3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

 本センターでは,火山噴火予知研究センターと密接に協力しながら,浅間山・伊豆大島・富士山・霧島山・三宅島の 5火山において,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目観測を行っている.また,その他の火山においても,他機関との協力により様々な観測を実施している.ここでは観測作業の詳細を報告し,観測の狙いや成果に関する詳細については火山噴火予知研究センターからの報告に譲る.

 (1) 浅間山

広帯域地震,短周期地震, GPS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の定常/臨時観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では無線 LANの中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,地震研まで光ファイバーを利用した高速回線を用いて伝送されている.山頂観測点は光ファイバーに直結している.また,観測点の通信状況などに応じて VSATやフレッツ回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

 2013,2014年度には観測点の新設・廃止はなかった.唯一,火口西方のKZAW(鹿沢)観測点が地主の事情により移設が必要になり,2013年11月に移設作業を完了した.

 他の観測点は例年並みの稼動状況であった.山頂付近のKAE(火口東),KME(釜山東)は大・小規模の雷害が発生している.2013年度から2014年度にかけて,それぞれ1度ずつ,ロガー,センサー,電源,通信機器等の大規模交換が必要な大きな雷害を受けた.KMS(釜山南)でも雷で破損したプロトン全磁力計の交換を行った.火口の東側と北側の2か所に設置されたミュオン観測点は2014年7-8月に相次いで雷の被害を受け,復旧準備中である.KMN(釜山北)は設置後初めて大きな雷害に合い,センサー・ハブ・ロガーの交換を行った.火口西側のYUN2(湯の平)では,雷や積雪の影響による欠測がしばしば発生する.リモート操作で復帰する場合もあるが,現地作業が必要な場合もあり,アクセスの難しさから他の点よりも欠測期間が長い.AVO(浅間観測所)では地下観測点の電源の老朽化が目立ってきており,漏電ブレーカーの交換や配線の交換を進めている.

(2) 伊豆大島

24点の地震観測点と 14点の GPS観測網による観測を行っている.内 4点は広帯域地震観測を行っている.また,全磁力の連続観測に加え,能動的な比抵抗構造探査手法である ACTIVE観測を行っている.来るべき活動に備えて,空振観測網の整備も検討されている.三原山山頂付近では無線 LANを通じてデータを伊豆大島観測所に集約し,その後フレッツ回線を用いて東京まで伝送されている.山麓の観測点の多くはフレッツ回線を通じて直接東京までデータ転送を行っている.

 今年度も雷による障害が発生しロガー・センサー・通信機器を交換した.ロガー交換は8か所(OKA, OVB, OKU, HBM, MBB, NR3, YOR, KSG),センサー交換は2か所(OKL, MHR)で行った.また,MBSは観測を終了し,地震計を引き揚げた.各観測点の耐雷用放電素子の交換を少しずつ進めている.

ACTIVEは測定を開始したものの,通信や電源が不安定で,機器の修理を繰り返している.また,ソーラーパネルの劣化が進んでおり,大規模な改修が必要である.

(3) 富士山

 10点の常設地震観測網を主体とした地震活動観測を行っている.内 5か所は地表設置型広帯域地震計, 3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には 3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々なテレメータ方式が用いられている.

 ほとんどの観測点に置いて携帯データ通信網によるデータ伝送の切り替えが終わっており,HSO(細尾野)でやや不安定が残るものの他の観測点は概ね安定した通信が行われている.富士山周辺で,唯一VSATによる伝送を行っている観測点NHOW(日本ランド)において厳冬期に欠測が見られたが,リップルの少ない電源に交換することで解決できることがわかり,交換予定である.

 OSWA(大沢崩れ)観測点は2013年3月の雪崩により観測点が流失し,代替観測点の再設置に向けて現地調査を進めている.

 FUJ(富士宮)観測点では,周囲の樹木の成長に日照不足により欠測が頻発したが,パネルを追加して以降欠測は無い.ただしパネルは仮設置状態であるため,ソーラーパネル架台の新設にむけて現地調査を進めている.

(4) 霧島山

2011年1月の霧島・新燃岳噴火を受けて周辺の観測点が強化された.2014年度も新燃岳の活動は継続しており,観測網の維持を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・海半球センター・鹿児島大学などとの協力のもとに進められている.

 SME(新燃東)観測点は現地収録点であったが,携帯データ通信によるテレメータ方式への交換が終わり,安定してデータが送られている.

 SMN(新燃北)付近には無人ヘリにより設置されたGPS観測点があったが,機器の寿命を迎えたため,定常点化するための準備作業を進めている.

新燃岳北西約 10kmに位置するマグマ供給源付近の震源の精密決定および速度構造推定を目的として広帯域地震計による臨時観測を行っていたが,活動度の低下に伴い,地震観測網を大幅に縮小し,6か所に観測点を撤去した.臨時点の内,SNが良く震源決定精度の向上への寄与が大きい観測点については今後も観測を継続することとした.また,EBS(烏帽子)観測点付近に臨時で設置した傾斜計も観測を終了し,撤去した.

2014年8月にえびの高原付近の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,傾斜計の変動も観測されたため,2014年10月より気象庁は硫黄山周辺に立ち入り禁止区域を設定した.震源決定精度向上のため,震源域のほぼ直上に当たる韓国岳山頂に広帯域地震観測点を新設し,観測を開始した.

(5) 三宅島

三宅島の多点電磁気観測網の整理を進めている.また,無人ヘリによる空中磁気測量を行い,中腹の周回道路内側全域にわたって磁化強度分布を推定した.今後の繰り返し観測でマグマの上昇による温度変化を検出するための基準となるデータである.

(6) その他の火山

桜島は活動が活発化しており,近い将来の大規模噴火発生の可能性もある,要注意火山である.桜島において,無人ヘリを用いて火口近傍に地震計,GPSを設置し,観測を継続している.今年度は,山頂付近の地震計とGPSの回収および再設置を行うとともに,桜島南斜面の安永火口内に初めて空振計を設置し,火口近傍での空振観測に成功した.これらの観測は,火山噴火予知研究センターとの協力の下に実施されている.

 桜島では「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について(建議)」に基づく火山噴火予知研究の一環として全国の関係機関の協力による人工地震探査を毎年行なわれており,地震研も毎年参加・協力を行っている.

 北海道・樽前山と有珠山において,無人ヘリによる空中磁気探査を行った.これは,繰り返し観測により,火山山体の熱構造の変化を検出することを目指している.過去のデータとの比較により,山頂溶岩ドーム下での温度変化が進行していることが確認された.この観測は,観測開発基盤センター,北海道大学および火山噴火予知研究センターと協力して実施している.

 2014年は草津白根山の地震活動の高まりや御嶽山の水蒸気噴火が発生した.東工大と名古屋大学に広帯域地震計とロガーを貸し出し,観測を支援している.