有珠火山における過去の噴火の推移の例

                   by A.Tomiya (2000/04/06, 23:30改訂)


有珠火山が噴火を始めてから早くも1週間.今後の活動の推移はまだまだ予断を許しません.とりあえず過去の噴火の推移は下記のようになっていました.
なお,以下で“#”で始まる文は東宮の個人的見解であることをお断りしておきます.

参考:「有珠火山地質図」(曽屋ほか,1981),1981年IAVCEIの巡検資料 (Katsui et al., 1981) など.

(もう少し長いタイムスケールの活動史については,有珠火山−洞爺カルデラの活動史をご覧下さい.)


歴史時代の噴火活動の概要

噴火年 噴火間隔 前兆地震の期間 場所 活動内容の概要 形成ドーム
1663 数千年 3日間 山頂 プリニアン,サージ,(ドーム??) ??(※)
1769 106 前兆有り,期間不明 山頂 プリニアン,火砕流(熱雲),ドーム 小有珠
1822 53 3日間 山頂 プリニアン,火砕流(熱雲),ドーム オガリ山
1853 31 10日間 山頂 プリニアン,火砕流(熱雲),ドーム 大有珠
1910 57 6日間 山腹(北) 水蒸気爆発,潜在ドーム 明治新山(潜在)
1943-45 33 6ヶ月間 山麓(東) 水蒸気爆発,サージ,ドーム 昭和新山
1977-78 32 32時間 山頂 プリニアン,潜在ドーム 有珠新山(潜在)
2000 22 4日間 山腹(北西) 水蒸気爆発→??  

(※)小有珠ドームは1663年形成との説もある.

プリニアン:
爆発的に噴煙柱を上げて,広範囲に軽石や火山灰を放出する噴火.
ドーム:
雲仙普賢岳噴火のように,流動性の低い溶岩が火口付近に積み上がっていくタイプの噴火.溶岩自体が姿を見せずに地形を盛り上げるだけで終わる場合は潜在ドームという.
火砕流(熱雲):
高温(数百℃)のガスと岩片が高速(時速100kmを超えることもある)で流下する噴火.最も恐ろしい災害をひき起こす.溶岩ドームの崩落に伴って起こる場合のほか,噴煙柱が崩壊して起こる場合,火口から直接溢れ出す場合,などがある.
サージ:
火砕流(熱雲)に似ているが,ガスと細粒成分に富み,流動性が極めて高い.火砕流(熱雲)に伴って起こることが多い.
水蒸気爆発:
マグマが地下水層に接近して地下水が加熱・沸騰させられることによって起こる爆発.吹き飛ばされるものは主として地表付近に既存の岩片などである.マグマが直接地下水に接した場合は“マグマ水蒸気爆発”と言い,このときはマグマそのものの破片も放出されるほか,コックス テイル(鶏の尾のような形の鋭角で直線的な煙)と呼ばれる特徴的な爆発形態を示す.
テフラ:
マグマが破砕されて吹き上がられたものの総称.軽石や火山灰がその代表例.もう少し意味を広く取っていわゆる火砕物とほぼ同義にとらえる研究者もいる.


過去7回の噴火の推移のパターン

数日間の前兆地震活動の後,数週間程度の爆発的ステージで始まり, その後数カ月程度のドーム形成を行なって終わる, というのが一般的であるが,その中にも次に挙げるようないくつかの活動推移のタイプがある.
なお,歴史時代に放出されたマグマ(本質物質)はいずれも珪長質(SiO2=68-74%)である.

●1663タイプ:
山頂からの大規模な軽石放出を中心とする活動.山麓では降下軽石が最大2m程度堆積する.
噴火に伴い広範囲(半径数km)に火砕サージが流下し,周辺は壊滅的になる.
大規模な軽石放出は数時間〜1日程度で終わるが,噴火全体は半月程度(※)続く.
溶岩ドームは形成されない??
(※)これまで“半年”と書かれていましたがこれは“半月”の誤りです.申し訳ありません.

●1769/1822/1853/1977タイプ:
有珠火山では最も典型的なタイプ.
山頂からの軽石放出で始まり,火砕流(熱雲)の流下を伴いつつ,溶岩ドームを形成する.
ただし1977では火砕流(熱雲)は流下しなかった.#ドームが潜在だったためか?
降下軽石は山麓で最大数十cm堆積する.
火砕流(熱雲)は火口から2-3km程度,火砕サージはその2-3倍の範囲まで到達する.
火砕流(熱雲)は爆発的ステージで生じる(1822)こともあれば,
ドーム崩壊で生じる(1853)こともある.
爆発的活動は数週間程度続き,
その後,溶岩ドーム/潜在ドームを形成する活動が数カ月〜1年程度続く.
ドーム形成に伴い水蒸気爆発を行なうことが有る.

●1910タイプ:
山腹での水蒸気爆発で始まり,潜在ドーム形成で終わる.
北麓(洞爺湖沿岸)の豊富な地下水に接触した場合にこのような噴火になると思われる.
軽石放出はないが,周辺には激しい爆発によって火山灰がまき散らされるほか,
火山泥流(火口から直接流出)によって谷沿いの低地が埋められる.
1910の場合,東西2.7kmに渡って45個の爆裂火口が生じた.
爆発的活動は数週間程度続き,ドーム形成は数カ月続く.

●1943タイプ:
山麓での水蒸気爆発で始まり,溶岩ドーム形成で終わる.
ある意味1910タイプに良く似ているが,1943では前兆地震活動が半年間も続いたことが
他との際立った特徴である.(他は前兆期間は数日間)
噴火に先立って顕著な地殻変動が起こる.
1943では,前兆(先噴火期)が半年,爆発期が4ヶ月,ドーム形成期が10ヶ月続いた.
爆発期には火砕サージも発生している.
#昭和新山(1943)のときだけ前兆期間が長いのは,
 山麓の全く新しい場所に火道をつくりながらマグマが上昇したためか?


#噴火する時には過去のドームを避けて火口を形成する傾向があるらしい.
 火口の位置によっては,山体崩壊(山崩れ)が起こる可能性もある.
 また,有珠では実績が無いが,セントへレンズ火山1980年噴火のときのように,
 山体崩壊と共に大規模な爆発(ブラスト=衝撃波を伴うような横殴りのすさまじい爆発)
 に移行する可能性も無いとは言えない.
 もしブラストが起これば,洞爺湖の対岸ですら安全とは言えない.

(以上は,気象庁&噴火予知連に3/28に送付した資料の原稿を改訂したものである)

 →推移を図(ブロックダイアグラム)に表したもの(地質調査所版)


有珠火山−洞爺カルデラの歴史概説

有珠火山は洞爺カルデラ火山の一部として捉えることが出来ます. そこで,洞爺カルデラも含めた火山活動史を以下に示します.
かつては巨大噴火や山体崩壊などの破局的な活動がこの地域で起こっていたことが分かります.

参考:「有珠火山地質図」(曽屋ほか,1981),「火山灰アトラス」(町田・新井, 1992) など.


1.洞爺カルデラ形成

約10万年前に巨大な噴火が起こり,それによって洞爺カルデラ(今の洞爺湖にほぼ相 当)が形成された.このときに放出された噴出物の総体積は実に150km3以上にものぼり, 広範囲に渡り数十mの厚さで堆積している.(長流川東岸の崖はほぼ全てそのときの 堆積物)
#このような巨大噴火は数万年に1度あるかないかのものなので,今回このタイプが起こる可能性は極めて小さいと考えられる.

2.中島火山形成

洞爺湖のまん中に浮かぶ中島も,実はかつての火山である.数万年前に活動した溶岩 ドーム群である.

3.有珠火山

(1) 外輪山形成期

有珠火山は,途中の休止期間を挟んで2つの活動期に分けられる.
まず,1万年ほど前に外輪山形成期があった. 玄武岩質マグマを中心とした活動で,有珠火山の主たる山体(現在“外輪山”と呼んで いる部分)を形成した.また,山体の東にあるドンコロ山もこのときの産物である.

(2) 山体崩壊(善光寺岩屑流)と長い休止期間

8000年ほど前に,有珠火山の山体は大崩壊を起こした.(現在の磐梯山のような状態) このときの崩壊堆積物は善光寺岩屑流と呼ばれ,有珠の南麓はこの堆積物にうめられて いる.有珠町付近に多く見られる小さな丘は,このときの岩屑流で流されてきた山体の かけら(“流れ山”という)である.
#今このタイプの崩壊が起こったら,山麓の半分は壊滅するが,その可能性はおそらくあまり大きくないと考えられている.

山体崩壊の後,有珠火山は数千年間の長い休止期間に入っていた.

(3) 歴史時代の活動

西暦1663年,有珠火山は長い眠りから覚めた.
以後,1977年噴火までに7回の噴火を起こしているが,この活動はデイサイト〜流紋岩 質マグマの活動で特徴付けられ,1万年前の外輪山形成期とは全く対照的である.
歴史時代の活動では,爆発的な噴火によって大量の軽石が放出され,火砕流によって 山麓を焼き払い,最後は溶岩ドームを形成するというタイプの噴火を繰り返した.
この歴史時代の活動の詳細については,下記をご覧いただきたい.

 →有珠火山における過去の噴火の推移の例


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通産省・工業技術院・地質調査所・地殻熱部・地殻熱探査研究室 東宮昭彦
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Created:March,28,2000