
図3.8.2 2017年1-7月と2018年1-6月の観測で得られた画像の比較.黒点線で囲んだ部分が有意に変化した部分,赤線は昭和火口と南岳中央火口の一部を示す.
図3.8.2 2017年1-7月と2018年1-6月の観測で得られた画像の比較.黒点線で囲んだ部分が有意に変化した部分,赤線は昭和火口と南岳中央火口の一部を示す.
図3.8.1 軽量高解像度第3世代ミュオグラフィ並列観測システム.
霧島山に関してはこれまでの本センターの研究により以下のような知見が得られている.
新燃岳における微弱な火山性微動の長期活動の解析を行った.2008年8月の水蒸気爆発以降の約8か月間微弱な微動がほぼ同じレベルで継続していたことと,2010年10月から2011年噴火に向けては,顕著に振幅の増加が進んだこと,2017年噴火の数か月以上前からも振幅の加速的増加が発生し,2018年噴火まで続いていることが明らかになっている.この微動の成長期は,深部マグマだまりの膨張を示す地殻変動も発生していること,その震源は新燃岳火口近傍の2 km以浅にあると考えられることから,噴火前の長期的なマグマ移動に伴う振動であると解釈される.また,2011年噴火の主噴火発生後の調和型微動については,非線形振動系を示唆する 特徴が抽出され,流体の流れが励起する振動であることが示されている.
稠密なGPS観測網により,霧島新燃岳の2011年1月噴火に関与するマグマ溜りの位置や,噴火前の蓄積レート,噴火に伴う流出量,噴火後の再蓄積レートが詳細に求められている.また,2018年3月に発生した7年ぶりのマグマ噴火に先行する蓄積レートも求められている.このようにマグマ溜まりへのマグマ蓄積の時間変化を長期間にわたって精度よく捉えることで,マグマ蓄積と 噴火発生の関係が解明されつつある.
霧島山新燃岳の火口近傍で観測された広帯域地震計,傾斜計により,2011年噴火活動初期の準プリニー式噴火,マグマ湧出期,ブルカノ式噴火という異なる火山活動に伴う火道浅部に起因する傾斜変動を捉え,これらの火山活動に関連する火道浅部のプロセスに関する詳細な知見が得られている.また,2017年10月の再噴火発生から2018年のマグマ噴火までの噴火については,火口近傍の広帯域地震記録から抽出した傾斜成分の解析により,噴火に先行する膨張と噴火後の収縮の時定数が推定されている.
火山性地震活動特性の把握のため,機会学習を利用した地震検出及び震源位置推定手法の開発を進めた.過去に様々な火山で観測された火山性地震の波形記録を教師データとした学習モデルを構築し,この手法を霧島山地震観測網の2017年以降の波形データに適用した結果,新燃岳や硫黄山浅部においてごく微小な火山性地震が多数検出され,高精度に震源位置が推定された.2017年から2018年の噴火の際には,数か月先行して,火口浅部で地震活動の高まりがみられることが明らかになった.
霧島山御鉢火山13世紀高原噴火で発生した苦鉄質マグマによる3回のサブプリニー式噴火の堆積物層序を再構築し,この噴火の噴出量を再検討した.また層序毎の火砕粒子の粒子物性(粒径分布,みかけ密度,連結空隙量,粒子形状指数など)と岩石組織(空隙構造,気泡サイズ分布など)の定量化を進め,これらのパラメータが層序毎に系統的に変化していることを明らかにした.これらのデータにより,高原噴火の推移と噴火強度の盛衰について,従来よりも詳細に議論することが可能となった.この研究により,粒子物性-岩石組織の統合解析が噴火プロセスの理解に有効であることもわかった.
富士山に関してはこれまでの本センターの研究により以下のような知見が得られている.
深部掘削で得られた試料の岩石学的検討により,先小御岳火山,小御岳火山,富士火山はそれぞれ独自の化学組成上の特徴をもち,安山岩組成の小御岳から段階的に富士の玄武岩組成の火山へと変化してきたことが明らかになった.一方,古期後半のスコリア層のメルト包有物を主体とする解析から,富士山の浅部深さ4-6㎞付近には安山岩質の小マグマ溜りが存在し,深部の主玄武岩質マグマ 溜りから上昇したマグマとこの安山岩質マグマとが混合することによって富士山の噴出物が生じているとするモデルを提案した.さらに,新期のスコリア層の解析により,新期では安山岩質マグマ溜り内のマグマがやや分化し,よりSiO2に富む組成となっている可能性を指摘した.宝永の噴火で想定されているデイサイト質小マグマ溜りはこのような浅部マグマ溜り内のマグマがより分化し高いSiO2 量となったものと解釈される.この他,物質科学系研究部門が中心となって企画した富士山起源火山灰層のデータベース構築計画を同部門と連携して進めている.
富士山においては,過去に発生した低周波地震の震源分布や岩石学的な考察から地下15-20km付近にマグマだまりがあると推定されていたが,地震学的手法であるレシーバ関数解析により,富士山周辺の数10kmまでの深さの地震波速度の不連続構造が明らかになった.その結果,富士山下40-60kmの深さに南北に沈み込む顕著な速度境界面があり,富士山直下でその境界面は不連続になっていること,また,富士山下で火山性の低周波地震が発生する地下10-20kmの領域の下およそ25kmの深さに顕著な速度境界面があることが示された.さらに,レシーバ関数と富士山周辺の表面波分散曲線を合わせて逆解析することで富士山直下の深さ約50km以浅のS波速度構造が明らかになり,富士山直下の深さ20kmから40kmの深さに大きなマグマ溜まりが存在する可能性が示されている.このような研究に加えて,富士山の各所にボアホール型を含む地震計,GNSS,傾斜計,歪計,全磁力計等を設置し,定常的な活動観測を行っている.
富士山のような標高の高い火山では,冠雪期に噴火が発生した場合,融雪による大規模な泥流が発生する可能性がある.この現象は甚大な被害をもたらすため,監視技術の開発が必要である.山梨県富士山科学研究所と協力し,冬季の富士山という厳しい環境の中で効率よく監視を行う地震・空振観測手法の開発を進めている.また,温度プローブを用いた鉛直温度分布を計測することにより,降雪や融雪の時間変化を把握する新たな観測手法を考案した.
富士山深部深さ15km付近に発生する低周波地震について、2003年1月から2019年7月までの富士山周辺16観測点での連続地震波形記録に対してマッチドフィルター法を適用し、気象庁一元化震源カタログの約3倍の数に相当する約6000イベントの低周波地震を検出した。検出された低周波地震活動の時系列に対して、地震活動を予測・評価するETAS(Epidemic Type Aftershock Sequence)モデルを適用した結果、2011年3月11日東北沖地震(M9.0)の4日後に富士山麓で発生した静岡東部の地震(M6.4)の後、低周波地震活動が活発化したことが明らかになった。また、活動レベルは静岡東部の地震前のレベルに戻っておらず、富士山のマグマシステムが変化したことが示唆される。
伊豆大島に関してはこれまでの本センターの研究により以下のような知見が得られている.
フィリピン海プレート北縁にある伊豆大島では,フィリピン海プレートと日本列島のプレートが伊豆半島北縁で衝突していることにより,その周辺の広域応力場は,北西―南東方向に圧縮場,北東―南西方向に伸張場が卓越している.このように水平方向に伸張と圧縮の双方に大きな応力場が卓越する火山では,岩脈(ダイク)の貫入や側噴火(山腹噴火)がしばしば発生する.伊豆大島においても側噴火火口が圧縮軸方向に延び,山頂を中心に島内だけでなく,海底においても島の北西延長に火口丘がいくつかあり,それは静岡県伊東市沖まで続いている.前回の1986年の噴火では,大規模なダイク貫入により山腹割れ目噴火が発生し,一部の溶岩流が住居地域に近づいたため,全島民が避難する事態になった.伊豆大島のような火山島においては,カルデラ内にある山頂で噴火する場合と異なり,居住地近くで噴火を引き起こす山腹噴火の発生予測は火山防災上の大きな課題を抱えている.また,山頂噴火と山腹割れ目噴火の噴火様式の差は何が作るのかを解明することは火山学的にも極めて興味深い研究テーマであり,同様の地球物理学的環境にある三宅島,伊豆東部におけるダイク貫入現象も併せて研究を進めている.これまで,地震活動と地殻変動の同時解析から,これらの地域でのダイク貫入現象について多くの知見が得られている.
1986年11月の前回の噴火から既に30年以上が経過し,更にその前3回の中規模噴火から始まる一連の噴火活動の開始が1876年,1912年,1950年と36~38年間隔で規則的であったことから,次の噴火に近づいていると考えられる.伊豆大島と同様に,噴火間隔が比較的規則的で,山腹噴火も繰り返す三宅島との比較が重要であることから,2017年12月25日~26日に地震研究所共同利用研究集会「次の伊豆大島・三宅島の噴火について考える」を開催した.これを契機に,文部科学省委託研究「次世代火山研究推進事業」の中で三宅島でも機動観測を実施し,観測開発基盤センターと協力しながら,両火山を比較検討して研究を進めている.
伊豆大島では前回の一連の噴火活動(1986年11月~1990年10月頃)以降,1990年代半ばまで山体が収縮していたが,1990年代後半から山体膨張に転じ,その後は長期的には山体膨張が継続している.これは,火山の地下でマグマが蓄積していることを示している.2003年から地震観測網の高度化及びGPS観測網の構築を行い,地震活動及び地殻変動の時間変化が詳細に観測できるようにした.その結果,以下のような特徴が明らかになった.1)長期的にはマグマ蓄積が進み,山体膨張が進んでいるが,その中に1~3年間隔で収縮と膨張を繰り返している.2)マグマ蓄積の圧力源は,ほぼ同じ場所で膨張と収縮を繰り返していると推定され,伊豆大島カルデラ内北部地下約5kmの場所であると推定される.このような間欠的な山体膨張・収縮の原因,噴火へ至る過程の解明が課題である.地震活動と地盤変動の関連については,大変興味深い現象が見いだされており,それについては開発観測基盤センターの項で詳述する.常時微動を用いた地震波干渉法により2003年以降の島内地震波速度構造の時間変化を推定した結果、間欠的な山体膨張・収縮と時間的に相関した地震波速度の減少・増加が検出された。これは、膨張・収縮に伴い火口浅部域に励起されたひずみ変化に対応した火山浅部の速度構造変化と解釈される。地震や地殻変動などの観測項目に加えて地震波速度構造の時間変化をモニタリングすることにより、次の噴火の予測精度向上が期待される。
伊豆大島では,比抵抗ならびに全磁力等の電磁気連続観測を実施している.比抵抗連続観測は人工電流源を用いたCSEM法に基づくもので,火口の南および北東に2つの電流送信局と,火口周辺に5点の測定点を設置している.その結果,浅部から深部に向かって,高比抵抗-低比抵抗-極低比抵抗のおおむね三層構造からなることがわかった.また,連続観測により,帯水層上面の昇降によるものと考えられる年周変動が確認された.また,島内9点における全磁力連続観測からはここ数年,火口近傍の帯磁傾向の鈍化がみられる.なお,この他にも直流法比抵抗測定,地磁気3成分,ならびに,長基線電場測定の連続観測も引き続きおこなっている.
伊豆大島では,これまでおよそ100~150年おきに大規模な噴火(噴出量1億トン以上)が発生している.これら歴史時代の代表的な大規模噴火について,地質学的,物質科学的研究を進めている.最新の安永噴火については,新たな層区分を提案するとともに,層序毎の岩石鉱物化学組成・組織の特徴を明らかにした.その結果,しだいに斜長石斑晶に富むマグマが噴出したことや,それに対応した噴火強度やマグマ噴出率(噴煙高度)の変化など,マグマの特徴と噴火推移の詳細が明らかになってきた.他の噴火についても同様の解析を進め,伊豆大島の大規模噴火の特徴や共通性,それらの原因を明らかにする研究を進めている.