W同位体比によるコア−マントル境界の地球化学
地震波トモグラフィーは、ポリネシアなどの海洋島のマグマを供給するプリュームが、コアーマントル境界を根に持つことを示している。しかしこれらの海洋島火山のマグマが、コアーマントル境界から由来しているかどうかについての地球化学的な確かな証拠は乏しい。コア物質の関与を調べるには、コアに濃集すると考えられる親鉄、親銅元素を用いることが有効であると想像できる。特に、コアとマントルの同位体比が異なっているトレーサーが存在すれば、有力な道具となりうる。
消滅核種182Hf(半減期900万年)から182Wの壊変によるタングステン同位体比の変化は太陽系諸天体のコア形成期の制約に用いられてきた。コンドライト隕石と地球試料の182W/184W 同位体比の差から、地球のコア形成時期は、太陽系形成後3000万年程度で起こったと考えられている。また、この結果から、地球の珪酸塩部分とコアの間にはタングステン同位体比の差があることが予想されている。
地球のマントル由来の岩石のタングステン同位体比にはいくつか報告例がある。Collersonら(2002)は南アフリカのキンバーライトが一般の地の岩石よりも低い182W/184W比を持つことを報告し、試料がコア物質を含んでいる可能性を示唆した。しかし、Scherstenら(2004)は、南アフリカのキンバーライトおよびハワイ島の玄武岩を分析し、同位体比に異常がないことを報告している。これらの矛盾する報告の原因は、タングステン同位体比測定の難しさに由来していると考えられる。
本研究室では、タングステンの分離・回収のプロセスを改良し(Sahooら、2006)、様々な地域の海洋島玄武岩や巨大火成岩岩石区などのタングステン同位体比から、プリュームの起源を探っている。
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