3.2.2 精密な重力観測に基づく研究

(a) マグマ・地下水等の流体移動を,重力変化から検知する観測研究

地震・火山活動に伴ってマグマや地下水などの地殻内流体が移動すれば,質量分布が変化する.したがって重力変化に地殻変動の補正を施すと,地殻内流体が地震・火山活動にどのように関わっているかについて手がかりが得られる.そこで,測地重力グループは絶対重力測定と相対測定を同時に行うハイブリッド測定を,2011年東北地方太平洋地震以降,活動が活発した蔵王火山で2013年7月と2014年7月に実施した(東北大学との共同研究).その結果,山頂の御釜付近を中心とする半径2 km程度の範囲で,15~20マイクロガルの重力増加を検出した.その後,同火山では2014年11月に大振幅の火山性微動を記録しており,今後の継続的な観測・解析により,マグマの移動についての知見が得られる見込みである.

 また,2008 年から現在まで,桜島火山の噴火を監視するために,桜島昭和火口の南2.2 km の有村において,絶対重力連続観測を継続している(京都大学との共同研究) .同地では,土壌水分観測も同時に実施し,地下水物理学モデルによって,降雨・地下水変動等の環境起源の重力変動を除去している.得られた重力変化から,マグマ頭位の変動を推定したところ,頭位低下期が爆発のない静穏期(vice versa) に良く対応することが判明した.

(b)沖縄県石垣島における重力・地磁気観測

沖縄県石垣島の半年に一度発生するスロースリップの発生域において,2011年秋から絶対重力計,2013年から超伝導重力計を設置し,重力観測を実施している(絶対重力観測は現在休止中).この観測の目的は,高圧流体がスロースリップの発生メカニズムにどのように関わっているか解明することである.これまでにスロースリップイベント中の重力変化を捉えることに成功し,地下水等のノイズを補正する手法の開発を進めている.本年度は流体の移動を独立した物理量の観測により裏付けるため,石垣島,西表島に新たに地磁気連続観測点を設置した.

(c) 超伝導重力計による精密重力観測

長野県松代および岐阜県神岡において,超伝導重力計を用いた重力連続観測を行っている.2台の重力計の記録から,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震のあと,年間およそ10マイクロガルという大きなレートで重力が減少を続けていることが明らかになってきた.これらの観測点は,地震の震源域からは400km以上離れており,GEONETによるGNSSデータから推定される上下変動は比較的小さいにもかかわらず,このように大きな重力変化が見られるのは,地震のあと継続しているアフタースリップあるいは粘弾性緩和による地下の密度変化をとらえていると考えられる.

 このような長期的な重力変化を議論する際に,しばしばローカルな水文学的な影響が問題になる.神岡観測点では,冬季の豪雪による重力変化が数10マイクロガルにもおよび,観測精度を考えるとこれは非常に大きな効果である.この効果の補正に必要なのは積雪の荷重つまり質量である.積雪質量のその場測定のデータを取得するため,簡易的な方法による積雪重量計を開発し,実際に山上に設置して良好なデータを得ることに成功した.

 沖縄県石垣島においても,超伝導重力計による精密重力観測を開始したが(前項を参照),装置を設置するのに先立って,茨城県つくば市において装置の全面的な改修を行った.その過程で,重力計の運用や特性の理解において有用と考えられるさまざまな技術的知識を得ることができた.

(d) 海洋プレートの沈み込みや巨大地震によって生じる重力変動の観測研究

小型・堅牢で信頼性の高い絶対重力計FG5 を用いて,プレートの沈み込みによって日本列島に生じる10 年スケールの中長期的重力変化の研究に取り組んできた.測定は北海道(厚岸,えりも) ,東北(女川,仙台) ,東海(御前崎,豊橋) ,四国(室戸・足摺岬),九州(宮崎) の太平洋岸の各地で年間1-2 回の頻度で繰り返されてきた.特に御前崎については,国土地理院との共同研究として1997 年以来毎年4 回程度の観測を繰り返し,十分なデータが集積した.その結果,同地域の沈降データから期待される重力変化よりもはるかに小さい変動しか生じていない,という一見奇妙な事実が明らかになった.今後,東海スロースリップの原因や深部で起こっているプロセスを解明する上で貴重なデータになる.東北地方太平洋沖地震に伴う地震時及び地震後の重力変化をとらえるため,八戸,奥州市,仙台,及び由利本荘で絶対重力観測を行うと共に,それらを基準として,周辺約50点で相対重力測定を実施している.重力の余効変動として,東北南東部では3年間で30~60マイクロガルの重力減少が見られるのに対し,東北北部(青森,岩手北部,秋田)では,重力増加が認められる.アフタースリップや,粘弾性緩和の効果が表れているものと考えられ,今後,地殻変動データと総合した解析を行う予定である.