2000年11月27日(月) 1.観測支援: 警視庁 大型ヘリ「おおぞら1号」     (アグスタEH101型、JA01MP号機)    (機長;山村、副機長;秋元、機内;都築・山本・? のクルー5?氏)     搭乗者多数のため、大型機(ローターは1つだがエンジン2基)。    (座席:中央通路を挟んで左右2列ずつ。左前と右後に観察用の半球窓。     旅客機なみに快適、ただし窓は開かない。) 2.搭乗者 : 高田 亮(地調)・大島 治         他に、東京都災害対策関係者7〜8名、島の現状視察のため同乗。       (主に泥流対策らしい。) 警視庁の人も1名。 3.離陸時刻: 09:15 〜 着陸時刻: 11:48 (東京ヘリポート発着)        (09:56〜10:00 神津島に一旦着陸、警視庁1名交代)  4.現地観察時刻: 10:05〜10:52 の50分間弱 5.天 候 : 晴。 但し靄って視程あまりよくない。西の風。噴煙は東へ。        (海岸部では赤場暁〜空港南の範囲が噴煙下)         上空に雲なく、新カルデラ俯瞰可能。 6.飛行コース・状況 :   <往復コース> 東京ヘリポート〜横浜〜葉山〜伊豆大島(岡田/元町/千波崎)    〜利島〜新島西岸〜式根島〜神津島(touch-and-go-like)〜        阿古から進入 > 三宅島 > 伊豆岬より離脱     〜城ケ島東(宮川湾、風力発電)〜横須賀〜横浜〜東京ヘリポート  <三宅島観察コース> 西の風により噴煙が東へ向かっているため、赤場暁〜空港南方面を避け、火口(新カルデラ)は主に南 〜西〜北側から観察。搭乗者が両側に座っているため、機長の配慮で左右どちらからも見られるよう同 一コースを往復。(ただし多くの人は反対席を立って火口側に寄った。小舟ならひっくり返る?とこ ろ、この程度の人数ではびくともしない様子。なかなかの大物。) 1回目(高度約4000ft):西半往復(カルデラ俯瞰・壁・底の観察)         (時計回り)阿古〜西縁〜北縁〜スオウ穴で左旋回、         (反時計回り)北縁〜西縁〜南斜面で右旋回 2回目(高度約4000ft?):西半往復(カルデラ俯瞰・壁・底の観察)         (時計回り)南斜面〜西縁〜北縁〜スオウ穴で左旋回、         (反時計回り)北縁〜西縁〜大路池で右旋回 3回目(最高高度4700ft):鉢巻き道路沿い1周(カルデラ内と山腹斜面上半部の観察、         噴煙をまたぎ、噴煙高測定)         (時計回り)牧場〜西/北斜面〜東斜面で噴煙をまたぐ〜高度下げ南西縁接近 4回目(高度約3000ft弱):西〜北縁上低空より(カルデラ壁・底・火口観察)         (時計回り)南斜面〜西縁〜北縁〜スオウ穴で左旋回、         (反時計回り)北縁〜西縁〜大路池で右旋回 5回目(高度約1000ft):南〜西〜北海岸沿い低空飛行(山腹斜面下半部と居住地状況観察)         (時計回り)角屋敷〜阿古〜伊ケ谷〜伊豆(敷設中ヘリポート1周)〜神着で左回、         (反時計回り)神着〜伊ケ谷〜阿古〜大路池東で左旋回 6回目(高度約2000ft):西中腹を縦断北上(山腹斜面下半部と上半部、左右それぞれで観察)          坪田西〜村営牧場〜伊豆、離脱。 7.噴煙の状況(と二酸化硫黄、硫黄臭):  西風を受けて噴煙は東にたなびいている。純白色、灰を混えず。ほぼ連続的ながらパルス状に噴煙を 上げ、その柱が風で横に移動するため、よく見ると、東にたなびく噴煙の上限は山と谷の繰り返しに なっている。基本的に11月8日と同じ。低い「谷」は東縁上せいぜい200m(海抜約900m)、 「山」はヘリでまたいでみて高度4700ft(x 0.3048 =1432m)。飛行上の多少のゆとりを差し 引くと噴煙上限1400m弱か。ただ遠方海上ではもう少し上がっていて、目測1500〜1600m 程度。  噴煙の特に両側には青白いモヤが見られるのが普通だったが、今回は以前ほどは目立たず。(SO2 排出量下がった?風のせい?)  飛行中臭いは感ぜず。もっとも、噴煙に肉薄しなかったため、また機密性の優れた機体であるため、 かもしれない。 8.山頂火口(カルデラ)の状況: 特に大きな変化はない。 <噴煙火口周辺> 特に目立った変化は見られない。噴煙排出位置も変わらず。 最も active に白色噴煙(噴気)を上げるのは従来通り東よりの主火口。3個合体のうち、カルデラ中 央寄りが最も活発。西側に雁行する線上にも小規模な噴出点が6つ並ぶ。また、主火口をとりまく噴石 丘の西側斜面のクレパスからも噴気盛ん。 全体として噴煙排出は10月段階と較べれば明らかに減衰している。11月8日に較べても若干弱い感 じ。 <カルデラ壁と底> スオウ穴西側のカルデラ壁のえぐれ方が大きく、崩壊が進んでいる。このためス オウ穴は間口が拡がって見える。その壁下から北カルデラ壁下にかけて崖錐堆積物。このため以前の 「大赤池」は東半分の埋没が進み、北北西のカルデラ壁下に底辺をもつ鋭角二等辺三角形状の「中赤 池」になっている。その頂点近くの「中の島」は健在。底辺西端は新たな崩落物でやや縮小。なお埋没 した東半分のうち西より壁面直下の一部は閉じた水面を残している。ここは赤ではなく11月8日と同 じオード色。壁面の色に対応しており、少なくともカルデラ底の池では水の色が崩落物質の懸濁物に大 きく左右されていることがわかる。 スオウ穴西側が崩れた結果、北半カルデラ壁では特に北カルデラ壁が未崩落のまま相対的に内側にやや 出っ張った形となっている。いずれここも大崩落を起こすのだろう。 「中赤池」の西側、即ち北西カルデラ壁下の「高まり」は周壁に平行のリッジが明瞭で崩壊〜崩落物の 堆積(荷重+衝撃、垂直・水平両方のベクトルをもつ)による押し出しらしい(である)ことがますま すはっきりしてきた。 カルデラ底南半の火口〜噴気列に近い側は噴気の蔭の暗さとモヤでよく見えない。未確認だがボヤッと 見通す感じでは、噴気口付近にあった水面が減ったのではないか?(噴気減少による結露水の減少を意 味しているかも。) カルデラ南縁の変化は噴気に隠れてよく見えない。 <スオウ穴> カルデラ壁崩壊・拡大にもかかわらず、スオウ穴自体の水面は不変に見える。相変わら ず赤い。ただしかつてのペンキをトロッと流したような朱色に近い鮮やかな赤ではなく、ややどす黒さ を帯びた鮮やかに欠ける鉄錆的赤になってきている。 9.山腹斜面: 谷の切れ込み(えぐれ)が徐々に深く長くなってきている。最近発生した泥流〜土石流は見当たらない。 10.山麓居住地の様子: 特に変化なし。 新たな被害は見当たらない。 11月24日の大野氏の観察記録にある坪田地区の”黒色の降灰”は、追認できなかった。 今日のフライトは噴煙をさけて坪田地区の真上までは行っていないが、最後のコースの時(5回目から 6回目に移る際)可能な限り町に近寄ってUターンしてもらった。その際、町並みの全容と高校の屋上 等は一応見ることが出来た。高校の屋上は多少グレーではある。(しかし以前の写真と較べても違いは わからない。)裏のビニールハウス?のかまぼこ屋根は白いし、民家の屋根も白・赤・青など色とりど り。ハテ?屋上のグレーは新たな降灰だろうか?降ったのなら、ビニールハウスや勾配のある民家の屋 根の灰は洗い流されたと解さねばならない。平坦な地表はどうか?と思って見ても特に色付いては見え ない。また坪田より山頂寄りの山腹も緑の植生で最近降ったようには見えない。高校の屋上等の灰は、 8月の灰ではなかろうか。 もっとも「降灰があった」としても、現在、大した意味はないだろう。これまでの活動経緯を見ていれ ば、今噴火活動としての灰を生ずることはまずないとだろう。そのようなことができる状態にあるとは 考えにくい。考えられるのはカルデラ壁崩壊によるダストである。噴火そのものとは関係なく、これは よく上がる。(伊豆大島でもそうだった。)赤く酸化したアグルチネートやスコリア層が崩れれば赤い 煙が立って「赤い灰」が降るし、黒いスコリア層が崩れれば黒い煙で「黒い灰」が降る。坪田地区の” 黒色の降灰”が事実なら、カルデラ壁南側の崩壊があったことを意味している可能性が高い。 >ついでながら、逸話まじりのダストの1例(10月7日)をヘリ観察メモ補遺編として紹介する と。。。 10月7日、陸上自衛隊の双発ヘリ(HC47J)でカルデラ縁に接近中、機長から「赤い噴煙が上 がってます」。(内心、そんなはずはないがなあ。)我々3人(中野・金子・大島)がこれからカルデ ラ内を見降ろそうと、大きく開けた右側の扉に鈴なりになっている時だった。(扉はあいているが落ち てもモンキーバンドに繋がれているのでぶらさがるだけ。)「こちらからは見えませんけど?」「前へ 来て見て下さい!」はやカルデラ北西縁に到達して2人はすでにシャッターを切り始めた。せっかくの 観察チャンスに残念!とその場をすてて操縦室に飛び込んでみると、行く手に確かに「赤い噴煙」が上 がっている。(なあーんだ。)「火口壁が崩れ落ちて上がっている土煙です!」北壁下半部が崩れてい る最中だった。パイロットとしては当然、危険な噴煙なら突っ込んでいく訳にはいかなかったろう。残 念ながらこの際、私は右も前も映像に記録することは出来なかった。右扉に戻ると私の場所は2人で十 二分に占拠されていた。モンキーバンドがからまっても面倒、やむなく2人に覆いかぶさるかたちでカ ルデラ底を覗いた。はや東縁に近い。とっさに「今崩れたところ、右側から見らぁ (以下文字化けにつき省略) <追録> 本日のフライトの際、観察1回目の時、はるか下を火口(カルデラ)内を東から西に低空横断する小型 ヘリがいた。その時撮影したと思われる写真が朝日新聞夕刊1面に大きく掲載されている。写っている のは、主火口(3個合体のうちカルデラ中央寄り)と、主火口噴石丘の西側斜面のクレパスからも噴気。 (以上、大島 治) 文字訂正  最後の行   (誤)クレパスからも噴気。   (正)クレパスからの噴気。