3.12.1 沈み込み帯学研究

(1) 日本列島下の熱構造推定と日向灘プロジェクト

日本列島の熱構造推定のため、既存のデータベースを統合して熱流量マッピングを開始した。また地下水観測井などを利用して新たに熱流量計測を開始し、2点(つくば、掛川)で計測を実施した。南海トラフ西端、日向灘における海山沈み込みと地震発生の関連を明らかにするため、IODP(国際深海科学掘削計画)に掘削提案を提出済で、その実現に向けて事前調査・解析を行った。特に、科研費(基盤S)を開始し、流体の寄与の評価や、スロースリップ検出に向けたセンサー開発をJAMSTEC主導で共同で実施した。そのために、ドイツカールスルーエ大学の博士課程の学生2名を短期インターンとして受け入れた。IODPの最終年にあたり、Facility boardメンバーとして掘削航海提案の実施可否を審査した。またIODPに続く新たな海洋科学掘削計画(IODP3)の最終制度設計に参画した。

(2) 島弧のアクティブ・テクトニクス

プレート相対運動およびマントルダイナミクスに支配された沈み込み帯の長期間地殻変動とメカニズムを解明するには、 数千万〜千年および数十〜百kmの時空間スケールでの変動地形学・地質学・地球物理学的観測を俯瞰的に捉え、沈み込み帯の形成を統合的に理解することが必要である。このため、日本列島を始めとする沈み込み帯縁辺域において、浅部〜深部地殻構造観測とアクティブ・テクトニクスの解明の取り組みを主軸とし、さらに長期間の地形・地質構造発達解明を視野に入れた研究を進める。

2024年度は、2011年東北太平洋沖地震後にM6-7クラスの地震が複数回発生した東北南部前弧域を対象とし、東北日本の地質構造や古応力場等をレビューし、震源断層の地質学的な背景を検討するともに、第四紀後期における地殻活動、地震波トモグラフィ・地震活動の空間分布と地質構造との関係を検討した。

(3) 合成開口レーダー干渉解析から求める東アナトリア断層の摩擦パラメータ空間分布と地震発生評価

東アナトリア断層では近年2020年Elazig地震(Mw 6.7)や2023年Kahramanmaras地震(Mw 7.8, 7.6)が発生し、合成開口レーダー干渉解析により地震および地震後に顕著な地殻変動が発生した。また、東アナトリア断層はアナトリアプレートとアラビアプレートのプレート境界に位置しており、地震間も5-10 mm/yrの速度で左横ずれ断層運動が進行している。

本研究では、2015年から2023年までの合成開口レーダーデータを整理し、東アナトリア断層上の断層すべり分布の時空間変化を考察した。その結果、Elazig地震およびKahramanmaras地震の余効すべりは、これらの地震によるすべり領域をふち取るように発生したことが明らかになった。また、Elazig地震以前には東アナトリア断層北東部で浅部クリープが観測されたが、19世紀のM7級地震の余効すべりであるのか定常的に浅部クリープが発生しているのかは不明である。

得られた断層上のすべりの時空間分布から、断層上の速度強化領域を同定した。このような領域は大地震の破壊開始点にはなりえない。以上の考察や過去の地震記録を統合して東アナトリア断層上の現在の地震ポテンシャルを評価したところ、Kahramanmaras地震の震源域とElazig地震の震源域の間ではM7程度の地震を発生させるのに十分なひずみがすでに蓄積されていることがわかった。

(4) 日本列島の基本場解明:中部日本と能登半島

地震・火山噴火・地殻変動の機構の理解と予測には、これらの現象を生み出す場(温度、圧力-応力、物質場)の解明が不可欠である。火山岩の組成を、地下の温度場と物質場をさぐるプローブとして用い、また沈み込むプレートの運動・マントル対流とそれらに伴う流体発生・移動の数値シミュレーションによる流動場、温度場、流体場の再現モデルを組み合わせ、中部日本下の場を推定した。

中部日本の下には、2つの沈み込むプレート(太平洋プレートおよびフィリピン海プレート)が沈み込むために、マントルウエッジが隣接する地域にくらべて低温であり、沈み込む太平洋プレートの脱水反応がより深部にずれこみ、能登半島下での深部脱水を引き起こしていることが指摘された。また、これらの流体が、地殻浅部での圧縮応力場と重なり、能登半島の隆起運動や地震を引き起こしている可能性が指摘された。2つの海洋プレートの沈み込みによる深部流体の供給、および広域的な圧縮応力場が続くかぎり、能登半島での地震活動・隆起運動は、長期的に継続すると予測される。