アセノスフェアの沈み込み | [HOME] |
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プレートテクトニクスによれば,海嶺で生まれた海洋プレートはアセノスフェアの上を水平に移動したのち,日本海溝などからマントルの中に入り込むとされています.この沈み込む海洋プレートは“スラブ”と呼ばれ,その動きが海溝型の巨大地震を起こす主要要因ともなることなどから固体地球科学の重要な研究対象となってきました.一方スラブの下にあるアセノスフェアが,沈み込み帯でどのような役割を果たしているかはこれまであまり真剣に議論されてきませんでした.今回,世界の沈み込み帯における地震波異方性の解析結果を再解釈することで,スラブと一緒に100kmほどの厚さのアセノスフェアがマントル深部に引きずり込まれている証拠を示すことが出来きました.本研究は,地震波異方性の解析・解釈に重要な新たな視点を提供すると共に,沈み込みにおけるアセノスフェアの役割,アセノスフェア構成物質の岩石学・レオロジー的性質,地球全体の物質循環におけるアセノスフェアの重要性など固体地球科学全体に様々な新たな視座を提示する極めて重要な研究成果であると考えています.
図1:プレートテクトニクスの概念図 (啓林館「地学II」より,一部加筆)
図2:
世界の沈み込み帯におけるスラブ下の地震波異方性の大きさ(縦軸)とスラブの沈み込み角度の関係.シンボルが観測値を示し,線がアセノスフェアの沈み込みにより予想される異方性の大きさ.50−150kmの厚さのアセノスフェアが沈み込むと考えると観測値を説明出来る.
図3: 地震波異方性とS波のスプリッティング (Ed Garnero WEB):
横波である偏光したS波が異方性媒質を通過すると,直交した偏光軸方向の2つのS波に分離し,それぞれの地震波が独立に伝播する.これをS波のスプリッティングとよび,2つの波の到達時間のずれから異方性の大きさを推定する.
図4: 世界の沈み込み帯のスラブ下の地震波異方性(Long and Silver, 2009).矢印の方向がS波の速い偏光軸方向を示す.Cascadiaや南米中部などの一部の地域を除き,海溝軸に平行な方向が速い偏光軸方向となっている.
(右図)これを説明するには,これまでの常識に則ると海溝に平行な流れが有ることになり不自然です.
図5:スラブと共にアセノスフェアが沈み込む場合に予想されるS波スプリッティングの速い方向
(上図): 鉛直軸対象な異方性を持つアセノスフェアが沈み込場合の模式的断面図
(下図): 上図の場合により予測される,地上の観測点に入ってくるS波の速い方向を青線で示している(観測点から地中を見たような図になっている).解析に使われる地球中心核を通ってくる波(SKS波)は,観測点にほぼ真下から入射し,図では真ん中の白い部分に対応する.S波の速い方向はX2軸の方向となり,海溝に平行になる.
なお本論文は,Science誌(2012年10月12日号)でEditor’s Choiceに選ばれています.
(
http://www.sciencemag.org/content/338/6104/twil.full )