図3.8.4 3次元Voxel集合体における Ray tracing algorithm可視化の例。青い直線と当たり判定のあるVoxelは黄色にハイライトされている。(a) 俯瞰視点 (b) Z軸方向から見たケース (c) Y軸方向から見たケース。
「部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ
図3.8.3 桜島火口近傍において得られたミュオグラフィ密度(黒丸)、SAR変位(実線)、噴火頻度(棒グラフ)、SiO2放出量(赤四角)の比較。上から順に南岳火口(a)、昭和火口(b)、それ以外の場所(c)が比較されている。

図3.8.2 石堂断層の予想図(左図中の赤線),観測サイト(中図),検出器(右図)
図3.8.1 桜島における火口近傍の密度構造の時系列変化。
3.9.6 STAR-Eプロジェクト「人工知能と自然知能の対話・協働による地震研究の新展開」
2021年7月より,文部科学省「情報科学技術を活用した地震調査研究プロジェクト」(通称:STAR-Eプロジェクト)の研究課題として,「人工知能と自然知能の対話・協働による地震研究の新展開」(略称:SYNTHA-Seis)が発足した.本研究課題は地震研究所(計算地球科学研究センター,地震発生予測研究センター,観測開発研究センター,日本列島モニタリング研究センター)を中核機関とし,大阪大学大学院基礎工学研究科をはじめとする全国の情報科学・統計科学・数理科学関連の大学・研究機関が参画しており,2026年3月までの約5年間に及ぶプロジェクトである.
今世紀初頭に始まった現在の第三次人工知能ブームは,いまだに止まるところを知らず,地震分野においても深層学習による地震波形データからのP波やS波の検出能力は,時に経験豊かな地震学者の目を上回ることもしばしばである.しかしながら,地震研究において取り扱う地球内部起源の振動現象には,通常の地震以外にも多種多様なものが混在しており,それらを分類しながら検出する人工知能技術は,まだ確立されたとは言えない.また,地震研究においては現象の検出だけではなく,検出された現象の情報に基づく地震活動の時空間分布や地球内部構造等のモデリングにより,地震の発生環境や発生メカニズムの解明を目指すことが地震防災・減災の観点からも重要である.この地震学におけるモデリングでは,「自然知能」と言うべき人間の頭脳によるところがまだ大きく,人工知能が自然知能を凌駕するまでにはまったく至っていない.本研究課題では,「人工知能と自然知能の対話と協働」をテーマに,深層学習と経験者の目による地震・微動検出手法の深化,および人工知能と自然知能による地震モデリング手法の共進化をねらい,地震研究の新展開と地震防災に貢献する.
2024年は,波形信号データを用いて地震波検出を行う深層学習モデルを異なる視点から開発した.第一に,複数観測点から得られる波形を用いた地震波検出手法を開発した.まず,観測点ごとに深層学習モデルを適用し,時間窓におけるP 波,S 波確率を統合することにより地震,ノイズを判別するための特徴量を定義した.さらに,こうした特徴量を用いた地震検出に必要なパラメータ(観測点数および閾値)設定を教師なし学習法の枠組みで行うアルゴリズムを考案した.提案手法は学習データを必要とせず,また,観測点配置に関する制約はなく,極めて汎用性の高い手法である.第二に,Hi-netのデータを使って低周波微動波形のテンプレートカタログを作成するアルゴリズムを開発した.さらに,海底に設置したDASを使って学習データを作成し,DASを使った地震検出,および地震相を同定する深層学習モデルの開発を行った.第三に,モデル予測の不確実性を定量化する初動極性判定モデルの開発と走時読み取りモデルの検出能力向上に取り組んだ.初動極性判定ではPoViT-UQ を開発し,Vision TransformerとMonte Carlo Dropoutを組み合わせることでモデル予測の不確実性を定量化した極性分類を実現し,98%以上の精度を達成した.一方,走時読み取りではモデル学習時のラベルの不均衡問題に着目し,損失関数を改良することで複数の地震波が含まれる波形においても高精度な走時読み取りが可能になった.今後これらのモデルを用いて,高精度な震源メカニズム推定と余震観測データの解析に貢献することが期待される.
文部科学省「情報科学技術を活用した地震調査研究プロジェクト」
https://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/jishin/projects/
令和3年度採択課題:人工知能と自然知能の対話・協働による地震研究の新展開
https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/SYNTHA-Seis/
3.9.6 STAR-Eプロジェクト「人工知能と自然知能の対話・協働による地震研究の新展開」
2021年7月より,文部科学省「情報科学技術を活用した地震調査研究プロジェクト」(通称:STAR-Eプロジェクト)の研究課題として,「人工知能と自然知能の対話・協働による地震研究の新展開」(略称:SYNTHA-Seis)が発足した.本研究課題は地震研究所(計算地球科学研究センター,地震予知研究センター,観測開発基盤センター,地震火山情報センター)を中核機関とし,大阪大学大学院基礎工学研究科をはじめとする全国の情報科学・統計科学・数理科学関連の大学・研究機関が参画しており,2026年3月までの約5年間に及ぶプロジェクトである.
今世紀初頭に始まった現在の第三次人工知能ブームは,いまだに止まるところを知らず,地震分野においても深層学習による地震波形データからのP波やS波の検出能力は,時に経験豊かな地震学者の目を上回ることもしばしばである.しかしながら,地震研究において取り扱う地球内部起源の振動現象には,通常の地震以外にも多種多様なものが混在しており,それらを分類しながら検出する人工知能技術は,まだ確立されたとは言えない.また,地震研究においては現象の検出だけではなく,検出された現象の情報に基づく地震活動の時空間分布や地球内部構造等のモデリングにより,地震の発生環境や発生メカニズムの解明を目指すことが地震防災・減災の観点からも重要である.この地震学におけるモデリングでは,「自然知能」と言うべき人間の頭脳によるところがまだ大きく,人工知能が自然知能を凌駕するまでにはまったく至っていない.本研究課題では,「人工知能と自然知能の対話と協働」をテーマに,深層学習と経験者の目による地震・微動検出手法の深化,および人工知能と自然知能による地震モデリング手法の共進化をねらい,地震研究の新展開と地震防災に貢献する.
2022年は,波形信号データからの地震波検出に向けた深層学習モデルの開発に着手し,既存モデルの改良を行うことにより,検出精度を大幅に向上させることが可能であることを示した.また波形画像データからの低周波微動検出に向けた深層学習モデルの構築を継続実施した.現在のようなデジタル記録以前においては,地震波形データはペンによって振動を連続的に記録紙に直接書き記したドラム式のアナログ紙記録として保存されていた.数十年〜数百年という地震発生サイクルの時間スケールを考えると,過去の地震波形データにスロースリップイベントに伴う低周波微動が記録されているかどうかを詳しく調べ,その特徴をさらに明らかにすることは,地震学において当然検討すべき重要課題である.本研究において開発した学習済みの畳み込みニューラルネットワーク(Kaneko et al., 2021)にHi-netデータから生成した大量の画像データを学習させ,本研究所が約50年前に運営していた和歌山観測所熊野観測点で1966〜1977年に得られた紙記録に適用したところ,当時の低周波微動を多数検出することに成功した(Kaneko et al., 2023).今後は最新鋭のGPU計算機を利用した大規模学習によって畳み込みニューラルネットワークを強化し,昔の微動カタログを充実させていく予定である.
文部科学省「情報科学技術を活用した地震調査研究プロジェクト」
https://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/jishin/projects/
令和3年度採択課題:人工知能と自然知能の対話・協働による地震研究の新展開
https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/SYNTHA-Seis/
3.9.5 災害復旧時の社会経済分野における大規模数値解析手法の開発に関する研究
企業,家庭,銀行などの経済主体は,他の経済主体やライフラインなどのインフラストラクチャと密接な依存関係を持って機能しているため,これらの経済主体の集合である経済システムは大地震などの局地的な自然災害に対して脆弱となりがちである.そのため,大規模な災害に対する復旧計画を立案する際には各経済主体間の依存関係を考慮することが望ましい.このような分析においては,個々の経済主体を時系列で自律的に動くエージェントとしてモデル化しその相互作用を陽に解像するエージェントベース経済シミュレータが適しているが,数億エージェントからなる大規模経済においてはシミュレーションコストが膨大となり災害復旧の分析に適用するための課題となっている.
この課題を克服するため,計算地球科学研究センターでは多数のCPUを搭載した分散メモリ型並列計算機において高速実行可能な,高性能計算に基づく高分解能エージェントベース経済シミュレータ(HP-ABES)の開発を進めている.消費者行動・経済ニーズ・商品やサービスのコストは都道府県毎に大きく異なる可能性がある.そこで2023年においては日本経済を47都道府県経済の集合体としてシミュレーションするようにHP-ABESを拡張することで都道府県毎に異なる経済活動が可能となるようにした.2024年においては,都道府県・国・研究機関のデータを分析することで,47都道府県の経済シミュレーションを実施するために必要な初期パラメータを特定した.データの入手の困難さ・データの不整合・都道府県間の輸出入データの不在などの原因でこれらのパラメータ同定は簡単ではなかったが,さまざまな制約条件を用いて都道府県データと全国データとの不整合に対処した.ここでは,各都道府県の輸出入データ(47都道府県×104項目×2方向)を入力として制約付き最適化問題を解くことにより,各都道府県間の輸出入データ(47都道府県×47都道府県×104項目×2方向)を作成した.2015年から2018年までの全国経済を47都道府県経済の集合体としてシミュレーションしその結果を全国の経済指標と比較することで,開発手法を検証した.入手可能なデータが限られているため各都道府県レベルでの手法検証は現在も継続中であるが,このモデルにより地理的に異質な経済状況を捉えることができるようになり震災後の経済シミュレーションをより正確に実施できるようになると期待される.

西之島における近年の噴出物の全岩化学組成(SiO2およびMgO含有量)の時間変化.白抜きシンボルは降下火砕物,それ以外は溶岩.
3.11.7 テレメータ室の活動
(1) テレメータシステムの運用管理
観測開発研究センターの地震・火山観測網で,地震波形データをはじめとする,各種リアルタイム観測データの伝送および連続収録を行うテレメータシステムの運用管理を継続している.研究者が目的に応じて接続するセンサーの連続データを,途切れなく伝送し収集・提供するとともに,一部イベント収録処理も行う.伝送手段としては衛星通信(VSAT)や,光回線・ISDN・・モバイル通信・無線LAN等,最新の通信技術を取り入れた各種IP通信回線を利用している.管轄する観測点は地震・火山合わせて約200観測点である.特に衛星通信については,全国の大学の共同利用設備として,VSATシステムのハブ局を東京と長野の2か所で運用し,140局のVSATの維持管理を行い,地上回線の利用が困難な山間僻地や離島での機動的な観測研究に貢献している.2024年12月から新しい衛星通信システムを用いた試験観測を開始した.観測点からフレッツ系およびモバイル系回線でデータをSINETのデータセンタ(長野,松江)へ直接収集して直ちにJDXnetに乗せる,耐災害性の高いデータ伝送システムを運用継続し,2024年度末には,地震予知総合研究振興会等の観測点を含め合計243点に対応した。
(2) 全国の大学を含む各機関とのデータ交換システムの運用管理
リアルタイム観測データの全国的な流通のため,各大学や日本列島モニタリング研究センターと協力して,高速広域網新JGNとSINETのそれぞれ L2VLANサービスや,フレッツ系回線等を利用し,全国の大学等を結ぶJDXnet(Japan Data eXchange network)を構築・運用管理している.また,地震観測に関係する全国の大学を代表して,東京大手町に防災科研が設置したTDX(Tokyo Data eXchange)を介した,気象庁・防災科研等他観測機関とのリアルタイムデータ交換の窓口の役割を果たしている.そのために,TDX,衛星通信ハブ局 等の拠点間を接続する延長約300kmの光ファイバー通信網を構築・運用管理している.これらの高速広域ネットワークにより,全国の研究者が様々な機関 の約2000観測点ものリアルタイム観測データを研究利用することが可能になっている。
(3) 収集データの利用支援
テレメータシステムやデータ交換システムによって収集されたデータは,所内ネットワークやインターネットを通じて所内外の研究者に提供される.それ には収録済みデータのオンライン利用やオフライン利用(テープの再生等)とともに,インターネットやJDXnetを介したリアルタイム配信サービスも含まれる.これら所内外の共同利用ユーザーに対する技術的および手続き面での支援を行っている.また,大規模連続地震波形データ解析及びモニタリングシステムを運用してこれまでに蓄積されたすべての地震データの解析環境を提供している.このシステムは記憶容量1.6ペタバイトのディスクアレイを有し,地殻活動モニタリングシステムとハードウェアを統合している.地震波形データについては,地震研究所の保有する1989年からのデータ584TB及び臨時観測等のデータ319TBが本システムに格納された.