強い場合には、さまざまな大きさの破壊が発生しGR則が成り立ち、不均質が弱い場合には完全均質な場合と同様に小地震のみがばらばらと発生し続けることが確認された。これは既往研究から予想される通りである。しかし、不均質が中程度の場合には、 系サイズの約1/3が破壊する3つの大地震が、毎回全く同じ破壊域で順番に繰り返す周期的な挙動を示すことが発見された。

このように,不均質の強さに応じて固有地震の繰り返し挙動とGR則に従う複雑な挙動が相転移する本系は、GR則のメカニズムを理解する上で 重要な手がかりとなる可能性がある (Otani & Kame, 2024)。

(2) 断層上の流体が地震発生に与える影響の研究

沈み込み帯や内陸断層で流体移動が地震発生に与える影響をモデリングした。断層の流体圧は摩擦強度を制御し、滑りを引き起こしたり、抑制したりする。室内実験の結果に基づき、流体の浸透率が断層滑りに応答する条件のもとで線形安定性解析を用いて、新しい不安定滑りのメカニズムを発見した。そして、この不安定性が非地震性滑りの形で現れることを数値シミュレーションで実証した。さらに、沈み込み帯を模したシミュレーションを行うことで、スロー地震の時空間的な特徴を説明できることを示した(Ozawa et al. 2024)。

沈み込み帯では沈み込む岩石の脱水変成作用により流体が生成される。これを岩石学的なモデルを用い定量化し、水理学モデルと組み合わせることで、プレート境界における流体圧の空間分布を求めるワークフローを考案し、北米カスケーディア沈み込み帯に適用した。その結果、地震発生帯で有効圧がほぼ一定になり、深部では深さと共に減少することを示した。この結果を元に、摩擦強度と粘性強度を計算すると、地震発生帯以深では、摩擦強度と粘性強度がほぼ同一になり、広範囲の深度で、破壊と流動が共存するという従来の研究とは異なる興味深い結果を得た。しかし、この結果は幅広い温度条件での変形を記録した露頭で普遍的に脆性及び粘性変形の記録が見られるという地質学的な観察事実、及び、スロー地震が脆性と粘性変形が共存する条件で発生するという解釈と整合的である。