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3.8 Center for High Energy Geophysics Research (CHEER)

Fig.5

図3.8.5 (a)大室山の地形を用いた深さごとの再構成イメージ(64方向).(b)ある深さ,ある緯度における密度初期モデルと再構成された密度イメージの比較(Nagahara and Miyamoto, 2018 に加筆).

FIG4

図3.8.4 アップグレードしたリアルタイム透視画像表示システム.第2世代用透視画像表示システム(上)及び第3世代用透視画像システム(下).リニア,ログスケール表示を選択できる.

Fig.3

図3.8.3 跡津川のボアホールに設置した検出器(左),ボアホールを中心とした周囲の地形(中),深さ50mにおける方位ごとのミューオン到来数の比の測定値と,断層の影響を考慮しない場合のシミュレーションによる期待値の比較(右)

FIG2

図3.8.2 2017年1-7月と2018年1-6月の観測で得られた画像の比較.黒点線で囲んだ部分が有意に変化した部分,赤線は昭和火口と南岳中央火口の一部を示す.

3.8.3 国際活動

欧州ライセンス契約

欧州IT事業者と本学との間にミュオグラフィ技術に関するライセンス契約が締結された。

サイエンスアゴラ

ハンガリー大使館並びに欧州連合代表部と共同でJSTサイエンスアゴラに出展した。

産学官共同研究

国内IT事業者、ハンガリー国立機関と本学との間で3者共同研究契約を更新した。

 G空間EXPO2025

日本政府、ハンガリー政府と連携して大型展示や講演会を行った。欧州委員会、ハンガリー政府からも投稿があった。国内外政府関係者、ビジネスリーダー多数が訪問した。

国際メディア報道

Hungarian Today紙など数多くの国際メディア報道があった。

 

3.8.2 ラジオグラフィー解析による研究

(a)ミュオグラフィ画像解析

高精細ミュオグラフィ画像自動診断による桜島火山活動状況の推移との相関評価を進めた。この噴火の推移に伴い、昭和火口の火道がマグマでプラグされた様子が透視画像に映し出された。この成果をベースとして、ミュオグラフィ画像を学習して、噴火判定を行う技術Mu-NETを東大病院と共同開発した。2020年度には、Mu-NETを用いて、2016年から2017年の間に記録されたミュオグラフィ画像を学習して、噴火判定を行った結果、この間に記録された画像と昭和火口からの噴火との間には密接な関係があることが見出された(南岳火口:AUC=0.678、昭和火口:AUC=0.726、その他の場所:AUC〜0.5)。成果を英ジャーナルScientific Reportsに発表した。2021年度は日毎のミュオグラフィ画像データ(高解像度画像)を機械学習(CNN)することで噴火判定を導出する技術(MuNET-2)を開発した。昭和火口から南岳火口に噴火活動が移った2019年以降のミュオグラフィ画像にMu-NET-2を適用した結果、この間に記録された画像と南岳火口からの噴火との間に密接な関係があることが見出された(南岳火口 :AUC=0.761、昭和火口 AUC=0.704、その他の場所:AUC〜0.5)。

これまでにミュオグラフィ連続観測データと衛星SARデータを組み合わせることで、桜島山頂付近の隆起/沈降と噴火の活発期/平穏期との間に負の相関が、また、山頂付近の隆起/沈降と火口底直下の密度の上昇、減少との間の正の相関が徐々に明らかになってきたが、2024年度までにこの相関の火山学的解釈が進んだ。先ず、この正の相関は膨張が密度上昇、収縮が密度低下に対応していることを示している。次に、噴火前の膨張と密度上昇は気泡を多く含んだマグマの注入が弱まることで、火道が冷えマグマの粘性が高まり、火道を閉塞して膨張を引き起こすプラグの形成が開始されたことを示唆している。噴火開始前〜噴火開始直後の収縮と密度低下は、新鮮な気泡を多く含んだ (低密度の) マグマの注入によってガスポケットとマグマプラグが加熱されることにより、プラグの粘性が低下して、これが噴火とともに取り除かれたために引き起こされた可能性を示唆している、この火山学的解釈はSO2放出量変動とも調和的である(図3.8.3)。

(b) 多方向ミュオグラフィによる活火山3次元密度再構成のためのシミュレーションツール構築

ミュオグラフィ研究における重要な課題の一つは,観測方向を増やすことで高い3次元空間分解能を達成することである。静岡県の伊豆大室山スコリア丘を10方向から調査し、高い3次元空間分解能で火山内部のマグマの分岐が可視化された研究(Miyamoto et al., 2022, Nagahara et al., 2022)を、活動的火山に適用する際に実現可能性を評価するシミュレーションツールの構築が進められている。

シミュレーションツールは3次元密度再構成計算を高速に行い、結果を迅速にフィードバックする必要がある。そのため、演算の高速化に長けているC++ベースでコードが書かれた。さらに演算を高速化するためOpenMPによる並列処理化が用いられた。加えて行列計算高速化のためintel MKLライブラリがインクルードされた。また線形代数ライブラリとしてEigenを用いることで、ソースコードの可読性を向上させた。

Voxelとの当たり判定algorithmには、Amanatides et al. (1987) による”A Fast Voxel Traversal Algorithm for Ray Tracing”を実装した(図3.8.4)。これによって、ある方向に感度を持つ検出器の「素子」が作るビームが、山体を仮定したVoxel集合体のどのVoxelをどれだけの長さ通過するか、の行列作成が効率的に行われるようになった。この行列はNishiyama et al. (2014)らによって開発された三次元密度再構成手法に必要不可欠な情報である。

現在、大室山の地形データから先に述べたシミュレーションフレームワークを使った、三次元密度再構成の性能評価が行われている。

(c)  ニュートリノ振動を用いた,地球深部の化学組成・密度構造測定

ニュートリノは伝播中に別のニュートリノに変化することが分かっている(ニュートリノ振動,本学梶田教授2015年ノーベル賞).ニュートリノが他の種類のニュートリノに変化する割合は,ニュートリノと他のニュートリノの質量の差,エネルギー,伝播距離,及び媒質中の電子数密度で一意に決まる.したがって,電子ニュートリノが他のニュートリノに変化する割合を,エネルギー毎に測定すれば,地球内部の電子数密度分布を測定できる.ニュートリノ振動測定で得られた電子数密度と,地震波測定等で得られている物質密度とを組み合わせることにより,地球内部の平均的な化学組成(原子番号と原子量との比)をイメージングすることも可能である.

ハイパーカミオカンデは,次世代のニュートリノ観測装置であり,スーパーカミオカンデの8倍の巨大な有効体積と,高いエネルギー・角度分解能を備える.これを用いることで,地球液体核やマントルの化学組成に制限を与えられることが,これまでの研究から明らかとなっている.ハイパーカミオカンデは,2020年度より建設が開始され,現在,様々な建設作業が行われている.

地震研究所では,ハイパーカミオカンデの主要構成要素である,光電子増倍管からの信号をデジタルデータに変換するための電子回路の設計及び性能評価を,宇宙線研究所ほかと共同で行ってきた.今年度は主に,内水槽側の電子回路の最適化と特性評価,外水槽側の信号読み出し回路・高電圧分配回路の製作と性能評価,及び電子回路の校正装置の設計と評価に取り組んだ (図3.8.5).

電子回路は光電子増倍管の性能を最大限に引き出せる高い性能を持っていることも重要だが,10年以上の長期間故障せずに動作し続けることも重要である.加えて,長期間にわたり検出器の特性が変化しない,または検出器の特性が変化してもそれを検知し補償する機能が必要となる.内水槽用信号読み出し電子回路のベースラインの温度ドリフトを補償する回路変更を提案し,温度ドリフトを大幅に低減させることができた.外水槽側の光電子増倍管は,高電圧印加用のケーブルと信号伝送用のケーブルが兼用となっており,加えて,高電圧は3本の光電子増倍管で共通となっている.1500Vの高電圧バイアスと数mVの光電子増倍管からの信号を同居させて運用できるようにするための分配回路,信号読み出し回路を作成し,統合試験において必要な性能が満たされていることを確認した.

 

 

3.8 高エネルギー素粒子地球物理学研究センター(CHEER)

教授 横山将志(兼任), 田中宏幸(センター長),
助教 宮本成悟,武多昭道,西山竜一(兼任)
特任研究員 OLÁH László
学術支援専門職員 市川雅一

本センターの設置目的は,宇宙線ミュオンやニュートリノ等の高エネルギー素粒子を用いて,これまでにない高い分解能(10-100m程度)で断層や火山などの固体地球内部を透視し,地震・火山現象の解明と防災・減災に貢献することである.そのためには素粒子透視技術(ラジオグラフィー)の一層の高度化が必要となる.とくに素粒子検出デバイス開発に対しては,小型・軽量・低消費電力という野外観測からの要求に応えつつ,一方で空間的にも時間的にも高い解像度を確保することが,世界の中でのリーディング・エッジを今後も確保することが欠かせない.また,一方でこれまでは火山に限定されてきた応用分野を,地震断層等にも広げていくことが望まれてきた.これらのことを念頭に,当センターで進めてきた研究活動を以下に述べる.