(1) 古い地震記録に基づく地震・津波の研究

地震研や気象庁などに保存されている古い地震記録を用いて過去に発生した大地震の研究を行っている．2014年は，日本海東縁部で20世紀に発生した大地震について，本震・余震の震源と本震のメカニズムの再決定や遠地地震・津波波形記録を用いて断層パラメータの推定を行った．また，1944年東南海地震と1946年南海地震に対して，地震後に東京帝国大学が行ったアンケート調査の資料から，震度分布の検討を行った．最近の地震観測網による地震学データとの比較に基づき古い地震の震源・メカニズムを決定する新たな手法を構築し，明治・大正期の大地震に適用した．

(2) 史料に基づく古地震・津波の研究

地震研究所では『新収日本地震史料』等の史料集を刊行してきたが，これらは電子化されておらず検索などが困難である．明治期以降に編纂された二次資料が同時代に書かれた史料と同様に扱われていたり同時代史料でも省略や誤記が含まれていたりするなどの問題点があった．そこで，史料集を電子化した上で，原本（図3.12.7）もしくは翻刻した刊本を参照して点検する校訂作業を行っている．

　関東地方の地震については，1600年代から1800年代の地震までの史料の電子化を終了し，校訂作業を実施している．また，既刊の史料集に含まれていない史料の調査・収集も実施しているほか，元禄関東地震による津波・地殻変動ならびに被災地域への影響を調査・研究している．江戸市中に大きな被害を与えた1855年安政江戸地震に関しても史料調査を行っている．

　南海トラフ沿いの地震については，紀伊半島五ヶ所湾において1854年安政東海地震における津波高調査を実施し，また文書史料も踏まえ被害規模の検討を行った．

　この他，明治以降の地震予知研究の歴史についても科学史的な調査研究を行った．この結果は，近く書籍として刊行される予定である．

(3) 地質痕跡に基づく古地震・津波の研究

三陸沿岸において津波堆積物の調査を行い，浜堤背後の湿地で6層の津波堆積物を発見した．放射性炭素・鉛・セシウムによる年代測定から，これらは15世紀以降の津波によることを明らかにし，上部4層は2011年東北地方太平洋沖地震，1960年チリ地震，1933年昭和三陸地震，1896年明治三陸地震による津波堆積物であることを明らかにした．