有珠火山マグマ溜まりの進化(東宮, 1995)

                   by A.Tomiya (2000/03/31, 17:45改訂)


また,マグマ溜まりの進化についての詳細は下記の論文をご覧下さい.

東宮昭彦 (1995):
「有珠火山は今後も噴火し続けるか」
科学, 1995年10月, 第65巻第10号, p.692−697.
東宮昭彦 (1997):
「実験岩石学的手法で求めるマグマ溜まりの深さ」
月刊地球, 1997年11月, 第19巻第11号, p.720−724.

有珠火山のマグマ溜まりの進化モデル

1663年噴火

1663年噴火直前には,深さ約10kmのところにマグマ溜まりがあった. それは成層構造をしていて,上部は流紋岩質マグマ,下部は玄武岩質安山岩マグマが溜まっていた. 1663年噴火は,深さ10kmから一気にマグマが地上に上昇し,激しい爆発を行なった.この噴火で放出されたのはほとんどはマグマ溜まり上部の流紋岩質マグマであったが,噴火の末期にわずかに玄武岩質安山岩マグマが滴(しずく)となって流紋岩質マグマに混じって噴出した.

1769年以降(1769,1822,1853,1977?)の噴火

1663年大噴火の直後に,深さ4km程度(「科学」では深さ6kmとなっていたがその後約4kmに訂正)の場所に新しくデイサイト質マグマ溜まりが形成された.このデイサイトは1663年当時存在していた2種類のマグマの混合によってできたものである.
以後の噴火では,まず深さ10kmから流紋岩質マグマが深さ4kmのデイサイト質マグマ溜まりへと注入され,両者がその場で混合し,その後に地表に噴出している.混合から噴出までは長くても数週間以下である.(これは,拡散の速い磁鉄鉱斑晶の組成がなまされずに保持されていることから分かる)

密度中立と噴火の開始のメカニズム(案)

Ryanらによって,マグマは地殻中の密度の釣り合った所に溜まるという議論がされている.それによると,深さ10kmは玄武岩質安山岩マグマ,深さ約4kmはデイサイト質マグマの密度が釣り合う深さと考えて矛盾は無い.一方,流紋岩質マグマは深さ10kmでは力学的に不安定である.
このことから推論するに,流紋岩質マグマは深さ10kmのその場所で生産されており,これがある程度溜まってくると力学的に不安定になって(周りよりも軽いため)上昇を始める,これが噴火の引き金になる,というモデルが考えられる.流紋岩質マグマの生産は,高温の玄武岩質安山岩マグマが周囲の地殻物質を融かしてできた液体が流紋岩質マグマになるという考えと,玄武岩質安山岩マグマが結晶分化(結晶化することによって残液の組成が変化していく)によって流紋岩質マグマになるという考えの2つがあり得る.

注意点

噴火直前にマグマの混合が起こったことが確実に分かるのは軽石噴火のときだけである.(磁鉄鉱斑晶の組成がなまされずに保持されているから.)軽石の出なかった1910年や1943-45年の噴火でも同様のことが起こっていたかどうかは保証できない.
また,深さ10kmの方の推定には自信があるが,深さ約4kmの方は誤差が大きいかもしれない.詳細は原著論文の方を見ていただきたい.

マグマ溜まりの深さの推定方法

マグマが固まってできた岩石を高温高圧下で再度融解させて,そのときに出来た結晶の種類や組成を調べ,それと天然の岩石に含まれる結晶とを比較することによって,マグマ溜まりの深さ(結晶のできた深さ)を推定することができる.
高温高圧を実験室で再現するためには,高圧ガス実験設備を使用している.


通産省・工業技術院・地質調査所・地殻熱部・地殻熱探査研究室 東宮昭彦
  E-mail:tomiya@gsj.go.jp
  http://www.gsj.go.jp/~tomiya/tomiya.html

Created:March,29,2000