(1) 全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet
各大学や防災科研との共同研究として開発した全国地震観測データ流通ネットワークJDXnetの運用を継続した.JDXnet は,国立情報学研究所(NII) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークSINET,情報通信研究機構(NICT) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークJGN,さらにNTT が提供するフレッツ回線などの地上回線を利用した次世代データ流通ネットワークである.JGNとSINETの広域L2 網を用いてデータ交換ルートを二重化し,安定性と信頼性を高めている. 2024年も,JGNの仮想化サービスを用いてクラウド型データキャッシュサーバを引き続き運用し,災害時などにおけるネットワーク障害に強いシステムの開発を継続した.今後も,各研究機関で地震観測データを安定して利用できる環境を整備し地震学の研究進展に資することを目指す.
(2) 新J-array システム
新J-array システムは,世界の大地震(M5.5 以上,日本付近はM5 以上) の発生時に日本列島で観測された地震波形データを30 分から2 時間の長時間記録として保存したものである.波形データは準リアルタイムで処理しJ-arrayサイトで即日公開している.これまでNEICからのQEDメールを利用した自動化処理を行っていたが,USGSのWebページから地震情報を自動的に収集するシステムを2020年度自動化システムを改良し,2024年度はそのシステムを継続運用した.
(3) 全国地震波形データベース利用システム HARVEST
各大学が収集している地震波形データを全国地震データ等利用系システムサイトに公開し,データの活用ならびに各大学と全国の研究者の共同研究を推進するためのシステムHARVESTを開発し,各大学に提供している.このシステムにより,どこの大学の利用システムでも共通のインターフェースで地震波形データを利用したり,データ利用申請したりすることが可能となっている.2024年においては,各地域の地震活動のみの提供を継続して行った.
(4) チャネル情報管理システム
チャネル情報管理システムは,地震観測点のチャネルID、座標、AD変換装置のパラメータ等からなるチャネル情報を管理するデータベースである.2007年10 月にこのシステムの運用を開始したが,これまでの運用状況やミドルウェアの更新状況等から現行システムの更新は困難と判断し,その運用終了に向けて手順の確認作業に入るとともに,同等のシステムの将来性や必要性について検討を開始した.
(5) 緊急地震速報の伝達と利活用
気象庁の予報業務の許可のもと,東京大学情報ネットワークシステムUTNET やSINET 等のネットワークを利用した学内における緊急地震速報の伝達を行っている.今年は,気象庁による立ち入り検査の対応を行なったほか,学内放送に必要な配信サーバの更新を行なった.また,緊急地震速報放送を開始する閾値を震度4から震度5弱への変更を行なった.
(6) 全国共同利用並列計算機システムの提供
本センターは,全国共同利用の計算センターとして,データ解析やシミュレーションなどのために,高速並列計算機システムを導入し,全国の地震・火山等の研究者に提供している.2020年3月にシステム更新を実施し,現在はHPE ProLiant DL560 Gen10システムが稼働している.このシステムは,計算サーバとして120ソケット(2400Core),22.5TiB メモリ,それらのフロントエンドサーバとして4ソケット(80Core),1.5TiB メモリを有している.この分野の計算需要の伸びは著しく,恒常的に処理能力の限界に近いところまで利用される状況が続いている.システムは,例年毎月平均70 ~ 90 名が利用しており,そのうちの5 ~ 6 割 が地震研究所外から共同利用で利用している大学や研究所の研究者となっている.本センターでは,利用マニュアルをインターネットで公開し,また,初心者の並列計算利用者を対象とした利用者講習会を毎年開催している.なお,2025年3月には次期システムが導入された.
(7) 地震カタログ解析システム等
研究者向け情報としては,日本や世界の地震カタログをデータベース化し,地震カタログ検索・解析システムTSEISを開発し,地震活動解析システムとして公開している.
利用可能な地震カタログは,国立大学観測網地震カタログ(JUNEC) ,防災科学技術研究所地震カタログ,気象庁一元化地震カタログ,グローバルCMT地震カタログ,ISC 地震カタログなどで,多くの研究者に活用されている.また,我が国の地震や世界の地震について気象庁やNEIC などが速報として提供したものを,国内の研究者にメール配信している.気象庁の一元化震源については,そのミラーを行う機器を更新して運用を継続し,大学等の研究者に提供している.
(8) 古い地震記象の利活用
地震研究所には各種地震計記録(煤書き) が推定で約30 万枚ある.この地震記録を整理し利用しやすい環境を作るため,本センターが中心となって所内に「古地震古津波記録委員会」が設置され,1) マイクロフィルム化やPDF等の電子化,2) 検索データベースの作成,3) 原記録の保存管理などが行われている.煤書き記録については,約22 万枚のマイクロフィルム記録のリスト,WEB 検索システム(日本語・英語)を作成し,国内外のユーザーの利用に供している.津波波形記録については,マイクロフィルムと,スキャナーでスキャンしたデジタルデータが津波波形データベースシステムで公開されている.
このほかに,20 世紀の巨大地震の世界各地での地震記象を入手しており,それをスキャンし,画像データとして保存し公開すべく作業を進めている.2024年においては,和歌山観測所の連続記録の画像化を引き続き進めた