6月1日(金) ヘリコプター:東京消防庁 かもめ(松丸機長・加納副操縦士・三谷機関士) 観測搭乗者:下司(東大地震研),石塚(産総研)  フライト: 午前9時02分,東京ヘリポートを離陸.クルー・火山観測者以外に 2名の同乗者(消防関係の視察)あり.東京湾中央部を南下. 9時46分,三宅島神 着海岸付近に到達,観測開始.はじめに高度を上げて,5500ft付近から全体を観察し, 高度を下げながら山頂部→鉢巻林道沿い→海岸線と1〜2周づつ観察.10時13分ごろ 観測終了,三宅島を離脱.帰路は利島,大島上空を経由して三浦半島葉山付近から内 陸へ.横浜,東工大付近上空を経由して11時09分東京ヘリポート帰着.  天候: 三宅島に近づくにつれ海上のうねりが大きくなり,白波が立ちはじめる. 三宅島付近高曇り.三宅島と御蔵島には島の山頂付近にのみモコモコした雲がキャッ プ状に発生しており,カルデラ部を隠してしまっていた.これは昨年の7−8月噴火 時にもしばしば見られた状態であり,これから上昇気流が発達する夏にかけて今日 のように山頂部のみ「曇り」で火口の観測が困難になることが予想される.  噴煙の状況: 白色の噴煙がカルデラ縁を出たところでほとんど横向きに南東方 向へたなびく(Figs.1,2).噴煙量は少なめ.アメダスによると観測時には三宅島 海岸部で風速 8m前後の西風が吹いており,強い風に噴煙が押し倒されているもの と考えられる.噴煙高度はときどき1200m程度まで到達するが,観測中のほとんどの 時間は 1000m前後で推移していた.噴煙の白色水蒸気部分は島内でほとんど消滅し ( Fig.3),青白いガス部分のみが,ほとんど広がりを見せずに幅1km程度の帯となっ て海上はるかへ漂っていく( Fig.4).ガス分布域の境界ははっきりしており,三 池付近では向こう側がほとんど見えないほど濃いガスが漂っていた( Fig.5).空 港付近,三七山付近でガス分布域に接近すると機内でも硫黄臭を感じた.  カルデラの状況: 風上である北西側から山頂部にかけて雲がかかっており,噴 煙は風下の南東側へたなびいているため,カルデラ内は東側のわずかな角度から しか覗き込めなかった(Figs.6,7).かろうじてスオウ穴直下の池などが部分的に 観察できたのみである.カルデラ縁を乗り越えて流れ出る噴煙がカルデラ縁付近で 急激に水分が凝縮して白色になるため,あたかもカルデラ縁に沿って噴気が出てい るかのように見える(Fig.7).  山腹の状況:目立った変化は見られない.先月27日の小噴火の際に降灰が確認さ れた三七山付近でも降灰の痕跡は見出せなかった.山麓集落部の植物は青々として いる(Figs.8,9).降灰とガスにより,一時全く植生が破壊され灰色の世界になっ ていた鉢巻林道より上の山腹地域でも,かなり広範囲で植物が芽吹き始めているの が印象的であった(Fig.10). (下司信夫) 写真キャプション Fig.1 南側から見た噴煙.ほとんど真横にたなびく. Fig.2 噴煙の出始め部分を高度5500ft付近から見下ろす.モコッとした白煙塊が 間欠的にゆっくりと上昇してくる.カルデラ内部は雲によって隠されている. Fig.3 噴煙はカルデラ縁から1kmほど下流に流されると,白色の水蒸気部分が消 滅し,青白いガスのみが残る. Fig.4 火山ガスはさらに海上を漂ってゆく.20km以上遠方まで視認できる. Fig.5 空港を横切る火山ガス.ガス分布域の境界ははっきりしていて,向こう側は ほとんど見えないほど濃いガスが流れている.今日,三池付近では10ppmの二酸化 硫黄を検出とか. Fig.6 カルデラ東リムを東から見る. Fig.7 カルデラ東リム.カルデラリムを乗り越える気流によって運ばれた噴煙が リムのところで水蒸気の凝縮によって白色化している. Fig.8 坪田集落の一部.建物や植物に目立った被害は見られない. Fig.9 阿古集落の一部.こちらも目立った被害は見られない. Fig.10 地獄谷上部,標高500m付近.緑色の部分が目だって広がってきている.