2001(平成13)年8月8日(水) 1.観測支援: 警視庁ヘリ 「おおとり6号」 JA6786号機       立川より飛来、三宅観測専用のため途中給油なし。       搭乗はクル−3名以外、我々観測員2名のみ。        2.搭乗観測者 : 高田(産総研)・ 大島 3.天候・飛行コース・時刻等 :  日本列島全般に晴だが、小笠原から東へそれた台風9号(955hPa) の影響で関東以南 だけ曇の予報。東京は 朝からうっとうしい全天の雲、ただし雨の様子なく決心は「実 施」。陸部〜洋上とも曇天(雲が多い割りに 視程10Hはあり)洋上は北東の風弱く 凪。しかし三宅島は雨だった!!   接近しても島影なかなか見えず、薄暗い中やっと北海岸線確認、島の上半部は完全 に雲の中で火口観察不 能、噴煙高度も視認できず。久しぶりの雨中飛行、中腹以下の 泥流や谷の観察などが主となった。  搭乗時間 09時02分 〜 11時30分   観測時刻 09時56分 〜 10時33分 (約35分間) 09:02 東京ヘリポートにて搭乗、  09:03 直ちに発進、離陸地点Hマークへ向かい待つこともなく、 09:04 北向きに離陸、すぐ左旋回、いつもの警視庁コースへ。 〜 田町 〜 目黒 〜 丸子橋 〜 新横浜東 〜 横浜駅東(一直線に南下のコ ースをとり、ふだんよ りやや東を飛ぶ)〜 磯子 〜 葉山 〜 城ケ島上から洋上 へ (陸部高度1800ft、海上高度1500ftの 安定飛行) 横浜付近でパイロットが諸島の天候をrequestすると、新島、神津島とも東北東(60〜 70度)の風、下層 1500ftにちぎれ雲(scatter)、上層5000ft 全面雲(overcast)、とま ずまずだったが、 続いて三宅島現地の別情報が入る:「役場付近かなりの降雨!」。風上側斜面の上昇 雲による雨か。 09:38 伊豆大島南端東方10マイル、霞の中、大島見える。上半分は雲の中。 09:56 北海岸線確認。 島の上半部は完全に雲の中、下半も雨模様で暗くかすむ。東半分は特に暗い。南西の 空はやや明るく阿古付 近は海岸のシルエットが見える。神着前ノ浜海岸に泥水による 茶褐色〜黄色の「変色水域」が見える。海岸 沿い観察に入る。 09:56〜 海岸沿い反時計回りに北〜西〜南西、錆ケ浜まで。        硫黄臭を感じて反転(軸下まで入った模様)。 10:01〜 阿古から海岸沿いに時計回り、北へ。        途中、伊ケ谷集落1周、前ノ浜〜上流の遊砂池にかけて旋回。        〜東〜南海岸沿いに富賀浜までほぼ1周に近い。        (富賀浜反転時臭を感ぜず、前方にミスト。)        (噴煙主軸は錆ケ浜(火口から西南西)方向。) 10:21〜 富賀浜より反時計回り、山側雲の下限(約300m)近くへ上昇、        鉢巻き道路沿いに南〜東〜北〜西の中腹を観察。 10:30〜 西斜面の雲やや上がったため左旋回上昇、西斜面上半に接近、        斜面上半部を北へ。しかし視界不良。そのまま 10:33 三宅中学ヘリポート上から北海上へぬけて観察終了。    島を離れるとまわりは急に明るくなる。雨と視界不良は島だけだった。 〜 伊豆大島東方 〜 城ケ島上 〜 磯子 〜 横浜駅西 〜 丸子橋 〜 恵比 寿 〜 有楽町 〜    (八景〜磯子の河口と海岸にペンキを流したようなどぎつい赤潮) 11:30 東ヘリ着陸、ヘリは荷積後立川へ。 4。 観察事項  風上の北東斜面を中心に雨。風下の西〜南西〜南側は雨量少。観察はほぼ標高 300m以下の雲より下のみ で、山頂部〜カルデラは見られず。 火山活動状況観察は噴煙以外ほとんど出来なかったが、地質からの総合理解、災害対 策等には参考になると ころ少なくなかった。普段の雨や大雨の際もっと観察する必要 を感じた。 4−1. 噴煙 東北東の弱い風により、西南西(錆ケ浜方向)に流れている。白煙。上限は雲の中で 視認不能だが、下限は 雲底より下まで垂れ下がって見える。下部周辺に青白ガスを伴 う。ヘリは1度軸下まで入ったと思われる が、臭いは以前に較べて弱い。SO2排出 量の低下に加えて雨による吸着もあるかもしれない。 4−2. 海岸変色水 降雨により増水した沢・谷からの泥水で、沿岸に「変色水」を生じていた。飛行中確 認地点は島をほぼ1周 したが2箇所のみ。降り始めからあまり時間がたっていなかっ たためとも考えられ、後刻増えた可能性も考 えられる。 その1。 前ノ浜海岸(神着)。明治溶岩流の左側端沿いの水路から勢い良く泥水が 海に吐き出されてい る。地上の流れは溶岩ぞいに最大勾配の真北向きだが、海岸に達 した明治溶岩流が扇状にひろがっているた め水流もそれに沿って斜に(北西に)海に 注ぎ込んでいる。 「変色水域」はここ前ノ浜東端を扇頂に、海岸沿い西へ200m余り(急崖を下る沢の出 口まで)、沖合い北へ 400m弱の範囲に広がっている。(当然ながら)扇頂側ほど色が 濃く、末端は白。 陸側下端で水は水路内を勢いよく流れており、溢れ出してはいない。 その2。 水溜り(八重間)火口から流出する「道の沢」の海岸(坪田) 道の沢の増水が海食崖を瀑下、南側沖合い200m弱まで、幅50m以下の淡褐色の「変色 水」を生じている。 集水面積広い大型火口にもかかわらず排水路は殆どこれだけ。「水溜り」の語源をあ らためて理解、押すと アン出る式の排水にも納得(火口南限から海までわずか約 500m)。ここは普段の雨でも滝になっているの だろう。 4−3. 谷と泥流 北東斜面を中心に、北から東までの中腹の谷という谷はすべて(に見えるが)谷川に なっている。普段は大 部分水は無いか目立たないが、白くしぶきを上げて流れ、両谷 壁をえぐる部分もある。しかし下流ではっき りと泥流としてひろがる様子は(上空か らは)殆ど見えない。下流の地質次第で吸い込まれている可能性も ある。 北斜面: 樹林地帯の沢に白い流れが幾筋も見える。神着上手の遊砂池には南東側か ら流入、工事中の中央 の土盛を茶色い泥水が山側から取り巻いて水位を上げている が、溢れるにはまだ1mくらい余裕ある。 北東斜面: 地獄谷をはじめ上部は勢いよく流れているが、下流の水流はそれほど顕 著でない。スコリア主 体の地表下にかなり吸い込まれているのか。 赤場暁にはかつてと同じルートで少量の泥流がひろがっている。(車の通行に支障を 来してはいない。)赤 場暁にひろがる場合、溶岩原の上にひろがる手前(旧湾岸)で 水の一部が溶岩の下に漏れてしまう可能性も 考えられる。 東斜面: 北東斜面同様に上部に白い流れが目につく割に、下位にまとまった流れは 見当たらない。(何ミ リかわからないが)この程度の降雨の水流なら、下流では地下 に吸収してしまうのだろうか?金層もある程 度溜め込む?(三池港への流れは特に見 えない。) 南斜面: こちらはあまり降っていない。 山澪西の以前廃車バスの埋まった泥流扇状地付近、沢に水流見られず、新しい仮設橋 の下も変化なし。 さらに西の大仮設橋。降雨があれば滝成すところだが、カラカラ。 (という状況にも関わらず、わずかに東隣の水溜りからはあれだけの出水があった。 すぐ溜まってしまうほ ど吸い込めない?今後見極める必要があるが「水溜り」の実力 にとりあえず脱帽。) 西斜面: 目立った変化見当たらず。 (昨年9月、降雨の中、伊ケ谷で泥流(一部土石流)が都道を流れ、漁港に下る道沿 いに海に瀑下、大「変 色水域」をつくっているのを目の当たりにしたため、今回も気 になったが、西側はあまり降っていないため 異常なし。) 念のため伊ケ谷集落を1周、谷筋を覗き込んでみた。以前の土石流で集落上流側の谷 底は既に拡大し、両岸 の植生も失われて谷底の地肌を見せていた(幅10m以上)。  (大島 治)