2001(平成13)年4月27日(金) 1.観測支援: 東京消防庁ヘリ 「かもめ」  JA8996?号機    立川より飛来。観測専用のため、三宅島観察後無給油で東ヘリに帰投。    クル−3名と我々観測員2名のみ。窓広く室内空間あり機内環境良好。   「かもめ」は両側小窓が開く。これは助かる。クルー大変協力的、感謝。    観測関係者は末尾の付記参照。 2.搭乗観測者 : 高田(地調)・ 大島 3.天候・飛行コース・時刻等 :  都内は晴。しかし霞んで視程あまりよくない。南はあまりよくない予報だったが、島 は無風に近く、思いの外よく見えた。  搭乗時間 08時48分 〜 10時53分 (立川より飛来、エンジン停止後降機)  観測時刻 09時38分 〜 10時07分 (約30分間) 08:48 東京ヘリポートにて搭乗。   08:51 着陸機を待って北向きに離陸、右旋回で機首を南へ。      (入れ替わりに警視庁「おおとり」が南から進入・着陸)  08:52 いつもの東消庁コース     (〜 海ホタル 〜 富津洲 〜 浦賀水道 〜 伊豆大島東方 〜)       羽田着陸機を避けてか初めいつもより東寄りコースで飛行、海ホタルに は北東から接近。海ホタルの北・南とも、海面には赤ペンキを流したような赤潮が何 条も。東消庁コースの東京湾内で見るのは初めて。主に南西〜北東方向。 浦賀水道を北へ浮上航行する海自潜水艦あり(えひめ丸の時節柄?機長案内、左窓か ら覗き込む。) 伊豆大島は西方に霞んで見え、新島は霞の中に向山が白く光る。大島を過ぎても海面 は実に穏やか、白波なし。高度 4000 ft の安定飛行。 09:35頃 三宅島接近。上空に薄雲、曇り。殆ど無風と見え、噴煙は真っ直ぐ上 がり、丁度雲底の高さで南西にたなびいている。高さは山頂から島の高さの3/4、す なわち海面上約1300mまで。 上空の薄雲と視程不十分のため、高空観察はやめ高度約 900〜1000 mの観察からか かる。 09:38 三宅島北岸到達(湯の浜漁港)。    神着山側の貯水池(遊砂池)にはユンボがいる。堆積した土砂の排除作業らしい。 ○ 明治火口列沿いにスオウ穴に接近、カルデラ縁沿いに時計まわりに北〜東〜南へ 。噴煙が真上に上がっていて下があいているためそのまま〜西〜北へと1周してカル デラ内観察。続けてもう1周観察、計2周。 ○ スオウ穴過ぎの北東縁から中腹〜海岸へと高度を下げ、坪田から新澪まで都道沿 いに泥流・復旧状況(応急架橋も)を見る。 ○ 新澪から山頂側へ上昇、村営牧場を1周、泥流・谷の浸食状況を観察。 ○ 牧場東の南斜面をほぼ雄山林道沿いに下って、都道/海岸沿いに、阿古(錆ケ浜 )〜伊ケ谷〜伊豆〜神着〜赤場暁〜三池まで。 10:07 空港北で左旋回、北上離脱へ。   〜 伊豆大島の東 〜 城ケ島東 〜 久里浜 〜 富津岬(ハンググライダー がのんびりと浮いている。木更津近くで南下する陸自CH47Jとすれちがう。乗ってい るのは以前お世話になった隊員かも)〜 海ホタル(またまた赤潮、かなり湾奥まで ) 〜  10:51 東京ヘリポートに北から着陸、  10:53 エンジン停止後、降機。       (大型へり「はくちょう」が出発準備中、格納庫前には搭乗者10名くら いが待機していた。)      4。 観察事項 4−1. 噴煙 殆ど無風に近く、噴煙はほぼ真上に上昇の後、横に倒れていた。風向きは弱いながら も多少変化した模様で、当初(09:40頃)南西に弱くたなびいていたが、後半(10時 頃)には西北西にたなびいていた。 白煙。灰を交えず。 噴煙の高さは、北からの接近時に見ると、山の高さの 3/4、即ち 500 mくらい山頂 に上載せした感、海面上1200〜1300mというところか。 普通下部に漂う青白ガスはあまり顕著でない。弱い風のために拡散しているらしい。 しかし噴煙のたなびく方向には最も多いのであろう、噴煙下をくぐって周回飛行した カルデラ縁南西〜西側ではプーンと弱いながらもいつもの臭いを感じた(ヘリは小窓 を開けていた。) 噴煙量は、前回の観察(4月13日)より少なく、3月18日最大微動の後の3月21日の 別格の少なさよりは多いが、それに次ぐ感。 噴煙排出に力強さはない。以前、あるいは4月13日のようなモックモックはなく、火 口からただモワーとだらしなく上昇している感じ。長期間を通して見ると、多少の変 動はあるが明らかに減衰傾向と見える。 4−2. 火口 久しぶりにカルデラ内がよく見えた。大局的に変わりはないが、細部は随分変わって 見える。今日は全火口が白煙を上げている。 「主火口」とその東隣の「第2主火口」(合わせて瓢箪型)、主火口南隣りの「南火 口」が見え、更にその南東隣りの「第2南火口」がやっと姿を見せた! 「第2南火口」は白煙の排出状況から以前から存在が想定されながら最も奥のため白 煙に邪魔されてなかなか見えなかった火口だ。それが、今回は西側から見て南火口の 後方に輪郭を見せている。本当に「やっと見えた」気持。 よって、北西噴気帯や火口丘周辺の噴気を除くと、火口丘主部分では4つの火口が活 動していると言ってよさそうだが、噴煙の出具合をよく見ると、「第2主火口」の南 東に更に「第3主火口」が、「第2南火口」の南東に「第3南火口」が、ありそうに 見える。特に「第3主火口」は可能性が高い。(去年、主火口は3つ縦に並んでいる と認識して日付は忘れたがこのレポートにも書き、その後はっきりしなくなっていた が、やはり以前の観察どおりでよかったらしい。「第3南火口」はまだあやしい。) 前回(4月13日)も記したが、「主火口」とその東隣の「第2主火口」(〜「第3主 火口」)の列と、「南火口」〜「第2南火口」(〜「第3南火口」)の列とはほぼ並 行しており、南列の延長上に北西噴気帯の主列がある。 今日観察中の噴煙(白煙)排出活動は、「第2主火口」が最も盛ん。上空まで高々と 上がるのはここから発しており、「第3主火口」からの白煙もこれに合体しいるよう に見える。「(第1)主火口」からは4本くらい細く上がるが高さ100m弱、「南火 口」も弱く高さ100m弱のことも、(おかげでその後ろの「第2南火口」の縁が見え た訳だが、)「第2南火口」も弱く200m? 南火口列が不活発なのは、背後のカル デラ南壁の崩落の影響もあるかもしれない。 なお、「第2主火口」も「第2南火口」も南東縁はまだ見えていない。 白煙盛んな「第2主火口」も中心は排出せず(地肌が黒く見える)主に南寄りから出 ている。北寄りからも少々。 火口丘外からも今日は各所から噴気が上がっている。 (イ)北西噴気帯: 大分けにして約4カ所から白煙が上がり、中2本は400mくら い(カルデラ縁まで)上がっている。北西延長上のカルデラ壁下の崖錐両側でも相変 わらず細々と噴気を上げている。主火口に最も近い円形火口は4月13日は活発だった が、今日は弱い。 (ロ)火口丘北西斜面の亀裂: 中部と下部で白煙再開、ただし高さ100m以下。 (ハ)火口丘北斜面下部: 以前と同じく弱いが続いている。100m以下。 (ニ)火口丘東斜面: 昨年9月3日確認の大亀裂沿いで相変わらず5〜6本上がる 。200m以下。側壁は硫黄で黄色ぽく見える。(後述のように、カルデラ南東壁の崩 落物がなだれ下って、この亀裂埋没ぎみ。) 4−3. カルデラ底 基本的に変わらず。しかし細かく言えばかなり変化。 4−3−1.西池(黒池):  カルデラ南西壁・西壁の崩落による2カ所の崖錐の成長に伴って、西池(黒池)の 輪郭若干変化。相変わらず黒く、南岸はえび茶色。「中之島」はほぼ不変。よって水 位ほぼ不変と見える。 4−3−2.カルデラ底中央:  火口丘北麓のカルデラ底中央部は水浸し状態。黒池に隣接するものから中央まで5 個以上の小池が認められる(1つの池と言いにくいくらい不定形に互いに連結した水 溜まりもある)。位置により、無色透明、青、茶色など様々。 4−3−3.北池: 相変わらずの草色。 4−3−4.北西マウンド:  これまで西側から見ることが多かったが、今回(久しぶりに)東側から見てみると 比高が結構高くなったように見える。(過去の個人的認識不足かもしれない。)北池 からの比高50mはあるか。表面の岩塊分布などに変化は見られないが。 4−3−5.東側底:  東側カルデラ底はこれまで噴煙に隠されることも多く(少なくとも個人的には)最 近はっきり観察したためしがないが、今日すっきり見えてみると、大分変化している。 4−3−5A.赤い岩なだれ  先ず今回新たに、南東壁の崩壊物の「岩なだれ」が加わっている。 南東カルデラ壁は丁度1535年割れ目火口の1つを断ち切るかたちになっていたが、そ の主に南側が崩落している(北側も少々)。この付近は元々割れ目噴火による赤色酸 化アグルチネートが卓越した部分で、去年夏に「赤色降下物」を供給したところだが 、その一帯のアグルチネートが崩落、なだれ状の「赤い帯」となって火口丘東側を囲 むように大亀裂沿いに北流、火口丘北東麓のカルデラ底近くまで進出している。長さ 約600m、最大幅100m以上。 この堆積物の上流部は主火口列(上記「第3主火口」)東限に迫っており、第3主火 口に若干なだれ込んだ可能性もある位置関係にある。カルデラ壁下の崩落斜面(上流 部)には直径10m超の岩塊がひっかかって鎮座している。 4−3−5B.以前の赤い岩なだれ  1535年割れ目火口列の北隣りのカルデラ壁にも崩落の跡がある。 今回の「赤い帯」に敷かれるかたちで、古い「赤い帯」が黒みを帯びてより東壁側に 分布、北池近くまで達している。(これは以前も認識していたが、給源までは見えな かった。)堆積物分布を逆に辿るとその給源ははっきりと南東割れ目火口列の北隣カ ルデラ壁に行き着く。 4−3−5C.南東割れ目火口列付近  南東割れ目火口の断ち切られた地形自体はあまり変わっていないが、少しは崩落・ 後退したらしい。いま火口壁北側の一部はブロック状に剥がれ、カルデラ内へ転落寸 前の段階にある。(一押しで落ちそう。) 4−3−5D.まとめ? このところなかなか見られなかった間に南東カルデラ壁の崩壊は結構進んでいる。そ のため南東カルデラ縁下からカルデラ底にかけては、ゆるい斜面になっている。(ま だ上部に落差150mくらいの切り立った壁はあるが、将来カルデラ底への降り口はこ の南東側からになりそう。) 4−3−5E.おまけ、 何とカラスが。。。 南東縁沿いに飛行中、思いがけないものを見た。上述の南東カルデラ縁より下、火口 との間のカルデラ内を何とカラスが悠然と飛んでいるではないか。1羽。白い噴煙を バックに黒だからすぐわかる。伊豆大島1986年11月21日の割れ目噴火にもカラスは大 勢寄ってきた。物見高いことは知っていたが、火口見物か?? 以前三宅中学ヘリポ ートに降りた時、多数の猫とカラスがやってきた。その後島に渡る人がキャットフー ドを持っていくと猫とカラスの争奪戦が行われているとも聞いた。戦い破れた1羽が カルデラ内までエサを探しにきたのだろうか? 我々にとって大切な情報は、カラスが墜落していないことだ。火口近くの低いところ まで行ってもガスにやられていない。まだ多少気が早いことだが、そのうちに状況次 第で我々も中に入って観察できないものか?? だめなら、利口なカラスを手なづけ て、ハンディカムを背負って中を隈無く飛び回ってもらえないだろうか? (ひょっとすると既に墜落したカラスもいるかもしれない。小さくてとても見つけら れないだろうが、今後一応留意はしておこう。) 4−4. カルデラ縁と斜面上部 今回東側を周回できたことで、これまで「?」だった南東〜南縁の様子が大分つかめた。 4−4−1.東カルデラ縁:  元のカルデラ縁を辛うじて残して、細い平坦面を見せている。カルデラ内外両側に 雨裂が生じ、平坦面が少しずつ削られてきているが、目立ったテンポではない。 南東割れ目火口列より北に以前から地割れが見られた。西縁上に見られるのと同様の 、恐らく地下が底抜け(下位がカルデラ内に崩落)したための陥没穴とみられ、長さ 10mx幅2〜3m程度の開口部が少なくとも4個、カルデラ縁沿いに1列に並んでいる 。(区間延長100m程度、カルデラ壁の外側(山麓側)30mくらいに並行。) 以上は目新しいことではないが、再確認。 4−4−2.南東カルデラ縁:  4−3−5で既述のように、南東割れ目火口列の南北両側が崩落したために、カル デラ縁は南北両側が若干後退、火口列の火口壁(南北両翼)がやや突出したかたちと なった。 新しい南側崩落崖上には崩落し損ねたブロック(長さ15mx幅3mくらい)がオーバ ーハングぎみに剥がれている。(崩落は時間の問題、多分これが見納め。) 4−4−3.南カルデラ縁:  これまで噴煙に邪魔されてなかなか見られなかった部分だ。南西地割れと同様な2 重〜3重の亀裂が走り、中空に抜けるその走り方からすると既に相当崩落済みと見え る。丁度火口のすぐ背後の位置に当たり、この南壁の崩落が火口(特に南列)を一時 的に閉塞して噴煙排出状態に変化を与えたことはほぼ間違いない。但しカルデラ縁か ら火口まで落差があまり大きくないため、震動データとしてどれほどキャッチされた か疑問。 4−4−4.南西カルデラ縁:  以前から注目の地割れ(亀裂)に特に変化はない。北西噴気帯の上に位置し、地表 面に変化ないものの、カルデラをはさんで北東側から遠望すると、壁面の最上部20〜 30mくらいを除いてその下落差200m以上(横幅100mくらい)にわたって剥がれ落ち て新たな(赤を主とした)壁面を見せており、上部崩落も近いと思われる。この崩落 はもし一気にいけば落差が大きいため震動データとしてキャッチされる可能性がある が、すでに活動の弱い噴気帯の一部を覆うだけのため、噴煙状況に大きな変化をもた らす可能性は低い。 4−4−5.西カルデラ縁:  これまでも注目の西南西縁の地割れ(底抜け穴)に大きな変化はない。この下は黒 池背後の崖錐に当たる。ここよりも北隣りの西壁の崩落の方が、このところ盛んに見 え、崖錐も黒池背後より大きくなった感がある。 4−4−6.北カルデラ縁:  噴煙活動に直接関係ないが、崩落は進んでいる。スオウ穴西方縁は縁沿いに5〜10 m幅の地割れ(亀裂)が4重〜5重に生じ、内側のものからカルデラ内へ傾きながら ずり落ち始めている。内壁のアグルチネートの赤さがひときわ目をひく。 4−5. 斜面周辺〜山麓部 4−5−1.牧場付近:  南西斜面からの谷の浸食、そこを通過して牧場に扇状地状に拡がった泥流、徐々に ともに進行中。谷壁には二男山にも見られる赤いスコリアが露見している。東方の谷 、拡大・浸食進行中。 4−5−2.都道仮設橋  一周都道の不通個所、路盤のえぐられた新澪〜大路間には先日、津久井さん上空監 視のもと??仮設橋が架けられた。その橋を初めて上から見た。どんな橋になるのか 興味津々だったが、心配になった。崖からもっと遠ざけるべきではないか?そしてス パンのもっと長い、できれば床高の橋にしなくて大丈夫なのか? この沢は途中斜面で流路は狭い。一方上部で集水面積は広い。大雨の場合、鉄砲水と して一気に沢を下り、都道部分では滝になって橋を襲うことはないか?岩塊を含めば 破壊力は大きい。狭い橋脚をえぐることはないか? 個人的には雲仙93年4月28〜29日の大土石流の体験が重なる。水無川の狭い流路の脇 で直径1〜2mの岩塊が互いにぶつかり合いながら時速40キロくらいの自動車並みの スピードで走り下るすさまじい地響きを体験、湯しぶきを浴びた。(のち、岩塊によ って農道に架かるコンクリート橋「茶屋の松橋」は破壊された。)下流の町は厚さ2 〜3mの土石流に埋没、破壊された。あの凄まじさからすると、この橋はあっという 間に流される。 但し条件は違う。雲仙では元々多量の溶岩塊が供給された。三宅はとりあえず薄く積 もった火山灰と地表浸食で集めたスコリアに水という想定か。その道のプロの計算だ ろうから余計な心配なのだろうが、都道に出るまでの谷の細さを見るとつい、本当に 大丈夫?と思ってしまう。 4−5−3.復旧進む  穏やかな天気のためか、阿古港外には東海汽船とえびね丸2隻が来ている。今日は 神津島から大勢やってきたと見え、島内の車の動きも慌ただしい。 4−5−4.伊ケ谷の海蝕崖  久しぶりに伊ケ谷の海蝕崖を見る。カバーしたセメントは殆ど剥がれ落ち、崖下に はかつて見なかった砂浜が出来ている。幅20mくらい。潮の干満によるのかもしれな いが、大久保浜のミニチュアを見るよう。 4−5−5.都道沿い、北〜東異常なし  前回?泥流に覆われた赤場暁もきれいに路面が見えている。山腹上部の谷の浸食は 進んでいるが、山麓部は阿古から時計まわりに三池までとりあえず異常なし。今後の 雨期が気になる。  (大島 治)