3.5.11 2014年チリ・イキケ地震に先行するスロースリップ

2014年4月1日にチリ北部で発生した海溝型地震(Mw8.1)の前震活動の解析を行った。前震活動の多くは本震時の大すべり域に対して浅部で発生した。USGS地震カタログに掲載されている地震の波形を用いて、本震発生前の約3ヶ月間と本震発生直後の数日間の連続波形記録を解析しイベント検出を行った。この新たな地震カタログを用いて繰り返し地震の抽出も行った。その結果、本震の破壊開始点を含む複数の領域で地震活動の移動現象を明瞭に捉えた(図3.5.5)。震源の移動は、断層の走向方向だけでなく傾斜方向にも観測された。また、震源の移動速度は、本震発生に向かって時間の経過とともに徐々に増加した。上記の地震活動には、繰り返し地震が含まれており、地震性すべりに加えてクリープのような非地震性すべりも同時にプレート境界面で起きていたと考えられる。地震活動の移動も見られたことから、本震発生前に大すべり域の浅部側でゆっくりすべりが生じ、プレート境界面の固着の緩みが進行することで大すべり域への応力載荷速度が増加していたと解釈される。

2009年イタリア・ラクイラ地震(Mw6.3)の本震発生前の約3ヶ月間の地震を再検出することで、前震域内での地震活動の移動が約50日前に発生したこと、本震の破壊開始点近傍の数km以内の領域だけ低b値を示すことを明らかにした。低b値の前震域と本震発生との関連については、2004年パークフィールド地震、2011年東北沖地震、2014年チリ北部地震の発生に際しても確認されており、興味深い類似点である。