3.12.2 地震火山に関するモニタリング研究

(1) 孀婦海山の事象

島嶼部で発生する地震火山津波現象の即時モニタリングのために、2023年10月に発生した孀婦海山周辺での地震活動で発生したT波(海中音波)に着目した。観測波形解析と3次元地下構造を用いた地震波伝播シミュレーションにより、孀婦海山の事象で発生したT波を説明するには震源を海底面下500 m以浅であることが必要で、極浅部の事象が津波に生成につながった可能性を示した。

(2) 浅部スロー地震のエネルギー推定

浅部スロー地震の1種である浅部微動の地震波エネルギー推定の高度化のために、海底地震計下の堆積層構造の影響を検討した.浅部微動は堆積層直下のプレート境界あるいは堆積層下部(underthrust sediment)で発生するため、地震波が堆積層内にトラップされやすく従来の地盤増幅補正だけでは地震波エネルギーを過大評価することを明らかにした。

(3) 相似地震研究

ほぼ同じ場所で繰り返し発生する相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を用いて,日本列島周辺および世界で発生している小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行い,相似地震カタログを作成している.その結果,長期間にわたって繰り返す相似地震群の多くは,沈み込むプレートの上部境界周辺で発生していることが明らかとなった.そこで,相似地震とその周辺で発生する地震活動を用いて,プレート間におけるすべりの空間分布・時間変化の特徴を調べた.2011年東北地方太平洋沖地震の大すべり域周辺において非地震性すべりの時間変化を調べたところ,宮城県北部では現在も余効すべりが継続していることが確認された.一方,その他の地域では,地震後数年の間にほぼ収束したと見られる.2024年2月~3月には,房総半島沖のスロースリップイベントの発生が,2024年8月以降には日向灘地震に伴う余効すべりと見られるすべり速度の増加が見られた。さらに本年は,繰り返し地震発生域で発生する地震活動の情報を用いて,小規模な非地震性すべりが発生した可能性がある場所や期間を,カタログが入手でき次第短時間で調査可能な手法を開発した.2024年のカタログに適用したところ,プレート境界で発生するM5クラスの地震発生に伴うすべり速度の増加が2例示唆された.

(4) 長周期波動場のリアルタイムモニタリングGRiD MT

 全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet で提供されている広帯域地震波形データを利用して,震源速報等の地震情報を必要とせずに,地震の発生・発震機構(MT 解)・大きさ(モーメントマグニチュード) をリアルタイムに決定する新しい地震解析システムGRiD MTを開発して,その解析結果をWeb やメールでリアルタイムに情報発信している.現在までに得られた,解析結果についてはGRiD MTウェブサイトで公開している.巨大地震や津波ポテンシャルをW-phaseにより評価するイベント駆動型のシステムを開発し,解析結果を世界中の地震のサイトおよび日本の地震のサイトにて公開している.2024年においては,世界の地震については111個,日本の地震については303個のモーメントテンソル解(VRが70以上)を決定した.

(5) 強震動モニタリング研究

首都圏強震動総合ネットワーク(SK-net)は,首都圏の10 都県の14 観測網から,合計1205 観測点の強震波形データを収集し,公開するシステムである.10 都県のうち2 自治体については,波形収集装置を開発してオンライン収集を,残りの自治体については,オフラインもしくは自治体側で用意したサイトでデータ提供して頂いている.これらの観測網のデータ収集方式やフォーマットはそれぞれ異なるので,一旦共通フォーマットに変換してデータベース化し,加速度,速度,変位のグラフおよび最大値,SI (Spectral Intensity) 値,速度応答スペクトルを SK-netウェブサイトで一般に公開している.オリジナルの波形データは,全国の大学等の研究者の利用を可能にしており,2024年度は32名の利用申請を受け付けた.データは,1999年1月から2025年2月までに収集されたデータを順次利用可能にした.

(6) 地震活動のモニタリング研究

地震カタログデータに基づく確率論的な予測を行うために,CSEP (Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)を世界規模で実施しているSCEC (Southern California Earthquake Center) と連携を図り,CSEP日本テストセンターを立ち上げ,日本における地震発生予測検証実験を実施している.テスト領域として日本周辺,内陸日本および関東地域,テスト期間として1日,3ヶ月,1年および3年毎の合計12のテストのクラスを整備して実験を進めている.