2001(平成13)年3月28日(水) 1.観測支援: 警視庁ヘリ 「おおとり1号」 JA9602号機         立川より飛来。クル−3名と我々観測員2名のみ。         三宅島上空観察後、神津島で給油。 (観測結果のみ知りたい方は第2項以降へどうぞ。) 一昨日の津久井フライトの際、警視庁航空隊の一氏から観測飛行について思わぬ厳し い?お達しがあり、これまでの状況と大分違うことに困惑。とりあえずいつもと同じ 姿勢で臨んだところ、搭乗してみればクルーもいつもどおり、いや、いつも以上の協 力態勢。このところヘッドセットのないこともあった(結果的にはこちらからお願い して貸してもらった)が、今回は2名分最初から座席に置かれている。モンキーベル トの用意もあり、はじめからドアオープンのつもりで飛んでくれた。(もっとも、一 昨日の事件?を受けて、気象庁からモンキーベルト用意等の依頼をしてくれてあった 、と気象庁に戻ってから知った。ありがたい。)事件請負窓口の津久井さんには気の 毒なような申し訳ないような気持。おかげで今日は快快適飛行だった。 3月21日の「おおとり6号」は前寄りに下降式の小窓があり、中央の大窓は半球状 に飛び出したタイプのすぐれものだが、何度かお世話になっている「おおとり1号」 は前寄りの小窓の位置にウィンチがありそのアームが額のすぐ前まで張り出している タイプ。(いねむりすればおでこをぶつけて自動的に目を覚ます仕掛けになっている 。試したことはないが。注意喚起と防護のためか、今回から?はビニールテープを巻 き付けてある。)この「おおとり1号」で観察の場合はドアオープン必須と言える。 いつもそうだが今回も、飛行ルート等こちらの要望を十分に汲んで飛んでもらえた。 教官役のベテラン機長・度々お世話になる若い機長(往路と復路で操縦席交代)・整 備担当氏の観測協力に感謝。 2.搭乗観測者 : 川辺(地調)・ 大島 3.天候・飛行コース・時刻等 :  雨になりそうな曇。天気が危ぶまれ(南ほど悪そう)、だめだったら引き返す予定で 定刻発進。薄モヤの中を高度1500ftで南下したが、三宅上空は曇。8000〜8500ft 以上に雲が拡がり、その下は日光なくかすんでいるものの結構見える!  搭乗時間 08時59分 〜 12時36分 (三宅島観察の後、神津島で給油)  観測時刻 09時53分 〜 10時56分 (1時間03分間) 8:59 東京ヘリポートにて搭乗。   9:00 発進。 9:01 北に向かって離陸、視程よくない。      天候のためか定点以外はいつもの警視庁コースよりやや東寄りの  〜 田町 〜 多摩川園 〜 みなと未来21からは真南へ 〜 田浦 〜 武山 〜  城ケ島の真上 〜 伊豆大島東方(島は見えない、なぎ。白波はちらっ程度、ずっ と高度1500 ft の安定飛行) 〜 9:4X 前方うす暗い中にうっすらと島影が見えてくる。上空に雲。      結構太めの白煙が弱い風で北東に上昇して雲底に入っている。 9:50頃 三宅島北西空域到着。可能な限り先ず全景を見るのと噴煙の高さを      確かめるために、高度は徐々に上げてもらってきていた。最高7500 ft。 天候曇。薄靄がかかり光も足りないためドアオープンは必須。(左席の川辺氏が右席 へ、右席の私は右後席へ移動。)噴煙が北東に流れているため、また上空は雲に押さ えられているため東側飛行は不可。右ドアオープンで西側からのカルデラ内観察(南 〜西〜北)を4回繰り返す。 1回目: 高空(7500 ft) 2回目: 中空 3〜4回目: 低空〜超低空 5回目: 中腹(南〜西斜面)の浸食状況の観察 6回目: 都道沿い(坪田〜阿古〜伊ケ谷〜伊豆〜) 10:56 神着で反転、離脱。 11:08 神津島着陸。       三宅島とは異なり東の風で久しぶりに南岸をまわって西から進入した。 11:32?給油、搭乗後、エンジン始動。 東向きに離陸。 〜 天上山の東 〜 式根島の東 〜 向山の真上を通過、宮塚山〜新島山東側面沿 い 〜 三原山(火口の噴気状況確認) 〜  城ケ島西方 〜 葉山南から内陸へ  〜 通常ルート 12:35 東京ヘリポートに北から着陸、 12:36 降機。ヘリは2〜3名乗 せて立川へ。 4。 観察事項 4−1. 噴煙 弱い南西の風で噴煙は rim上に上がったのち北東へ。白色。灰を交えず。流れる先は (海上で)雲の中に入っているので上限不明ながら、更に高々には見えない。雲底近 くまで上がったヘリの高度7500ftが島内噴煙の丁度最高位。 噴煙量は、3月21日の少なさは別格として、元のように回復してきているが、排出に 力強さを欠く。(以前のモックモックではなく、だれている。パルス状でないとまで は言わないが。) 噴煙下部はやはり青白く見える。スオウ穴付近で噴煙左側面に接近したが、いつもの 臭いが機内に立ちこめた。 4−2. 火口 噴煙の主な排出点は第2主火口(ふだん主火口と呼んできたカルデラ中央寄りの火口 の東隣)に見え、主火口、南火口も復活。しかし弱い。北西の噴気帯の活動も顕著な もの4本余り復活。ただしこれも弱く、高さ150mくらい。 主火口からは(一般にはもうもうとしているが)2本の白煙が見分けられ、中央から は出ない。崖錐に最も厚く埋まったためか? 南火口の詳細はもうもうとした白煙に邪魔されて不明。 噴煙量が回復したためもあり、南壁の様子も見えない。 4−3. カルデラ底 カルデラ底に際立った変化はない。中央の(火口丘北麓の)湿地帯状小池群は、21日 には見えないようだったが再現している(21日は降灰で一時的に見えなかった?と思 ったがそれでいいらしい。)但し以前の透明水だけでなく、赤茶色の小池もある。北 東にも赤茶色の小池があるよう。18〜19日の降灰の影響だろう。 なお、スオウ穴は相変わらずきたない草色。 北池もきたないオード色。特段の変化を感ぜず。 西池(黒池)は相変わらずの黒池。しかし湖岸(池岸)沿いは赤褐色、赤みが見える 。西池の平面形は少しずつ変化している。その最大要因は西壁崩落による崖錐の成長。 4−4. カルデラ縁 (気になるカルデラ縁と火口の詳細観察の時は、西側カルデラ縁地上すれすれまで超 低空飛行してくれた。これは初めて。10月7日の陸自機よりも低い。哀れに突っ立っ た葉のない樹木の木肌、折れた小枝まで見え「ちょっと失礼」と言って一歩踏みだせ ば石が取れるくらい!もちろん大袈裟な表現だが、まさにそんな感じ。) そこで真近かに見たカルデラ縁の地割れは、 南西〜南は特に変化なし。もっとも、南から先は湧きだす白煙でよく見えない。 さらに南東縁には新たな地割れの可能性あり。(白煙の下の遠望で確認まではできな いが。) 西側の大地割れ、カルデラ縁から南側ほど外側(西側)深く50m?山麓側まで入り込 み、開口幅は最大5m前後か?1本長さ20m?が断続的に3本以上1列に。列上の開 口していない部分も細い幅30cm以下の地割れで連結。至近距離に近寄ってみると、内 側(カルデラ側)ははっきりと一段低まっており、北寄りほど落差大。カルデラ縁に 抜ける北端あたりは一部落差10m近い?南端開口部でも1m近い。落差の大きい部分 では並行する階段状地割れを伴っている。総延長今のところ200m弱。深く入り込ん だ南側に今後どのように進展するか注目。(外側に傾斜した斜面のままずり落ちてい る。) なお、この下が黒池の崖錐。前から言っていることだがほぼ崖の色が池の色。供給物 によるところ大。 北壁上も一部地割れ顕著。崩落準備OK。 4−5. 斜面上半部 南〜南西〜西〜北各斜面の上半分、あらためて言うまでもないがガリの発達著しい。 南南西のスポーツセンター東の長大なガリの浸食は着々進行。集水域広い割に中〜下 流の谷が狭いのが雨期気掛かり。一気に海へ鉄砲水となりそう。 4−6. 1周道路沿い このところ大雨も無いし、泥流被害も予想されないが、時間の余裕があり、久しぶり に1周道路沿い観察ができた。 くもり空でも穏やかな天候で、島内の人の行き来は結構盛ん。阿古漁港にはえびね丸 が入っている。東海汽船も着いたらしい。都道南の不通カ所は重機が出て、東西両側 から工事が進んでいる。狭い谷、長大な流路を考えるとかなりスパンの広い高い鉄骨 橋をかけないとやられるだろう。その東、バスの埋まった泥流デルタ部分では土石排 除して都道は開通している。アカコッコ館駐車場は器材置場に。 しかし印象的だったのは、春だ。しばらく見ないうちに、南の島にはひと足先に春が やってきていた。緑が豊かになった。特に坪田付近の緑は鮮やかになった。新澪池火 口の中も。降灰をあまり受けていない地域の植物は確実に再生している。しばらく島 の上半分の灰色の世界ばかり見ていたために、余計感じたのかもしれない。カラフル な屋根の家々に変わりは見えない。水平屋根は別として、過去の降灰は殆ど洗い流さ れている。住人のいないのが悲しい。 5。 おまけ 3月27日(火)の状況 パイロットの1人は昨27日、八丈島へのフライトがあり、途中三宅の様子を見てい った、とのことで、以下の様子を聞かせてもらった。 「強い西風で噴煙は東に倒れ、山腹に沿って下降していた。下部に青白ガスが見えた 。火口(カルデラ)内は白煙充満して、中は見られなかった。」 (1〜3月の冬型の気象条件の日によく見られたパターンだ。) 6。 番外編 観測飛行について 今回の飛行では、カルデラ縁沿いで超低空飛行がおこなわれたが、教官役のベテラン パイロットが若手パイロットに観測飛行方法を伝授する意味が含まれていた。 ベテランパイロットは8月段階の噴煙が高く上がった時の経験から、「噴石が高く上 がる場合、へたに中高度を飛んでいるとかえって危険、逃げ遅れて直撃をくらう恐れ がある。火口縁(カルデラ縁)沿いの低空飛行なら、いざという場合、機をちょっと 外側にズラすだけで火口縁が楯(蔭)になり直撃は避けられる。(急加速できない) 低速飛行でもズラすと同時に山腹斜面沿いに下降加速すれば安全に離脱できるはず」 、という意味の話だった。 今噴石が飛ぶような懸念はありませんよ、と言いたいところだが、99%そうであって も、この際それを主張する必要はない。そういう場合の飛び方の一つとして、こちら も対処の仕方の対話を聞いていた。 三宅の現状にはそぐわないが、伊豆大島86年噴火の時は多少これが当てはまると思え た。三原山の連続噴泉を火口縁で観察していた時、放物線を描いて真上に噴き上がる 噴泉とは別に、時々異端児が出る。低角で横に飛び、直撃弾として火口壁にぶち当っ て赤く砕け散る。(火口壁にヨダレがかかる。)時には火口縁より外まで(やや高角 で)直撃弾が飛ぶ。(岩に当たってピシッと音がする。)横に飛ぶのは見えるが、真 正面から(こちらに)やってくるのは殆ど見えない。で、私も接近した危ない所では 岩かげに隠れながら写真を撮っていた。銃撃戦と似たようなもの。 今回の超低空飛行は、火口の様子とカルデラ縁をできるだけ近くで見たいという要望 にこたえて、たまたまベテランパイロットから若手機長へ伝授のかたちでとられた飛 行方法で、どのパイロットもこうするとは限らない。 観測班のみなさん、以前飛行隊からも言われているように、こちらから要望を伝える ことはあっても、すべては機長判断にゆだねるようにお願いします。これまでもそう してきたと思いますが、以前伝達ミスもあったので、あらためて。 この4月からは 新しいパイロットも入るようです。 (大島 治) (大島 治)