平成10年度地震研究所 技術官全体研修報告

研修運営委員会

平成10年度の技術官全体研修が7月1日(水)、2日(木)、3日(金)の3日間行われ、無事修了した.

1. 「全体研修」への参加者

  1. 「全体研修」修了者. 3日間の研修全てに参加し、研修成果報告書を提出した技術官36名(地震研28名、東北大大学院理学研究科3名、名古屋大理学部2名、京大防災研3名)に藤井所長より研修修了証書が手渡された.


  2. 技術発表を11名が行った. この他、4名(教官および図書掛)に紹介、報告をして頂いた. 横浜市役所の高密度強震計ネットワークに関する所外研修では、同市役所災害対策室および地震研究所菊地教授による説明を受けた.


  3. 「全体研修」への出席者は技術官の他、所長、事務長、部門主任・センター長をはじめ、総計65名であった. 横浜市役所災害対策室における所外研修には46名、懇親会に55名(プラス事務職員)の参加を得た.


  4. 研究業務の都合で、全体を通して出席できなかった技術官(発表者を含む)が何名か居り、修了証書を発行できず、不公平を生じた. (これについては、7月教授会で所長から研修の主旨を徹底させて、来年度以降不都合が生じないよう、との要請があった.)

2. 「全体研修」の評価と今後の課題

  1. 「技術発表」は初心者むけのホーム・ページの作り方から、長年の観測経験からの教訓に至るまで、多種多彩な内容で、女性技術官の発表が多かったのもひとつの特徴であった. 「このような発表なら自分でも出来る」という声も聞かれ、来年以降に技術発表が増えることが期待される.


  2. 技術発表についての技術官の自己評価は、参加者が提出した「研修成果報告書」を分析して、その結果を公表する(資料2).


  3. 来年度から他大学の技術官にも技術発表を行ってもらう. 地震研の「全体研修」が全国大学の固体地球科学関連の技術官の実力養成の場として活用されることを目指す. なおこのことについては、他大学の関連部局の施設長の了承を得るよう交渉する.


  4. 今回の全体研修の日程は、所の公式行事のひとつとして、一般公開の開催時期との兼ね合いで決められた. 来年度も同じ位置付けなので、平成11年は6月30日(水)、7月1日(木)、2日(金)を予定する.


  5. 次回以降は「全体研修」実行委員会を組織して、実施する.


  6. 技術発表を行った技術官は技術業務報告を書き、研修運営委員会がまとめて「技術報告」に掲載する(資料3).

3. 「グループ研修」・「個人研修」について

  1. グループ研修の第1号として「伊豆半島地震観測点現地研修」(代表者:荻野泉、参加者9名)が認められた.


  2. この他のグループ研修として、「緊急時連絡システムのテスト」、「ホーム・ページ作りサポート」が申請されている. 後者は「全体研修」での技術発表を準備する過程で企画されたものである.


  3. 今年度は年度始めから新研修制度が発足したため、予算請求は見込みで行わざるを得なかった. 来年度については、今年度中にグループ研修の企画を受け付け、研修運営委員会から必要経費を予算請求する形をとりたい. 技術官が独自にプロジェクトを企画して予算が認められる(可能性がある)数少ない制度であるので、この活用を目指す.
最後になりましたが、今回の全体研修実施にあたっては、地震研究所内外の多くの方々にお世話になりました. 横浜市役所総務局災害対策室には所外研修の機会を提供して頂きました. 東北大学大学院理学研究科、名古屋大学理学部、京都大学防災研究所の関係各位には、各機関の技術官の「全体研修」出席に便宜を図って頂きました. また所長、事務長、所長補佐、各部門主任・センター長や何人かの教官には、技術発表を全て聞いて頂きました. とりわけ技術官がいわば缶詰状態であるため、会場の設営、会場確保の事務手続き、懇親会の準備など全てにわたって、事務部の皆様の全面的な協力を頂きました. 心から感謝する次第です.


全体研修「研修報告書」の概要

全体研修の最終日に出席者全員に「研修報告書」を提出して頂いた. 運営委員会が用意した報告書では、研修結果、実務に反映された点、今後仕事に使いたい点を記入する方式である. しかしこの書式にはとらわれず、自由に感想、要望等を書いていただいた. その概要を報告すると共に、我々としては来年度以降の運営の参考にしたい.

1. 横浜市高密度強震計ネットワークに対する評価
この所外研修へのコメントが最も多く、17件あった. 内容は1) 地域防災への寄与を評価、2) リアルタイム地震学への興味、3) 地震研の緊急時対応に参考とする、等々の感想が多かった.


2. 評価された技術発表
評価された(この場合、報告書で言及された)発表としては、ホームページ・HTML関連(11件)、強震計設置のノウハウ(9件)、伊豆の震源分布(6件)が多く、古地震記録、メモリー内蔵回収型歪計、クリスマス島の地磁気測定、水準測量等に評価や感想が寄せられた. また液晶プロジェクターを駆使した3日目のプレゼンテーションが評価されている.
発表のやり方については、時間制限の必要、聞き取り難い(農3号館の音響環境も一因か?)、内容が専門的すぎて分かりにくいなどの批判があった.


3. 今後の技術発表への意欲
次回には発表してみたい、グループでやった仕事を発表したい、パソコンを使ったプレゼンテーションをやりたい、等の声があった.


4. 自分の仕事への示唆
ホーム・ページ作りに挑戦したい(9件)、地震計設置のノウハウを応用したい、メモリー内蔵回収型歪計を将来導入したい、観測所が所有する昔の地震記録の保存やデータ・ベース化に手をつける必要など、研修に示唆されて今後の具体的な課題を挙げた技術官が何人かいた.
特に横浜市強震計ネットの威力とホーム・ページの便利さとを結び付けて、所属する観測所が持つ地震情報を迅速に地元や遠方の人々に伝えるため、ホーム・ページを開設したいと意欲を表明した人がいる. 現在「ホーム・ページを立ち上げる」グループ研修が行われているので、運営委員会としては、全体研修をきっかけとしたこの種の技術習得をバックアップしたい.


5. 他大学からの参加者の感想(順不同)
・現在気象庁発表の震度情報をパソコン画面の地図上に表示している. これをホーム・ページに、気象庁とは趣の変わった表示にして利用したい.
・地震研究所の技術発表を参考にして、新しい技術支援を受け持つ姿勢を考えさせて頂いた(大学における技術職員の在り方も含めて).
・さすが震研. 技官の皆様が高度な技術を持ち合わせていることがよくわかり、私の今後の参考にしたいです.
・発表の中で自分のやっている仕事と同じものを使用されていて、自分の気になっていたことを聞くことができ、大変たすかりました.
・技術官の発表を聞き、日頃の地道な研究支援体制の大切さ、個人の工夫、積極性の大切さ等、新たな気分にさせられた. 多くの方々と情報交換が出来、有意義な研修だった.
・技官ならではと思われる発言がいくつかあり、大変参考になりました. 例えば、観測点設置後の建物の維持管理への配慮、地主とのつきあいなど.
・発表時間をきちんと決めて、その時間内にまとめまで出来るようにすべきだと思う.
・HTMLに関する発表は、これからホーム・ページを作成しようと思っている者にとっては大変参考になりました. 今後もこのような講習会を希望します.
・特に自分達が新しく観測点を設置するため事務的な手続きや観測点の維持、管理まで行い、また新しい方法による観測データの収集など、我々他大学の者がその発表を聞き、非常に参考になった.
・所属こそ違え、研究支援のため皆一生けんめい頑張っていることを実感しました. 学会等では聞けない細かな技術などを詳しく聞けて参考になりました. ただ研究支援をしている技官の年齢層が高く、若い技官が少ないことが気になった.


6. 来年度の全体研修にむけて
従来から行われてきた職員研修では、教官を講師に依頼した専門的知識の習得が中心であった. 新しい研修制度の一環として、技術官自身の技術発表を主体とする「全体研修」を今年度から実施した. 研修運営委員会では、1) 来年度についても技術発表を中心とする、2) 他大学の技術官にも技術発表をお願いする、3) ただし「技術発表」といってもあまりにも専門的な、言い替えると敷居の高いものばかりは要求せず、自分のやってきた仕事の紹介で、他の技術官の参考になるかもしれないことを気軽に発表してもらう、という方針である.


技術業務報告の位置付け

研修運営委員会では、技術発表を行った技術官が技術業務報告を書いて「地震研究所技術報告」(以下「震研技報」と略)に掲載することを求めている. ただし技術業務報告には「震研技報」の技術報告で必要とされるようなオリジナリテイとプライオリテイは要求しない. 自分の仕事内容を紹介して、他の職員の参考になるものでよい. そのためにわざわざ新たな出版物を発行する必要は無いとの判断から、「震研技報」に掲載させてもらうことになった. したがって「震研技報」の技術業務報告の部分は、研究論文として評価される技術報告の論文とは性格が異なり、「技報」編集委員会のチェックを受けていない. 研修運営委員会としては、独創性の高い仕事については技術業務報告とは別に、「彙報」や「技報」あるいは他の学術雑誌に投稿することを期待している.

なお平成10年度の研修運営委員会は、次のメンバーで構成されている.
委員長:笹井洋一、副委員長:瀬川真佐子、大久保修平、委員:武尾実、橋本信一、平田安広、オブザーバー:大竹雄次.