研究紹介

 
中井研究室が地震研ニュースレターで紹介されました(2010年7月号 No.11) 

 地球化学は、化学の視点から地球の構成物質やその起源、進化、物質循環などを解明する分野であり、そのフィールドは大気、海洋、固体地球まで含めた広い範囲を研究対象としている。中井研究室では、マルチコレクタ型ICP質量分析計を用いた同位体測定法の開発および微量元素の分析から、沈み込み帯の物質循環の解明やコアマントル相互作用の地球化学的研究を行っている。


234U-230Th放射非平衡を用いた地球化学的試料の年代測定

238Uは206Pbまでの放射壊変系列を作る.そのなかに234U,230Thの短寿命放射性核種がある.UとThは流体への溶解度が異なり,流体から沈殿した鍾乳石などの試料はUを1 ppm程度含むが,Thをほとんど含まない.試料が沈殿した後,時間が経過すると,(230Th/234U)の放射能比は次第に増加してゆく.この放射能比から千年から40万年程度の年代をもつ鍾乳石,炭酸塩鉱物の年代測定が可能である.断層破砕帯の炭酸塩脈,メタンハイドレートの分解を起源とする炭酸塩ノジュール,石筍などの炭酸塩鉱物の年代測定を行った.海底熱水系での生物の分化と熱水活動の持続期間を調べるために,海底のチムニーを年代測定する研究を始めた.


宇宙線生成核種10Beを用いた島弧での物質循環の研究

10Beは宇宙線が大気中の酸素や窒素を破砕して生じ,降雨とともに海洋に流れ込み海洋底の堆積物に濃集する.堆積物が海洋地殻とともにマントルに沈み込むときに,10Beも沈み込むが一部は島弧マグマに取り込まれて島弧の火山にリサイクルしている.この同位体は沈み込む堆積物から供給されたことが確かであるため,沈み込み地域での物質循環を調べるのに好適である.沈み込み地域での10Beと他の地球化学的なトレーサを組み合わせた研究を行っている.


W同位体比によるコアーマントル相互作用,初期地球の分化過程の研究

太陽系が誕生した頃存在していた半減期900万年の182Hfという放射性核種の影響で,地球のマントルの182W/184W比は地球のコアや隕石の比とは異なる.この差を利用して,マントル物質にコアの痕跡が残っているか,地球史初期の隕石の重爆撃やマグマオーシャンの痕跡があるかを調べている.


Li同位体比によるLiの循環の研究

Liは6と7の質量数をもつ二つの同位体が存在する.二つの同位体は地球表層でおきる岩石と水の相互作用で物理的な分別を受け,水相には重い7Liが相対的に濃縮する.表層での岩石―水相互作用を受けた海洋地殻や堆積物が沈み込むと,マントルの中に同位体の不均質が生じるかを調べる研究をしている.



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