「EVIC」カテゴリーアーカイブ
3.12.3 ネットワーク・計算機・データベース
(1) 全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet
各大学や防災科研との共同研究として開発した全国地震観測データ流通ネットワークJDXnetの運用を継続した.JDXnet は,国立情報学研究所(NII) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークSINET,情報通信研究機構(NICT) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークJGN,さらにNTT が提供するフレッツ回線などの地上回線を利用した次世代データ流通ネットワークである.JGNとSINETの広域L2 網を用いてデータ交換ルートを二重化し,安定性と信頼性を高めている. 2024年も,JGNの仮想化サービスを用いてクラウド型データキャッシュサーバを引き続き運用し,災害時などにおけるネットワーク障害に強いシステムの開発を継続した.今後も,各研究機関で地震観測データを安定して利用できる環境を整備し地震学の研究進展に資することを目指す.
(2) 新J-array システム
新J-array システムは,世界の大地震(M5.5 以上,日本付近はM5 以上) の発生時に日本列島で観測された地震波形データを30 分から2 時間の長時間記録として保存したものである.波形データは準リアルタイムで処理しJ-arrayサイトで即日公開している.これまでNEICからのQEDメールを利用した自動化処理を行っていたが,USGSのWebページから地震情報を自動的に収集するシステムを2020年度自動化システムを改良し,2024年度はそのシステムを継続運用した.
(3) 全国地震波形データベース利用システム HARVEST
各大学が収集している地震波形データを全国地震データ等利用系システムサイトに公開し,データの活用ならびに各大学と全国の研究者の共同研究を推進するためのシステムHARVESTを開発し,各大学に提供している.このシステムにより,どこの大学の利用システムでも共通のインターフェースで地震波形データを利用したり,データ利用申請したりすることが可能となっている.2024年においては,各地域の地震活動のみの提供を継続して行った.
(4) チャネル情報管理システム
チャネル情報管理システムは,地震観測点のチャネルID、座標、AD変換装置のパラメータ等からなるチャネル情報を管理するデータベースである.2007年10 月にこのシステムの運用を開始したが,これまでの運用状況やミドルウェアの更新状況等から現行システムの更新は困難と判断し,その運用終了に向けて手順の確認作業に入るとともに,同等のシステムの将来性や必要性について検討を開始した.
(5) 緊急地震速報の伝達と利活用
気象庁の予報業務の許可のもと,東京大学情報ネットワークシステムUTNET やSINET 等のネットワークを利用した学内における緊急地震速報の伝達を行っている.今年は,気象庁による立ち入り検査の対応を行なったほか,学内放送に必要な配信サーバの更新を行なった.また,緊急地震速報放送を開始する閾値を震度4から震度5弱への変更を行なった.
(6) 全国共同利用並列計算機システムの提供
本センターは,全国共同利用の計算センターとして,データ解析やシミュレーションなどのために,高速並列計算機システムを導入し,全国の地震・火山等の研究者に提供している.2020年3月にシステム更新を実施し,現在はHPE ProLiant DL560 Gen10システムが稼働している.このシステムは,計算サーバとして120ソケット(2400Core),22.5TiB メモリ,それらのフロントエンドサーバとして4ソケット(80Core),1.5TiB メモリを有している.この分野の計算需要の伸びは著しく,恒常的に処理能力の限界に近いところまで利用される状況が続いている.システムは,例年毎月平均70 ~ 90 名が利用しており,そのうちの5 ~ 6 割 が地震研究所外から共同利用で利用している大学や研究所の研究者となっている.本センターでは,利用マニュアルをインターネットで公開し,また,初心者の並列計算利用者を対象とした利用者講習会を毎年開催している.なお,2025年3月には次期システムが導入された.
(7) 地震カタログ解析システム等
研究者向け情報としては,日本や世界の地震カタログをデータベース化し,地震カタログ検索・解析システムTSEISを開発し,地震活動解析システムとして公開している.
利用可能な地震カタログは,国立大学観測網地震カタログ(JUNEC) ,防災科学技術研究所地震カタログ,気象庁一元化地震カタログ,グローバルCMT地震カタログ,ISC 地震カタログなどで,多くの研究者に活用されている.また,我が国の地震や世界の地震について気象庁やNEIC などが速報として提供したものを,国内の研究者にメール配信している.気象庁の一元化震源については,そのミラーを行う機器を更新して運用を継続し,大学等の研究者に提供している.
(8) 古い地震記象の利活用
地震研究所には各種地震計記録(煤書き) が推定で約30 万枚ある.この地震記録を整理し利用しやすい環境を作るため,本センターが中心となって所内に「古地震古津波記録委員会」が設置され,1) マイクロフィルム化やPDF等の電子化,2) 検索データベースの作成,3) 原記録の保存管理などが行われている.煤書き記録については,約22 万枚のマイクロフィルム記録のリスト,WEB 検索システム(日本語・英語)を作成し,国内外のユーザーの利用に供している.津波波形記録については,マイクロフィルムと,スキャナーでスキャンしたデジタルデータが津波波形データベースシステムで公開されている.
このほかに,20 世紀の巨大地震の世界各地での地震記象を入手しており,それをスキャンし,画像データとして保存し公開すべく作業を進めている.2024年においては,和歌山観測所の連続記録の画像化を引き続き進めた
3.12.2 地震火山に関するモニタリング研究
(1) 孀婦海山の事象
島嶼部で発生する地震火山津波現象の即時モニタリングのために、2023年10月に発生した孀婦海山周辺での地震活動で発生したT波(海中音波)に着目した。観測波形解析と3次元地下構造を用いた地震波伝播シミュレーションにより、孀婦海山の事象で発生したT波を説明するには震源を海底面下500 m以浅であることが必要で、極浅部の事象が津波に生成につながった可能性を示した。
(2) 浅部スロー地震のエネルギー推定
浅部スロー地震の1種である浅部微動の地震波エネルギー推定の高度化のために、海底地震計下の堆積層構造の影響を検討した.浅部微動は堆積層直下のプレート境界あるいは堆積層下部(underthrust sediment)で発生するため、地震波が堆積層内にトラップされやすく従来の地盤増幅補正だけでは地震波エネルギーを過大評価することを明らかにした。
(3) 相似地震研究
ほぼ同じ場所で繰り返し発生する相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を用いて,日本列島周辺および世界で発生している小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行い,相似地震カタログを作成している.その結果,長期間にわたって繰り返す相似地震群の多くは,沈み込むプレートの上部境界周辺で発生していることが明らかとなった.そこで,相似地震とその周辺で発生する地震活動を用いて,プレート間におけるすべりの空間分布・時間変化の特徴を調べた.2011年東北地方太平洋沖地震の大すべり域周辺において非地震性すべりの時間変化を調べたところ,宮城県北部では現在も余効すべりが継続していることが確認された.一方,その他の地域では,地震後数年の間にほぼ収束したと見られる.2024年2月~3月には,房総半島沖のスロースリップイベントの発生が,2024年8月以降には日向灘地震に伴う余効すべりと見られるすべり速度の増加が見られた。さらに本年は,繰り返し地震発生域で発生する地震活動の情報を用いて,小規模な非地震性すべりが発生した可能性がある場所や期間を,カタログが入手でき次第短時間で調査可能な手法を開発した.2024年のカタログに適用したところ,プレート境界で発生するM5クラスの地震発生に伴うすべり速度の増加が2例示唆された.
(4) 長周期波動場のリアルタイムモニタリングGRiD MT
全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet で提供されている広帯域地震波形データを利用して,震源速報等の地震情報を必要とせずに,地震の発生・発震機構(MT 解)・大きさ(モーメントマグニチュード) をリアルタイムに決定する新しい地震解析システムGRiD MTを開発して,その解析結果をWeb やメールでリアルタイムに情報発信している.現在までに得られた,解析結果についてはGRiD MTウェブサイトで公開している.巨大地震や津波ポテンシャルをW-phaseにより評価するイベント駆動型のシステムを開発し,解析結果を世界中の地震のサイトおよび日本の地震のサイトにて公開している.2024年においては,世界の地震については111個,日本の地震については303個のモーメントテンソル解(VRが70以上)を決定した.
(5) 強震動モニタリング研究
首都圏強震動総合ネットワーク(SK-net)は,首都圏の10 都県の14 観測網から,合計1205 観測点の強震波形データを収集し,公開するシステムである.10 都県のうち2 自治体については,波形収集装置を開発してオンライン収集を,残りの自治体については,オフラインもしくは自治体側で用意したサイトでデータ提供して頂いている.これらの観測網のデータ収集方式やフォーマットはそれぞれ異なるので,一旦共通フォーマットに変換してデータベース化し,加速度,速度,変位のグラフおよび最大値,SI (Spectral Intensity) 値,速度応答スペクトルを SK-netウェブサイトで一般に公開している.オリジナルの波形データは,全国の大学等の研究者の利用を可能にしており,2024年度は32名の利用申請を受け付けた.データは,1999年1月から2025年2月までに収集されたデータを順次利用可能にした.
(6) 地震活動のモニタリング研究
地震カタログデータに基づく確率論的な予測を行うために,CSEP (Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)を世界規模で実施しているSCEC (Southern California Earthquake Center) と連携を図り,CSEP日本テストセンターを立ち上げ,日本における地震発生予測検証実験を実施している.テスト領域として日本周辺,内陸日本および関東地域,テスト期間として1日,3ヶ月,1年および3年毎の合計12のテストのクラスを整備して実験を進めている.
3.12.1 沈み込み帯学研究
(1) 日本列島下の熱構造推定と日向灘プロジェクト
日本列島の熱構造推定のため、既存のデータベースを統合して熱流量マッピングを開始した。また地下水観測井などを利用して新たに熱流量計測を開始し、2点(つくば、掛川)で計測を実施した。南海トラフ西端、日向灘における海山沈み込みと地震発生の関連を明らかにするため、IODP(国際深海科学掘削計画)に掘削提案を提出済で、その実現に向けて事前調査・解析を行った。特に、科研費(基盤S)を開始し、流体の寄与の評価や、スロースリップ検出に向けたセンサー開発をJAMSTEC主導で共同で実施した。そのために、ドイツカールスルーエ大学の博士課程の学生2名を短期インターンとして受け入れた。IODPの最終年にあたり、Facility boardメンバーとして掘削航海提案の実施可否を審査した。またIODPに続く新たな海洋科学掘削計画(IODP3)の最終制度設計に参画した。
(2) 島弧のアクティブ・テクトニクス
プレート相対運動およびマントルダイナミクスに支配された沈み込み帯の長期間地殻変動とメカニズムを解明するには、 数千万〜千年および数十〜百kmの時空間スケールでの変動地形学・地質学・地球物理学的観測を俯瞰的に捉え、沈み込み帯の形成を統合的に理解することが必要である。このため、日本列島を始めとする沈み込み帯縁辺域において、浅部〜深部地殻構造観測とアクティブ・テクトニクスの解明の取り組みを主軸とし、さらに長期間の地形・地質構造発達解明を視野に入れた研究を進める。
2024年度は、2011年東北太平洋沖地震後にM6-7クラスの地震が複数回発生した東北南部前弧域を対象とし、東北日本の地質構造や古応力場等をレビューし、震源断層の地質学的な背景を検討するともに、第四紀後期における地殻活動、地震波トモグラフィ・地震活動の空間分布と地質構造との関係を検討した。
(3) 合成開口レーダー干渉解析から求める東アナトリア断層の摩擦パラメータ空間分布と地震発生評価
東アナトリア断層では近年2020年Elazig地震(Mw 6.7)や2023年Kahramanmaras地震(Mw 7.8, 7.6)が発生し、合成開口レーダー干渉解析により地震および地震後に顕著な地殻変動が発生した。また、東アナトリア断層はアナトリアプレートとアラビアプレートのプレート境界に位置しており、地震間も5-10 mm/yrの速度で左横ずれ断層運動が進行している。
本研究では、2015年から2023年までの合成開口レーダーデータを整理し、東アナトリア断層上の断層すべり分布の時空間変化を考察した。その結果、Elazig地震およびKahramanmaras地震の余効すべりは、これらの地震によるすべり領域をふち取るように発生したことが明らかになった。また、Elazig地震以前には東アナトリア断層北東部で浅部クリープが観測されたが、19世紀のM7級地震の余効すべりであるのか定常的に浅部クリープが発生しているのかは不明である。
得られた断層上のすべりの時空間分布から、断層上の速度強化領域を同定した。このような領域は大地震の破壊開始点にはなりえない。以上の考察や過去の地震記録を統合して東アナトリア断層上の現在の地震ポテンシャルを評価したところ、Kahramanmaras地震の震源域とElazig地震の震源域の間ではM7程度の地震を発生させるのに十分なひずみがすでに蓄積されていることがわかった。
(4) 日本列島の基本場解明:中部日本と能登半島
地震・火山噴火・地殻変動の機構の理解と予測には、これらの現象を生み出す場(温度、圧力-応力、物質場)の解明が不可欠である。火山岩の組成を、地下の温度場と物質場をさぐるプローブとして用い、また沈み込むプレートの運動・マントル対流とそれらに伴う流体発生・移動の数値シミュレーションによる流動場、温度場、流体場の再現モデルを組み合わせ、中部日本下の場を推定した。
中部日本の下には、2つの沈み込むプレート(太平洋プレートおよびフィリピン海プレート)が沈み込むために、マントルウエッジが隣接する地域にくらべて低温であり、沈み込む太平洋プレートの脱水反応がより深部にずれこみ、能登半島下での深部脱水を引き起こしていることが指摘された。また、これらの流体が、地殻浅部での圧縮応力場と重なり、能登半島の隆起運動や地震を引き起こしている可能性が指摘された。2つの海洋プレートの沈み込みによる深部流体の供給、および広域的な圧縮応力場が続くかぎり、能登半島での地震活動・隆起運動は、長期的に継続すると予測される。
3.12 日本列島モニタリング研究センター
| 教授 | 岩森光,木下正高,市村強(兼務),加藤愛太郎(兼務),楠浩一(兼務),古村孝志(兼務) |
| 准教授 | 青木陽介,五十嵐俊博,石山達也,鶴岡弘(センター長),中川茂樹 |
| 助教 | 武村俊介,臼井嘉哉(兼務),白濱吉起(兼務) |
| 特任研究員 | 張春杰 |
| 外来研究員 | 加藤照之,丁開華,室谷智子, 山野誠 |
| 技術補佐員 | 金澤久美子 |
| 大学院学生 | 青山哲也,剣持拓未,松田瑞希,曽小雨 |
| 地震研特別研究生 | 范暁冉 |
2024年4月から地震火山情報センターの改組により日本列島モニタリング研究センターが新たにスタートしました.このセンターでは,日本列島を調査観測・モニタリングし,幅広い時空間に及ぶ多様なデータ・情報に基づいて,地球変動と地震火山活動の理解のための研究を行います.特に,マルチ時空間スケールの変動現象数値モデルを構築し,沈み込み帯学の創生を目指します.なお,ネットワーク・計算機にかかる管理・運用と地震火山に関するデータベース開発等も引き続き行っています.
