3.4.2 鉄筋コンクリート構造物の実験と耐震性能評価

(1) 基礎底面の滑動による地震入力逸散機構に関する研究

過大な地震動に対して建物基礎底面での滑動による入力逸散効果を利用する実用的かつ経済的なフェールセーフ機構の検証を目的にして,2011-12年に実験的研究および解析的研究を行った.2011年4月には静的すべり試験,2011年11月には動的すべり試験により,コンクリートとコンクリート,コンクリートと薄い鋼板におけるすべり性状を明らかにした.2012年7月および11月にはさらに摩擦係数を0.1程度以下にまで低減しうる接合部詳細を開発して静的実験および動的実験により検証した.また,上部構造と基礎すべり系の地震応答解析を行い,基礎すべりの復元力特性の形状や速度依存性などが上部構造の応答に与える影響を検討した.

 (2) 鉄筋コンクリ-ト造立体架構実験によるスラブ協力幅の検討

2011年1月~2月に超高層建物の立体架構試験体の静的加力実験2体を実施した.柱端・梁端にピンまたはピンローラー支承により中間階を模擬して梁軸のびを許容した試験体と加力方法が従来にない特徴であり,中間階を想定した架構復元力特性,とくに終局耐力に対するスラブ筋の効果が十分に小さい層間変形角レベルでも全幅有効となりうることを実験的に実証した[[図3]].さらに,試験体のFEM解析等により,実験におけるスラブ有効幅のメカニズムを明らかにした.2012年6月には2体目の加力後の試験体に対してエポキシによるひびわれ補修を実施して再度載荷実験を行い,初期剛性は70%程度,降伏耐力,終局耐力および靭性はほぼ100%回復しうることを確認した.2013年にはスラブの効果が直接比較可能なスラブ付き試験体とスラブなし試験体による架構実験,2014年にはボイドスラブ,端部スパン,下端スラブ筋定着方法などの影響を明らかにする架構試験体2体の実験を行い,保有水平耐力算定におけるスラブ協力幅の評価法の改定案を提案した.

[図3.4.3]

(3) 袖壁付き柱を有する鉄筋コンクリ-ト建物の耐震性能評価法に関する研究

2007年度より2011年3月まで複数年計画で袖壁付き柱を有する鉄筋コンクリート建物を対象にして,1) 袖壁付き柱部材の強度と靭性,残存軸耐力,損傷と変形の関係を実験的に明らかにすること,2) 袖壁付き柱の復元力特性,とくに最耐力以降の耐力低下を評価しうる解析モデルの有効性を検証すること,3) 袖壁付き柱の強度と靭性,残存軸耐力,損傷の実用的な評価法を提案すること,4) 袖壁付き柱を含む構造物の耐震性能評価手法,耐震診断法の妥当性を解析的に確認すること,を目的にして実験的研究および解析的研究を行った.せん断強度累加モデル,曲げ終局限界の評価モデルおよびASFIモデルにより強度および靭性,復元力特性の実用評価法を提案して,実験結果との適合性を検証した.

(4) 構造物の崩壊荷重に基づく津波荷重の評価法に関する研究

本研究では津波によって崩壊する建築構造物に作用する津波荷重の評価法の精度を水理破壊実験より検証した.東日本大震災では鉄筋コンクリート造建築物が津波により倒壊や転倒する構造被害が確認されたが,津波荷重は地震力とは分布や継続時間が異なり,浮力も作用するため,被害結果のみから崩壊過程を推察することは困難である.一方,従来の水理実験では荷重計による計測が一般的であり,津波によって建築構造物が崩壊する場合の津波荷重は検証されていない.そこで, 2013年9月には1/15相当の耐力が異なる建物モデル3体の水理破壊実験[[図4]],同じ設計の試験体3体の静的加力実験を行い,波圧の測定とともに静的な崩壊荷重にもとづいて構造物の崩壊に影響する津波荷重の分布および継続時間等を検証した.

[図3.4.4]

(5) 倒壊限界と地震動被災を考慮した津波による建物の崩壊メカニズムに関する研究

本研究では建築構造物が津波によって倒壊するときの津波荷重の評価法を水理実験および解析により検証する.東日本大震災では津波による建築物の倒壊被害がみられたことから,被害事例の調査および過去の水理実験における計測波圧最大値などにもとづいて津波避難ビルの設計荷重が提案された.しかし,被害事例や従来の実験では一般性に限界があり,荷重側で分布,時刻歴,浮力の影響,構造物側では倒壊限界の評価に加えて,構造物形状,地震動による損傷の影響なども考慮する必要がある.2014年10月にはピロティ建物の1/8試験体3体の水理実験を実施して,ピロティ構造に作用する津波荷重の評価法,地震動による損傷が倒壊限界に与える影響を実験的に検証した.

(6) 梁の曲げ挙動に対するスラブの協力幅評価法に関する部材実験

現在,建物の崩壊形としては,全ての梁端と1階柱脚に曲げ降伏が生じる全体崩壊形が推奨されている。この崩壊形は,建物全体で地震のエネルギーを吸収するため,効率がよい。しかし,梁にはスラブがとりついており,このスラブ内の鉄筋などが梁の曲げ挙動,例えば曲げ終局モーメントに影響を与える。曲げ終局モーメントの上昇は,建物全体の強度上昇につながるため有利となるが,個材で見ると,梁のせん断破壊を誘発する危険性がある。そこで,せん断余裕度とスリットつき腰壁の有無をパラメータとしたスラブ付き梁試験体を6体製作し,部材実験を実施した。その結果,比較的早期にスラブ全幅が梁の曲げ終局モーメントに対して有効となること,スラブ圧縮側でも若干曲げ終局モーメントが上昇すること,しかし,従来の片側1mの幅でのスラブ筋を考慮した曲げ終局時せん断力に対して1.1倍のせん断余裕度を確保しておけば充分な変形性能が得られることを明らかにした。

(7) 非構造壁を有する梁の構造性能評価法に関する研究

多くの鉄筋コンクリート造建物は,腰壁や垂れ壁といった非構造壁を有している。これらの壁の多くは,建築基準法施行令の耐力壁の規定を満足しておらず,非構造壁として分類されてきた。この非構造壁は構造設計においては無視されるか,柱との取り合い部分に数cmの隙間(構造スリット)を設けて構造部材と完全に分離している。しかし,これまでに構造スリットを有するあるいは有しない腰壁・垂れ壁が梁の構造性能に与える影響は検討されてこなかった。そこで,非構造壁の有無,構造スリットの有無,および入力せん断力の大きさなどをパラメータとした部材実験を実施し,破壊性状の違いを確認し[[図5]],合理的な数値も出るかの方法を提案した。

[図3.4.5]