5月21日(月) 1.観測支援: 警視庁ヘリ 「おおとり6号」 JA6786(Bell 412 型 機)立川より飛来。ベテランクル−3名。搭乗者は我々観測員2名の他に警視庁 交代要員3名(三宅警察署2名、神津島災対本部?1名)。このため先ず三宅中 学に2名を送り、その後上空観察、神津島で給油。帰りは神津から東京へ戻る交 代要員3名同乗、往復路とも計各8名。  三宅島上空には雲がかかり観測条件良好ではなかったが、雲の隙間をかいくぐ り、高空に抜け、あるいは雲底をくぐる超低空で、と様々なルートをとって(執 念の飛行で?)わずかなりとも火口を見せてもらえた。ベテランパイロットの厚 意・観測協力に大感謝。  警視庁ヘリは私にとって4月4日以来の久しぶり。(この間1ヶ月半あまりは ずっと東消庁ヘリだった。)今日の「おおとり6号」は前寄りに下降式の小窓、 中央に半球状大窓つきのすぐれものだが、観察時はドアオープン、ありがたい。 2.搭乗観測者:高田(産技総研<=地調)・大島(の2名右席前後に着席) 3.天候・飛行コース・時刻等 :   この項は観測飛行の備忘録として書いているため、火山活動に無関係の記述も 多く含まれています。忙しい方・読むに堪えない方は第4項へどうぞ。 しばらく続いた五月晴れもいよいよおしまい、西から雨雲が近づいていて今後し ばらくぐずつき模様との予報で、今日は駆け込み観測の観。朝から薄モヤ、視程 よくなく高曇。殆ど無風に近く、洋上は穏やか。三宅上空も無風に近い南西の風 らしく、真上に上がった白煙が北東へ。山頂〜山腹に雲がかかって海岸部のみ 晴、その他曇。しかし前記のように雲をかいくぐっての飛行でチラッと火口も見 えた。  搭乗時間 08時59分 〜 12時25分 (三宅島観察の後、神津島で給油、30分休憩)  観測時刻 09時56分 〜 10時39分(約40分間) 8:59 東京ヘリポートにて搭乗。後席壁にぶらさがっているヘッドセット借 用。 9:01 南に向かって離陸。(「ズシッと重い」パイロットのひとりごと。) すぐに右旋回、原木の浮かぶ木場を右下に見て晴海へ、以後いつもの警視庁コー ス。都心のビル群もモヤでかすみ、視程よくない。 〜 田町 〜 目黒 〜 東工大 〜 多摩川園・丸子橋(多摩川ポイント)  〜(東横線沿い)〜 横浜駅 〜 金沢八景 〜  9:19 武山西から洋上へ。なぎ。白波なし。 視程あまり良くないため、海面の見える高度1500 ft の比較的低空飛行。 9:34 伊豆大島東方(島がかすんで見える。山頂カルデラから南麓波浮の低 地にかけて地形に沿って雲、弱い南西風の上昇気流で湧いているらしい。) (9:3X 利島・新島もかすかに見えてくる。海面の色が急に変わる。黒潮の 流れか、潮の境目は延々と青白い渦潮状。以南はねっとり青みの強い美しい海。 白波なし。) 9:49 前方にうっすらと三宅の島影。上空に雲。 9:5X 近寄ってからよく見ると無風に近い弱い南西の風らしく、火口からの 白煙は山頂をおおう低い雲から頭を出し北東側へたなびいて雲に混じっている。 9:55 大久保浜から西向きに三宅中学仮設ヘリポート着陸、三宅署の2名降 機。 9:56 タッチ&ゴー感覚で三宅中学発進。 観測開始。山頂にかかる雲は刻々変化、雲の切れ目をさがして西海岸沿いに上 昇。 1回目:(目測高度900m程度、時計回りに西〜北)  南麓大路池付近から山頂南西側へ接近、高度900m程度。山頂をおおう低い雲 の上。真っ直ぐ上がる白煙柱は真横に直視できるが下方は雲にさえぎられてなか なか見えない。西〜北側へ回るほど雲の切れ間からカルデラ縁・底がのぞくよう になる。北北東側に大きな雲の切れ間、火口が見える!もう少し進みたいが青白 ガスの流れ(煙幕)が眼前、スオウ穴でやむなく左急旋回。ぎりぎりまで引っ張 ってもらったようで機内に硫黄臭立ちこめる。ドアオープンのまま神着〜伊豆上 空を小半径で左旋回。 2回目:(高度変わらず、時計回りに北西〜北)  再度北西カルデラ縁に接近。しかし雲が増え観測条件悪化。北側から火口チラ ッ。スオウ穴付近の青白ガス手前で再度左旋回。ドア閉。  カルデラ内を覗ける雲間をさがしながら反時計回りに北〜西〜南〜東海岸ま で。青白ガス手前の空港滑走路北端で右旋回後、ガスぎりぎりの三池から山側 へ。更に徐々に高度を上げながら白煙柱を軸に時計回り開始。ドアオープン。 3〜4回目:(高度6000〜8000〜4000? ft、時計回りに南〜西〜北〜東〜南〜西 〜北) 下は殆ど雲。所々斜面がチラッ。白煙柱上半をじっくり観察。西〜北側に雲の切 れ間あり、カルデラ内中央部がチラチラ見える。火口は雲の中。高度を上げてき ているため、北東に漂う白煙・その下と周辺の青白ガスをまたぐ。南側 8000 ft まで上昇、途中白煙柱の高さを確認。下降しつつ再度西〜北の雲の窓からカルデ ラ中央を観察。青白ガスの壁を前に左旋回。ドア閉。  南西にかかる雲底がやや高まり、斜面との間に少し隙間ができた。しめた!雲 の下からカルデラ縁接近できそう。パイロットも同意。西側をまわって南東側の 大路〜坪田の海上で高度を下げる。「上がるより降りる方が3倍かかる」そうで 螺旋状に3回転。 5〜6回目:(カルデラ南〜西縁すれすれの超低空) 雲の下を坪田の町並からカルデラ南縁へと上昇。ドアオープン。緑〜茶色〜灰 色、上昇につれ、あっという間に植生変化著しい。セメント状に固まった上方降 灰斜面に枝葉を失った樹木が無精ひげのように立つ。その1本1本に手が届きそ う。縁からは白煙がわく。12月以来の南西地割れに接近。目の前10m!そのまま 地上すれすれに西縁まで。西側地割れの大崩落跡を目の当たりにする。そこで丁 度雲。左急旋回離脱。カルデラ底も見えたが慌ただしくて目が届かない。額や両 サイドに目があと6〜8コほしい。小半径旋回で西側地割れ再接近。もう雲がひろ がってきた。左旋回離脱。ドア閉。 雲の下、牧場西を低空で通過、阿古から離脱、神津島へ向かう。 10:39 観測終了 10:51 神津島着陸(東から)。交代員1名降機、給油。空港ロビーで休憩 待機。 11:25 神津島空港離陸(西向き発進)。 〜神津島西側〜式根島西側〜地内島上〜新島西側〜鵜渡根島西側〜利島東側〜 11:45〜11:48 伊豆大島三原山火口状況観察 12:02 城ケ島西、以後往路の逆。 12:25頃 東ヘリ帰着。 4。 観察事項 4−1. 噴煙  弱い南西の風のため噴煙は真上に上がり、北東にたなびいている。 白色。灰 を交えず。流れる先は雲にまじってその先不明。白煙柱の高さは上限高度 6200 ft(=1900m弱、ヘリで同高度まで上昇して確認)。 排出に力なく、太め(直径300mくらい?)だが息づかい(パルス)は感じられな い。 下部・周辺にSO2主体の青白ガスを伴い、ひろがる先は海岸部で北東の美茂井 〜三池浜北の60度程度の範囲。前記のとおり端に入るとまともに臭う。箱根大涌 谷の黒玉子付近程度で息づまる程ではない。  観察飛行中一時的に赤味のある煙がカルデラ北部から上がるのを確認 (10:19)。白煙・雲とは明らかに異なる。高空(高度7000ft あたり)から見た ので発生源は雲の下で見えないが、位置的にカルデラ北壁の崩落による可能性濃 厚。 4−2. 火口  雲のため全容は確認できなかったが、北側から主火口は見えた。 以前記したように、主火口は3コ連なる(N1〜N3)。その南側にほぼ平行に 南火口群が3コ連なるらしい(S1〜S3,このうちS3は噴煙排出状況からの 推定で正体未確認。これら6火口の配置図などは気象庁と中田氏に以前FAXで 送付)。 今日は主火口(N1〜N3)は低調(この3つの中ではN1が最も活発)。白煙 柱の位置からすると、主な活動は南側のS2(〜S3?)らしい。(雲にかくさ れて詳細不明。) 4−3. カルデラ底   雲の合間からの観察で全域は見られなかったが、次の点を確認。 4−3−1. 西池(=黒池)が以前(4月27日)に較べて多少変化。南西壁 の崩落による崖錐の発達が主な原因。 4−3−2. オード色だった北池が再び赤色化。北壁の崩落に対応の模様。 4−3−3. 中央湿地帯(火口丘の北側、以前から水浸しになることが多かっ たカルデラ底中央部)に少なくとも3つの黒池ができている。以前は無色透明の 水であることが多く、4月27日段階で「赤茶色の小池もある」としていたが、 「黒池化」傾向が強まった。元祖「黒池」(=西池)と同じく池の岸沿いは赤褐 色。 4−3−4. 東側の底に新たな目立つ堆積物はない。(4月27日に見られた 南東壁の崩壊による規模の大きな岩なだれの跡などはない。) 4−3−5. 西壁の崩落により崖錐発達、カルデラ壁とマウンドとの間の谷間 が埋まってきたように見える。 4−4. カルデラ縁   今回は南南西〜西側カルデラ縁を地上すれすれの超低空飛行で観察できた。 4−4−1. 南南西カルデラ縁の地割れ(雄山登山道カーブの東隣)は、殆ど 不変、ごく一部の薄い部分が欠落したのみ。 4−4−2. 西南西カルデラ縁の大規模地割れブロックの崩落跡を初めて見 た。4月27日に崩落前の姿を間近に見ているので、その明瞭な差はインパクト 大。残存ブロックは表面が北側に垂れ下がっており、しかも壁面は切り立ってい るので、いずれ遠からず崩壊の可能性大。気象庁に戻ってから5月18日の様子 を見せてもらったが、残存ブロックの表面のひび割れ等は今日まで殆ど変化な い。 4−4−3. 北カルデラ縁。十分には観察できなかったが、以前(4月27 日)に較べて随分低まった感。後退したようにも見える。カルデラ底の様子とも 対応し、また今日飛行中に赤味を帯びた煙を見たことからも、このところかなり 崩落・後退しているのではないか?精査に期待。 (大島 治)