大量の地震計・気圧計・水圧計などのデータを丹念に解析し,ノイズと思われていた記録の中から新たな振動現象を探り当て,その謎の解明を目指している.その際,大気-海洋-固体地球の大きな枠組みで現象を捉える事が重要である.
(1) 脈動実体波に関する研究
脈動実体波を全球的に検出するため,新たにauto-focusing法をを開発した.この手法では,波面曲率とスローネスの情報を用いるため,震源の重心位置と外力を精度良く推定することが可能となった.この方法を2004年から2020年までの日本国内の約780のHi-net観測点の地震記録の鉛直成分に適用した.また海洋波浪数値モデルに基づく合成CSFカタログとの比較し,地震波のS/N比が検出を制約するものの,時間的・空間的パターンは概ね一致している事が分かった.例外的に、海洋波浪モデルはカーペンタリア湾の重要な活動を説明できないことも明らかにした.2023年度には,新たにS波脈動の系統的な検出を行い,その励起メカニズムについて議論した.2024年には、auto-focusing法を水平動へ拡張し、S波脈動の系統的な検出を試みた。
本研究は,遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定で きる可能性を示している.地震,観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性 を意味し,地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある.
(2) 2022年トンガのフンガ火山噴火時に発生した海洋外部重力波
トンガの噴火後に水圧計 (S-net, DONET) 記録を解析したところ、周波数に比例して数日の遅れで波群が次々に到来していることが明らかとなった。観測された波群は、海洋重力波の分散関係によって説明可能である。また津波と比較して、水深による影響が少ないために伝播の特性が単純となり、噴火の情報を直接的に記録している事も分かってきた。噴火時に周期100秒付近の成分が欠落しており、この周波数帯の海洋重力波は数時間経ってから励起されていた。これは、噴火時に海水を吹き飛ばし、外向きに広がることによって津波を励起し、短周期の海洋重力波は、表層付近の擾乱起源であることを示唆している (Nishida et al. 2024)。