2001年1月15日(月) 1.観測支援: 警視庁ヘリ 立川より飛来        往 路:「おおとり1号」 JA9602号機        復 路:「おおとり5号」 JA6726号機        クルー:  Pilot;本間 ・ Co-pilot ;宮田 ・ 整備;坂上 の3氏 今日は神津島への移動者多く発進機数も多いため、観測機はいつもより20分先発( 8:20集合)となった。観測者2名の他、神津島まで警視庁交代員1名同乗。先ず 三宅島へ直行、観測後神津島で給油し、青山副知事同乗で帰投の予定だったが、神津 島空港混雑(陸自CH47J・消防庁「はくちょう」・警視庁「おおとり」3機の他 に時刻により定期便)のためか、帰路は先着の「おおとり5号」に乗り換えとなった。 2.観測者 : 大島・宮城(地調) 3.天候 : (東京は快晴、三宅島は曇り) この冬一番の寒気団南下であちこちに大雪警報、北海道から鹿児島まで雪、関東南部 と東海の一部のみ晴。東京〜伊豆大島は快晴、白雪の富士山くっきり。西風強く(伊 豆大島で20〜30ノットとの出発前情報)海面は白波、機体もダウンバーストで一 時急降下(急沈下)。 三宅島上空は高度約1500mに雲、曇り。西風に流れる雲は雪雲で(突っ込むと雪片が 横に走り)、島の上半分は白く雪化粧している。 4.飛行コース・時刻等 :    搭乗時間 8時38分 〜 12時34分 (帰路神津島で待機40分)    観測時刻 9時39分 〜 10時20分 (上空観察41分間) 8:38 東京ヘリポート、立川からの飛来機「おおとり1号」に搭乗。 8:40 離陸、北に向かって発進。いつもの警視庁コース。  (〜 田町 〜 目黒 〜 二子玉川 〜 新横浜 〜 横浜 〜 逗子 〜) 9:04 城ケ島の真上 9:19 伊豆大島南端(波浮)東方      前方三宅島は1500mの雲の下に全体が見える。噴煙は低角で東方へ。 9:39 三宅島上空到着(神着) 島は雪化粧。上半分は全周白。標高200mくらいより下は着雪ないが、植生を欠く 北東の昭和割れ目沿いは海岸(赤場暁)まで白(北側からの遠望)。 西風で白色噴煙が東へたなびいているため、西斜面上を南下。カルデラ内は白煙がこ もって見えない。大路池南でUターンの後、カルデラ縁に南から接近。今日は、宮城 さんが赤外映像撮影のため、大島がカルデラ縁地表詳細観察のため、ドアオープン。 (外気温氷点下8度。鈍い人物約1名は何も感じずに真下を観察していたが、他の搭 乗者は結構凍えたらしい。はじめ2席分全開していたドアを、後半は1席分の半開に し、1人(宮城)が着席のまま、もう1人(大島)は中列床にしゃがみこんで覗ける よう、整備担当の坂上さんが中列の椅子を一時的に取り払ってくれた。) 山頂カルデラの南〜西〜北縁沿いに北東側まで、昭和15・37割れ目上空で反転、北〜 西〜南西縁沿いにレストハウス東まで。これを2往復。赤外映像撮影と詳細観察のた め低速飛行をお願いしたため、強風に押されてホバリングに近いことも。最初時計回 り(北行)の時は右ドアオープンだったが、反時計回り(南行)では風向きに対応し て左ドアを開け、南側では機首とは斜めの方向へ進行するかたちとなった。 レストハウス東から阿古を経て、 10:20 三宅島離脱 10:36 神津島空港給油所近くに着陸、 10:39 ターミナル側に移動、再 着陸(1番スポット) 10:42 エンジン停止、降機。 空港ロビーで待機約40分。 11:23 「おおとり5号」エンジンスタート  11:26 神津島空港離陸   〜 神津島西側 〜 式根島・新島・鵜渡根島・利島・大島のいずれも西側 〜 11:53 伊豆大島北端(乳ケ崎) 12:08 城ケ島西方      〜 葉山から内陸へ 〜 往路と逆 〜 12:33 東京ヘリポート着陸、 12:34 降機。 5. 観察事項  * 島の上半分が白く雪化粧したため、地形特徴がよく見えるようになった。 (1)噴煙の状態 噴煙は白色、灰を交えず。 西風により、カルデラから10度くらいの低角で東方へたなびいている。(1月5日 ほどの強風ではないためか、カルデラ外に出た噴煙の頂部が一旦下降して再上昇する 様子は見えない。) 噴煙の高さ:東方最高位で約1200m。12月に一時的に高く排出量も多かったの に較べて、再び以前の減衰傾向に復した感じで弱く垂れ流しているよう。噴出する力 強さがこれまでほどでなく、だらしなくモワーと上がる感じ。 下面に漂う青白ガスも今日はそれほど明瞭ではない。 (2)カルデラ内、白煙こもって見えず。スオウ穴から一瞬、白煙の下の青白いもや を通して主火口らしき白色部が見えたのみ。 (3)カルデラ南西縁の地割れ 一部崩落、主地割れはほぼ残っている。主地割れとカルデラ縁とで囲まれてレンズ状 だった部分の幅は当初の半分以下にスリム化している。輪郭が雪で縁取りされたため 遠くからでもよくわかるが、現場接近できなかったため付随する小地割れについては 詳述不可。 (4)カルデラ南〜南西壁 いつも噴煙に隠されて見えないカルデラ南〜南西壁(少なくとも筆者にとっての話だ )が、今日は一瞬見えた。しかも雪をかぶったために明るく且つ凹凸もよくわかる。 南壁上部100mくらいはほぼ垂直(〜80度くらい)に切り立ち、その下に一段厚 さ50m?くらいの飛び出し(緩斜面、といっても場所により傾斜60〜45度)が あり、その下また切り立ち、といった具合。更に下位は噴煙で見えない。 南南西壁上の上記地割れ部分も、上部100mくらいがほぼ垂直に切り立っているが 下位の緩斜面が広い(カルデラ内への突出が大きい)。そのため、崩落した場合、崩 れたブロック群は自由落下の後、滑り台を滑るようにカルデラ内へ放り出されて噴気 口群を効果的に覆うと考えられ、12月初旬以降しばらく続いた噴煙排出異常に一部 影響したこと容易に理解できる。 (5)カルデラ南西周辺部の降灰の跡は、今日は雪にかき消されて不明。 (6)カルデラ周辺の縞模様、一層鮮明に。噴火推移に直接関係なく元々の堆積構造 の可能性も大。 12月13日に気づいて以来ずっと気になっていた南〜南南西斜面の濃淡縞模様だっ たが、目を慣らすうちに南西〜西側斜面でも見えてきた。今回雪景色となってみると 、白とやや黒ずんだ白との縞模様となって、場所により一層はっきり見えるようにな った。南西〜西〜北斜面上部をじっくり見てみると殆ど全斜面に見えており(一部見 えないところもあるが)、北東斜面上部にも発達していた。厚さ5〜10m内外のも のが多く無数に見える。 一体何なのか? (6−1)答のヒントの一つはスオウ穴にあったと言えそう。スオウ穴とその北隣火 口にかけて、東西両火口壁には(明瞭な突出層を含む溶結)降下火砕岩層が少なくと も4枚断面として認められ、それぞれの下端(山麓側の端)が地表にあらわれている 。(明らかに火口〜山頂近傍周辺の降下火砕岩堆積様式の断面だが)この堆積構造が そのまま北斜面および北東斜面表面の縞模様の一部に連続するようにも見える。つま り縞模様はカルデラ周辺、元々の中央火道から半径1〜1.5km以内の大規模な(溶 結を含む)降下火砕岩層の堆積構造そのものではないか。山頂側から同心円状の分布 もそう考えればうなずける。 (6−2)しかし尾根・谷を横切る縞模様の中には、水平近くや外側に傾くもの以外 に、かなり急角度で内側に傾くように見えるものもある(感じ)。基本的にカルデラ 縁と平行のセンスになるため、なお正体を見極める必要がある。 (6−1)の元々の堆積構造の場合は、現在の噴火活動と直接関係なく、過去の地質 そのものの話になるので、ここで議論する必要はないだろうが、(6−2)の場合、 カルデラ縁と平行するセンスで同心円状のリングフラクチャーが発達する可能性も意 識させられ、カルデラ拡大の準備段階?として注意する必要があるだろう。 ついでながら、気づき始めた縞模様の位置が当初南南西〜南上部斜面だったため、初 めのうちは次の2つの可能性を主に考えていた。  (6−0A)ひょっとして細かい地割れなどを伴うローカルな地殻変動(南側にも う一つの陥没)が起き始めているのか?  (6−0B)濃淡の縞模様が乾湿の差にも見えた。このところ火映が見られるなど 、水蒸気が減って火道内〜周辺が乾き地下深所の熱が地表に伝わりやすい状態になっ てきているが、その熱の影響が網の目状の細かいクラックを通して斜面上にも見えて いるという意味か?  (6−0A)に対しては、対応する明確な細かい地割れを確認できなかった。  (6−0B)に対しては、火口直近のカルデラ底水面が湯だってもいないのに、は るかに遠い斜面に熱が伝わり得るか、大いに疑問。もし別の経路で南斜面に熱が逃げ ようとしているなら、雨あがりの時、縞模様地域でもやもやと蒸気が見えてもおかし くない。 という段階で、見まちがえも含めて「幽霊」扱いにしていたのだが、 今日の観察で、  (6−0A)対応する明確な細かい地割れはやはり見えない。  (6−0B)雪に覆われた斜面に何ら温度上昇の気配はない。 とわかって(6−0)はいずれも否定、かわりに(6−1)(6−2)の解答となった。 なお、この縞模様は(以前の写真で)同乗の宮城さんも見えた。気象庁でも、ウ〜ン 見えるといえば見えるが、、、の声も。 (7)雪のため新たな地割れ見やすい スオウ穴西隣のカルデラ北壁はこれまでもよく崩れ、縁付近にはいつも地割れ・ひび 割れが存在した。次々に新しいのがあるのが当たり前の上、崩落が活動に影響すると も思えないので、特にメモしてはいないが、(南西縁の地割れは噴煙活動に影響する ので初めからこだわったが、)雪をかぶってみると、地割れは一目瞭然。 いろいろある中でちょっと気になるのは、南斜面の地割れ・ひび割れ。雪をかぶった 斜面に、細かく見ると部分的に縦に(ほぼ傾斜方向に)ひび割れして黒く見えるもの がある。雪後で真新しい。直線でなくやや脳の縫合線のようなジグザグぎみ。幅20 〜30センチ?単なる地表のクリープ? 西斜面など放射谷沿いの急崖では雪面崩壊 で黒く地肌が見えるのはごく普通だが、南斜面のは比較的平坦地上。 (8)宮城さんによる熱測定 カルデラ内目視はできないものの、赤外映像は収録された。条件がよくなくとも、主 火口で測定された最高温度は300度強(310度まではいかない)との話。 (大島 記)