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3.1 Division of Theoretical Geoscience

3.1.2 火山現象の数値的研究

(1) 火山噴煙のダイナミクス

爆発的火山噴火の理解を目指し,数値モデルの開発とそれを用いた大規模シミュレーション研究を進めている。爆発的噴火で放出される火山灰の堆積分布は、噴煙の上昇過程と傘型噴煙の拡大過程、大気風による輸送過程によって決まる。それぞれの過程が支配的な領域は互いにオーバーラップするため、統一的なモデルによって再現する必要がある。これまでに開発した3次元噴煙ダイナミクスモデルを大型計算機に実装し、噴火条件や大気条件を替えたパラメータスタディを実施した。噴火条件に関しては、噴出率を時間的に変化させ、より現実的な噴煙再現を目指した。また、大気条件に関しては、圏界面付近で風速が最大となるような現実的な条件を初期条件とした。大規模シミュレーションの結果、大気中における噴煙濃度、火山灰粒子サイズ分布、地表における火山灰堆積物分布データを取得した。これまでの1次元噴煙モデルや火山灰の堆積モデルと比較し、3次元の噴煙からどのように火山灰が堆積するのかを調べた。さらに、いくつかの実際の噴火事例に関して大規模シミュレーションを行い、人工衛星画像や堆積物分布といった観測データとの比較方法を検討した。

3.1.3 大気・海洋現象が引き起こす固体地球の弾性振動現象

大量の地震計・気圧計・水圧計などのデータを丹念に解析し,ノイズと思われていた記録の中から新たな振動現象を探り当て,その謎の解明を目指している.その際,大気-海洋-固体地球の大きな枠組みで現象を捉える事が重要である.

(1) 脈動実体波に関する研究

脈動実体波を全球的に検出するため,新たにauto-focusing法をを開発した.この手法では,波面曲率とスローネスの情報を用いるため,震源の重心位置と外力を精度良く推定することが可能となった.この方法を2004年から2020年までの日本国内の約780のHi-net観測点の地震記録の鉛直成分に適用した.また海洋波浪数値モデルに基づく合成CSFカタログとの比較し,地震波のS/N比が検出を制約するものの,時間的・空間的パターンは概ね一致している事が分かった.例外的に、海洋波浪モデルはカーペンタリア湾の重要な活動を説明できないことも明らかにした.2023年度には,新たにS波脈動の系統的な検出を行い,その励起メカニズムについて議論した.2024年には、auto-focusing法を水平動へ拡張し、S波脈動の系統的な検出を試みた。

本研究は,遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定で きる可能性を示している.地震,観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性 を意味し,地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある.

(2) 2022年トンガのフンガ火山噴火時に発生した海洋外部重力波

トンガの噴火後に水圧計 (S-net, DONET) 記録を解析したところ、周波数に比例して数日の遅れで波群が次々に到来していることが明らかとなった。観測された波群は、海洋重力波の分散関係によって説明可能である。また津波と比較して、水深による影響が少ないために伝播の特性が単純となり、噴火の情報を直接的に記録している事も分かってきた。噴火時に周期100秒付近の成分が欠落しており、この周波数帯の海洋重力波は数時間経ってから励起されていた。これは、噴火時に海水を吹き飛ばし、外向きに広がることによって津波を励起し、短周期の海洋重力波は、表層付近の擾乱起源であることを示唆している (Nishida et al. 2024)。

3.1.1 地震発生機構の研究

(1) 地震発生の単一欠損OFCモデルにおけるGR則出現の条件と新たな相転移現象の発見

地震の大きさは非常に広範囲にわたり、大きい地震ほど発生頻度が低いというGR則が成り立つが、そのメカニズムは未解明である。多数の破壊要素からなる系を一様に載荷していき、どこかの要素の応力がその要素の強度に達したら壊れて自身の応力を隣接要素に分配し、そこでまた応力が強度を超えればさらに隣へと連鎖反応的に一つの地震イベントが成長するという OFCモデル(Olami et al., 1992)は、1つの要素だけが壊れる最小地震から全系が連鎖して壊れる最大地震まで GR則に従う複雑かつカオスな地震活動を生み出す。

既往研究では、OFCモデルが複雑性を生み出す鍵は、 外側境界でのみエネルギーの散逸が大きいという不均質性の存在である。実際、周期境界条件を課して散逸を均一にすると、1要素のみが壊れる小地震だけがばらばらと発生し続ける単調な活動になることが知られている。そこで、本研究では、周期境界条件のOFCモデルに 一箇所だけ散逸量の異なる要素を導入する、つまり最も単純かつ 強さを自由に設定できる不均質性を導入し、その挙動を調べた。その結果、不均質が強い場合には、さまざまな大きさの破壊が発生しGR則が成り立ち、不均質が弱い場合には完全均質な場合と同様に小地震のみがばらばらと発生し続けることが確認された。これは既往研究から予想される通りである。しかし、不均質が中程度の場合には、 系サイズの約1/3が破壊する3つの大地震が、毎回全く同じ破壊域で順番に繰り返す周期的な挙動を示すことが発見された。

このように,不均質の強さに応じて固有地震の繰り返し挙動とGR則に従う複雑な挙動が相転移する本系は、GR則のメカニズムを理解する上で 重要な手がかりとなる可能性がある (Otani & Kame, 2024)。

(2) 断層上の流体が地震発生に与える影響の研究

沈み込み帯や内陸断層で流体移動が地震発生に与える影響をモデリングした。断層の流体圧は摩擦強度を制御し、滑りを引き起こしたり、抑制したりする。室内実験の結果に基づき、流体の浸透率が断層滑りに応答する条件のもとで線形安定性解析を用いて、新しい不安定滑りのメカニズムを発見した。そして、この不安定性が非地震性滑りの形で現れることを数値シミュレーションで実証した。さらに、沈み込み帯を模したシミュレーションを行うことで、スロー地震の時空間的な特徴を説明できることを示した(Ozawa et al. 2024)。

沈み込み帯では沈み込む岩石の脱水変成作用により流体が生成される。これを岩石学的なモデルを用い定量化し、水理学モデルと組み合わせることで、プレート境界における流体圧の空間分布を求めるワークフローを考案し、北米カスケーディア沈み込み帯に適用した。その結果、地震発生帯で有効圧がほぼ一定になり、深部では深さと共に減少することを示した。この結果を元に、摩擦強度と粘性強度を計算すると、地震発生帯以深では、摩擦強度と粘性強度がほぼ同一になり、広範囲の深度で、破壊と流動が共存するという従来の研究とは異なる興味深い結果を得た。しかし、この結果は幅広い温度条件での変形を記録した露頭で普遍的に脆性及び粘性変形の記録が見られるという地質学的な観察事実、及び、スロー地震が脆性と粘性変形が共存する条件で発生するという解釈と整合的である。

3.1 数理系研究部門

教授 西田 究(部門主任)
准教授 亀 伸樹、鈴木 雄治郎
助教 小澤 創
日本学術振興会特別研究員 小野寺圭祐
外来研究員 石井憲介
大学院生 大谷 哲人(M2)

本部門では、地震や火山活動およびそれに関連する現象を理解するために、数学・物理学・化学・地質学の基本原理に基づく理論モデリングの研究を行っており、その内容は多岐にわたる。