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原子空孔は、一つが原子サイズという極めて小さな穴であることから、それそのものを観ることは不可能である。左図では、Fe とMg 量比が異なるオリビンを貼り付け、Mg とFe 原子が相互に移動(拡散)していく様子が透過電子顕微鏡を用いた局所分析でとらえられた(左下図)。このような原子の移動には、原子空孔の存在が不可欠であり、温度、圧力、水の有無や、酸素分圧を変化させた拡散実験およびその後の電子顕微鏡を用いた分析によって、空孔の性質を調べることが出来る。左の結果において、水の存在によって拡散が促進することが示され、空孔の数が水の添加によって、著しく増加したことが推定された。地球内部での物質移動速度、またそれに対する水の影響をこのような研究から理解することが出来る。 Wang, Hiraga and Kohlstedt (2004) Applied Physics Letters 85, 209. |
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転位は、左の透過電子顕微鏡下で線状(白)に観察されるものである。転位が動くことで結晶が変形し、また、結晶の向きが揃い始める。地殻・マントルの粘性流動や地震波の速度異方性を、このナノメーターにも満たない太さを持つ転位が生じさせているのである。左の像は高温で変形させた無水の単斜輝石粒子内の転位、右は同じく単斜輝石であるが水を添加させた粒子内の転位像であり、水の有無が転位構造を変化させ、ひいては単斜輝石が主要となる下部地殻の流動性が変化することを示している。 Chen, Hiraga and Kohlstedt (2006) Journal of GeophysicalResearch 111, B08203 |
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粒界は、左の透過電子顕微鏡像において、二種類の格子縞で表される二つの結晶の境界に相当する。粒界は、地球内部で唯一三次元的に連結した欠陥であり、原子の高速移動する経路として、変形のすべり面としての役割を果たす。しかし、粒界そのものの研究は、他の欠陥のそれと比べて大きく遅れおり、下部マントルでの粘性流動、地震波減衰は、粒界でのミクロな素過程が引き起こすと考えられているが、未だ推測の域を出ていない。粒界の幅すらも特定されておらず、左の像から粒界の幅は1ナノメーターよりも十分に小さいことが初めて示された。 Hiraga, Anderson, Zimmerman, Mei and Kohlstedt (2002) Contributions to Mineralogy Petrology 144, 163 |
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粒界には、上で述べた働き以外に、これまで全く予想されていなかった地球内部での役割が発見された。それは、マントル内で、結晶に入りにくい元素の貯蔵庫として粒界が有効に働くということである。左図は、粒界を横断する形で、ナノオーダーでの局所化学分析を透過電子顕微鏡内で行った結果で、オリビンにほとんど入らないCa やAl が粒界では極めて高く固溶することが判明した。粒界において、どの元素が、どの程度濃集しているかが、マントル内での元素の分布を考える上で鍵になってきた。 Hiraga, Anderson and Kohlstedt (2004) Nature 427, 699 |
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結晶に入りにくいする元素ほど、マントル内で長距離移動できるという、一見奇妙な予想が立てられた。これは、粒界に濃集する強さと粒界拡散という極めて高速な元素移動を可能にするメカニズムが相互に作用するためである。左図において、1より大きな値をとるY より不適合性の高い元素は、マントル内をオリビン多結晶体と近似できるので、粒界拡散で移動することが予想される。地球内部の化学進化の時間・空間変化を、粒界偏析と粒界拡散というミクロなプロセスを理解することで定量化できる。
Hiraga, Hirschmann and Kohlstedt (2007) Geochimica et Cosmochimica Acta 71, 1281 |
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以上示した3種類の欠陥の他に、3次元欠陥も地球内部では重要になる。左の像のように、わずかな量の流体が粒界3重点や4重点に分布し、三次元的に見ると、岩石中をネットワーク状に分布している。地殻やマントルでは、わずかな量の流体が3次元的に連結して存在し、それが粘性、電気伝導度、地震波減衰、マグマの生成など様々な地学現象・観測量に影響を与えていることが予想されている。橘さんと共に、体積分率1%さえ切るような極微少量のメルトがどのように地球内部で移動するのか、高温実験と微細構造観察から解明しようとしている。 |