2月27日(水) 今回の同乗者は伊藤順一さん(産総研地質調査所),竹内火山課長,中堀さん,杉浦 さん(以上,気象庁),平林さん(東工大),大久保さん(地震研)の計5名.搭乗 したヘリは警視庁航空隊の「おおとり3号」.天候は曇り.  午前9時2分,東京ヘリポートを離陸.この日はあいにくの曇天で,新木場上空から 新宿のビル群が見えないほど視程が悪かった.9時21分,葉山上空から海上に出るが, 江ノ島が見えない.しかし,南下するにつれ徐々に視程がよくなり,雲底高度も上昇 した.9時37分,伊豆大島が見えた時,雲は多いものの,三原山の山頂を確認するこ とが出来た.  10時00分,三宅中学に着陸.島内観測の平林さん,竹内火山課長,大久保さんを降 ろした後,10時12分に再離陸,COSPECの観測に入った.この時の三宅島は,山頂部以 外はきれいに晴れていた(写真1).COSPEC観測終了後の10時48分頃に三宅島を離れ, 新島空港へ向かった.11時03分,雲がほとんど無い快晴状態の新島空港に到着,給油 と昼食休憩を行った.新島空港のロビーで偶然見た気象衛星「ひまわり」の可視画像 では,ちょうど三宅島付近で雲が切れており,午後の火口観測に希望がふくらんだ.  12時33分に新島空港を離陸,12時45分に三宅島上空に到着,火口観測を開始した. 当初の予想に反して,カルデラ内がきれいに見えた.13時04分の観測終了まで,およ そ19分間観測を行った.観測コースは,島の北西側から反時計回りに島の南まで中腹 を旋回したのち,村営牧場上空で方向を変え,カルデラリム沿いを時計回りにスオウ 穴のすぐ西側付近(ほぼ真北)の位置まで移動.スオウ穴付近で再び機体を反転させ, 中腹域を反時計回りで村営牧場付近まで飛行した後,再びカルデラリムの縁を飛行. このルートを5回繰り返した.観測時の飛行高度は,最初の3回は約5000ft,最後の2 回は3000〜3500ft位.  13時10分に三宅中学校に着陸,平林さん,竹内火山課長,大久保さんを乗せた後, 13時11分に離陸,帰途につく.14時09分,東京へリポートに帰還.長時間にわたる丁 寧なフライトを遂行していただいた警視庁航空隊の皆様に深く御礼申し上げます. [噴煙] この日,上空は弱い北北西風だった.このため,噴煙は火口のほぼ真上に上昇した後, ゆっくり南南東方向にたなびいた(写真1).噴煙は白色で,放出量は1/30の大島さ んの観測時の状況とほぼ同じ.到達高度は海抜1600m程度(写真2)で,COSPEC観測時 (午前中)も火口観測時(午後)も変化がなかった.一方,青みがかった硫酸ミスト は,午前中はほぼ真南の方向に流下していた(写真3)が,午後は南東の方向に流下 していた.いずれも噴煙の流下方向とは一致していない. [カルデラ内部] カルデラ内部の様子はあまり変化していない(写真4,5).1/18のフライトで下司さ んが確認した北側の茶色い水たまりは,その後サイズがやや小さくなったように見え る.同じ日に下司さんが撮影した写真には,カルデラ底のほぼ真ん中あたりにも水た まりが認められるが,その水たまりは2/27の時点ではかなり小さくなっている.干上 がる寸前といえる.カルデラ底の西南西にある「黒水たまり」は,1/18の下司さんの 記載では「黄土色に変色」となっているが,今回観察した限りでは黒色を保っている (写真6).  カルデラ底の北西に位置するマウンドは,2/14の金子さんの記載によればやや比高 が高くなった(?)とあるが,よく分からない.ただ,前回当方が観測した時(2001 年12/26)に比べれば,確かに存在感がある.マウンドと黒水たまりとカルデラ南端 の噴気帯の間に囲まれた領域には崖錐からの転石が散在するほか,光の加減からか, いつになくデコボコしているようにみえる.  噴気を供給する火口付近は,ほとんど変化がない(写真7,8).ただ,コーンの麓 付近から上昇する噴気の量はいつになく少ない.ひょうたん型のメインのコーンは, 中央部のくびれが目立たなくなり,徐々に細長い形に近づきつつあるように見える. メインのコーンからは白い噴煙がもくもくと定常的に上昇しているが,南側にあると 思われる火口からは,青みがかったミストが直接放出されている.メインのコーンに ある火口の中をよく観察すると,その内側には黄色い硫黄がべったりと張り付いてい る(写真9).中にはどうやら複数の噴気帯があるらしい.青い硫酸ミストを放出し ている火口は,その中のうちのどれかに対応するのだろう.また,火口の中には岩塊 の様な固まりが点在しているように見える.周囲のカルデラ壁からの崩壊物が入り込 んだものと思われる. [カルデラ壁] カルデラの北側に位置するスオウ穴西側の新鮮な崩壊地形に由来する崖錐が目立つ (写真10)が,それを除くと新たな崩壊地形は認められない. [山腹および山麓] カルデラの南端に分布する火砕流状堆積物の境界が明瞭に認められる(写真11).湾 曲した雄山林道の埋没跡もまだ確認できる(写真12,13).カルデラ南西側の亀裂の 様子は1/23に吉本さんが撮影した写真の時の状況とほとんど変化していない(写真14 ).  村営牧場の北側には,2000年8月18日噴火の際に降下した噴石によって生じたと思 われる無数のインパクトクレーターが認められる(写真15,16).ほぼ同じ場所にあ る牛舎の屋根にも数多くの穴があいているのが分かる.牛舎の大きさから判断すると, インパクトクレーターの中で大きなものは直径数メートルはあるものと思われる.  赤場暁は,一時期はそのほぼ全域が泥流によって覆われていたが,昨日見た限りで は黒色を呈する本来の玄武岩の溶岩流らしい様相を呈する(写真17).この事は,火 山灰が大量に堆積している北東斜面では,最近は規模の大きな泥流が発生していない ことを意味する.その一方で,島の建造物は至る所で茶褐色に変色している.例えば, 写真18(神着地区)では,母屋への坂道上に車の轍が認められる.同様の変色は,三 宅支所や三池港の建物や,海岸沿いのテトラポットなどにも認められる.これは今回 初めて気がついたわけではなく,昨年の3月頃にすでに認められていた.このような 変色がほぼ1年間も継続しているということと,変色をしている建物の建材が主とし てコンクリートであることから,変色の原因は火口から流下する硫酸ミストとコンク リートの間の化学的な相互作用によるものと予想されるが,詳しいことはよく分から ない. (大野希一) [写真の説明] ※撮影時刻は誤差1秒以内です. 写真1 北東から遠望した三宅島.午前中は山頂だけが雲に覆われる.風が弱いため, 噴煙はほぼ真上に上昇した後,南南東に流れていく.このときの噴煙の到達高度は海 抜約1600m程度.10時22分00秒撮影. 写真2 北西から見た三宅島.午後になると,噴煙の主要部分は午前中とは異なり東 (つまり画面の奥)へと流れていく.13時06分32秒撮影. 写真3 南西からみた三宅島.この時(午前中)噴煙は南東〜南南東に向かって流れ ていく.この噴煙とは異なる方向(ほぼ真南)に,青みがかった硫酸ミストが流れて いく.硫酸ミストと噴煙の流下方向は一致しない.10時31分35秒撮影.     写真4 カルデラ底のほぼ全景(1).カルデラ北西で頻発している崩落に対応する新 鮮な崖錐堆積物の末端には,茶色を呈する小さい水たまりがある.12時54分00秒撮影. 写真5 カルデラ底のほぼ全景(2).新鮮な崖錐堆積物が目立つ.また,カルデラ北 西に位置するマウンドも存在感がある.13時04分05秒撮影. 写真6 カルデラ底の南西にある黒い水たまりとその北に位置するマウンド.この水 たまりとマウンド,そしてメインのコーンに挟まれる領域は,いつになくデコボコし ているように見える.13時04分10秒撮影. 写真7 メインのコーンから放出される白色噴煙と青みがかったミスト.ミストはメ インのコーンの南よりの場所から直接噴出しているらしい.13時03分55秒撮影. 写真8 メインのコーンとその西に位置する噴気帯.状況はほとんど変化していない. 13時04分55秒撮影. 写真9 メインのコーンにある火口の拡大写真.火口の中には黄色の硫黄がべったり と張り付いている.噴気の場所は複数あるらしい.火口の中には岩塊も認められる. 13時00分16秒撮影. 写真10 南西から見たカルデラ壁.スオウ穴の西で頻発する崩落に由来する新鮮な崖 錐堆積物が顕著.13時03分46秒撮影. 写真11 カルデラの北西壁と南東斜面.南東斜面を見ると,火砕流状堆積物の分布限 界が植生分布から分かる.13時00分6秒撮影. 写真12 南東斜面には,埋没した雄山林道の湾曲した輪郭がまだ追跡できる.12時59 分52秒撮影. 写真13 南東斜面に認められる埋没した雄山林道の一部.13時03分32秒撮影. 写真14 南東斜面に認められる亀裂.亀裂の状況はほとんど変化していない.13時03 分41秒撮影. 写真15 村営牧場付近に認められる多数のインパクトクレーター.村営牧場付近には 主として2000年8月18日の噴火で降下したと思われる無数のインパクトクレーターが 認められる.すぐ近くにある牛舎の屋根にもいくつもの穴があいている.13時03分7 秒撮影. 写真16 村営牧場付近に認められる多数のインパクトクレーターの拡大図.写真15の 牛舎のサイズから判断すると,インパクトクレーターのうち最大のものは直径数メー トルに達すると予想される.13時036分13秒撮影. 写真17 赤場暁.島の北東に位置する赤場暁は黒色にもどり,本来の玄武岩質溶岩の 様相に戻りつつある.10時12分21秒撮影. 写真18 人家周辺に認められる茶褐色の変色域.写真中央に位置する家にアプローチ するための坂道には,車の轍が茶色く残っている.このような変色は,昨年の3月頃 からすでに確認されている.特に変色している建材がコンクリートであることと,1 年以上も変色が継続していることから,おそらく硫酸ミストとコンクリートとの間の 相互作用によって変色が生じるものと予想される.13時08分10秒撮影.