2002(平成14)年5月30日(木) 1.観測支援: 陸上自衛隊ヘリ UH-60JA 43108 号機(立川飛行隊)     クル−3名+吉田飛行隊長、観測員4名、計8名搭乗。 搭乗機は約15人乗りの中型ヘリ。COSPEC2台でのガス観測にほどよい大きさ。操縦席 後方側面に引戸型の窓、 その後ろに窓2枚付きの大扉があり(写真24参照)観察/観 測は主にこの引戸型の窓を開けて行なわれた。 COSPEC観測時は2台をそれぞれ左右両 窓に固定、レコーダーは中央の座席に鎮座。大扉は閉じたまま、よってモ ンキーベル ト必要なし。ヘッドセットは2つ用意され、COSPEC対応用に。 胴体両肩に大型燃料タンク2本(各1600リットル入りだそうだ)を増備しているた め、上方視界は遮られるが途 中無給油、観測飛行は約3時間で終了した。 * 6月のヘリ観測は2回だけになるとのこと。(警視庁はワールドカップ対応で、 海上保安庁は不審船対応で、 どちらも手いっぱいのためらしい。) 2.搭乗観測者 : 火口観察  : 川辺(産総研)・ 大島           ガス観測  : 尾台・飯野(気象庁) 3.天候・飛行コース・時刻等 :  (概要)  朝の東京は明るいが全天薄雲におおわれて白い。上がってみると上空もモヤっぽく 視程あまりよくない(10km 以下か)。途中海面はおだやか、波立ちなし。 三宅島は概ね晴、視程はさほど悪くないが、山頂にかかる雲が邪魔。弱い南西の風で 弱い白煙が火口からほぼまっ すぐ上がり、カルデラ縁以上の高さで北東に流されてい る。雲もカルデラ上をかすめるように流れ、写真にすると 紛らわしい。観察は雲の合 間から。 北側神着から高度 3500 ft で山頂接近、先に火口観察。北東に流れる噴煙をさけて カルデラの北〜西〜南〜東を 2往復。雲間からの観察だがカルデラ内の様子は大体掴 めた。その後北海上へ降下、海面上300ft でガス観測 (COSPEC観測)に入る。北東海 上にひろがるガスの流れを火口から7マイル、5マイル、3マイルの測線で、更 に海 岸沿いで横断、左右両窓のCOSPEC2台で気象庁2氏が測定。 三池港/村役場付近で海岸沿い測定終了の後、そのまま南下、坪田から高度を上げて カルデラ南縁に接近、縁沿い 西側から再度火口を目視観察しながら北上、神着から離 脱。  飛行時間 09時32分 〜 12時30分 (途中給油なし、約3時間)  観測時刻 10時23分 〜 10時39分 (火口観察、16分)        10時41分 〜 11時29分 (ガス観測、48分)        11時31分 〜 11時34分 (火口観察、3分) (飛行コース等の詳細) 08:30 陸上自衛隊立川航空基地正門集合。       飛行隊のマイクロバスに迎えられて格納庫前へ。バス内待機。 08:40 飛行隊長・機長とバス脇で面会、打合せ。エプロンでは隊員が発進準備 中。 08:42〜 COSPECほかの荷物を積み込み、機外スタンバイ。 09:25頃 (搭乗後)エンジン始動 09:32 発進、   09:35 南向きに離陸。 立川駅南方から多摩川沿いに南東進      〜聖蹟桜ヶ丘〜多摩ニュータウン〜市ケ尾(東名青葉インター)〜戸塚〜 鎌倉〜 09:50 逗子(小坪)から洋上へ。(離陸からたった15分!) 09:54 城ケ島西方       その後視程悪く伊豆大島以南の島々いずれも見えず。海面穏やか、波立 ちなし。 10:22 三宅島接近。但し後席から前方の島の様子は見えない。 −−− <火口観察−1> −−− 10:23 湯ノ浜漁港を左下に見ながらほぼ真北から三宅島入り。       雲がかかるが、北西側からカルデラ縁ほぼ全景が見える。       噴煙は弱く少なく白色、火口上から北東に流され1100m程度(強)まで 上がって島内で消散。       北東に流れる噴煙をさけてカルデラの北〜西〜南〜東を2往復。       雲間からでもカルデラ内の様子は大体掴めた。 10:39 北海岸線を離脱、       北方海上へ降下、COSPECを窓際に設置作業開始。 −−− <ガス観測> −−− 10:50頃 COSPEC2台設置完了、尾台・飯野氏測定に入る。       北東海上に漂うガスの流れを、北側焼場沖合いから東側三池港沖合にか けて横断、       火口から7マイル、5マイル、3マイルの3測線沿いに測定。 11:23 海岸線沿い測定開始、空港から反時計回り、焼場南の川田沢砂防で折返し 11:29 三池港/村役場付近で海岸沿い測定終了。 11:30 坪田から上昇、南斜面へ −−− <火口観察−2> −−− 11:31〜33 南斜面〜カルデラ西縁沿いに再度火口を目視観察 11:34 神着から離脱。北上、帰還へ。 −−−  −−−−  −−− 12:00 城ケ島西方 12:04 稲村ケ崎から陸部へ。      〜往路より約3km西寄りのコース〜 12:18 立川基地に北側から着陸、 12:23 エプロン定位置に停止、 12:30 エンジン停止、降機。 12:40頃 再びマイクロバスに送られて基地正門まで。 4。 観察 4−0. (観察の概要)   ・ 噴煙の弱さ少なさ格別。   ・ 北側火口列(旧主火口)沈黙気味、白煙を上げるのは主に南東火口(南主火 口:後述)。   ・ カルデラ底の池健在、位置、形は変化するものの西池(黒池)・北東池ともに     前回観察(3月25日)より格段に大きい。   ・ 北壁の崩壊進み、カルデラ縁後退・内壁下に崖錐成長。 4−1. 噴煙とガス 4−1−1. 噴煙 弱い南西の風で北東へ流されている。白色。量少なく、頼りないくらい排出に勢いな し。火口から真上に上がった 後、ほぼカルデラ縁の高さから風まかせに北東へ流され ている(写真1)。目測高度約1100m程度まで上昇、白 煙は島内で消散。 個人的には2ヶ月ぶりの観察だが、これほど弱い噴煙も珍しい。パルス状の排出もほ とんど見られない。(写真 2, 3) 4−1−2. SO2ガス 青白ガスは白煙の下位で北東カルデラ縁を越え、北東斜面に下っている(写真10, 14)。弱風にも拘らずひろがる 範囲は比較的狭く、ガス量自体少ないことをうかがわ せる。(南東側から噴煙右翼に接近時も臭うまでに至らな かった。) COSPEC観測で海上のガス流軸を横切る際、山頂方向は白くて見えないのが普通だった が、今回は透けて見える (写真15)。海岸沿いの接近飛行では十分見える。風が弱く 拡散気味なことを考慮しても薄い。臭いもあまり感 ぜず、せいぜい箱根大涌谷の黒玉 子付近程度。気象庁2氏はSO2感知器持参のはずだがアラームも鳴らず。 総じて、白煙もガスも著しく弱い。目と鼻の感覚では、SO2 は1万t/日以下、5〜 7千t/日くらいか? との 問合せに、飯野さんから得た正解=測定値は 6400〜 8000 t/day とのこと。 COSPEC2台での観測は今回3回目、まだテスト中との話。 4−2. 火口 4−2−1. 火口全体 噴煙活動は弱い。噴煙排出は主に南東火口(火口群南列南東端の火口)から。旧主火 口(N1)を含む北側の火口 列(=N1〜3)はほぼ休止状態で硫黄の付着した底を見 せているが、白煙を上げることもある。(観察時、10時 台は休止、11:32には弱い白 煙が上り、底は見えなかった。)(写真2〜6) 4−2−2. 南東火口(=>「南主火口」) (最も活動的な火口は、火口群の中で南東端に位置するため「南東火口」なのだが、 カルデラ全体から見るとほぼ 南端に位置する。今や「南主火口」と言った方が違和感 ないかもしれない。旧主火口(N1)も旧「北主火口」と 言った方がわかりやすい か?) 南東火口(=>「南主火口」)の形状や様子自体は白煙が立ちこめてよく見えないが (3月25日観察参照)、少な い噴煙と弱い南西の風のために、背後のカルデラ南縁は 比較的よく見える。南壁は、徐々にではあるが、南主火口 に少なからず崩落したので はないか?現在の噴煙活動の弱さは、本来の減衰に加えて、崩落物が火口底に堆積し て きたためかもしれない。(火口底埋積による排気障害) 4−2−3. 火口周辺噴気帯 火口丘から北西にのびる噴気帯の活動も弱い。背後のカルデラ壁(縁より下位)の崩 落で多少埋まったようにも見 える。その他周辺噴気はいずれも弱い。(写真3, 4) 4−2−4. 火口温度 気象庁飯野氏の測定によると、最高温度 251 度、とのこと。 <噴煙活動に対するコメント> 1月30日・3月25日・5月30日とほぼ2ヶ月おきに見る噴煙状態は、増減幅ありはす るものの、量・排出力とも にはっきりと減衰気味に見える。雨量の多い後は一般に白 煙多いが、今回は雨のあとではないため、少ないのはむ しろ本来の状況と受け取れ る。それにしても、噴煙は量少なく且つ弱い。本当に疲れてきたように見える。 しかし、過去の経験では、このように弱まるのは、火口(vent)が詰まり気味のとき よく見られた。噴煙/ガスの 出が悪くなるとやがて鬱憤晴らし気味に爆発、降灰を起 こし、火道〜vent の詰めものを一掃して通気を回復して きた。(南主火口はそうや って大きく深くなってきた。)今回が再びその直前状態にある可能性はある。 旧主火口(北主火口)は現在、もはや南壁崩落(のような外部要因)で閉塞される位 置にはない。にもかかわらず 活動は明瞭に減衰した。このことは、GPSに見られる 山体収縮に対応して(旧主火口に通ずる)火道がかなりつ ぶされてきた可能性を示唆 すると受け取れる。 南主火口に通ずる火道もやがて山体収縮と共につぶれ、ガス排出がより低下する可能 性が考えられる。南主火口は 南壁直下に位置するため(写真4, 6)、南壁崩落がガ ス排出の低下を更に促進する可能性も高い。 事後になるが、気象庁情報によると、今回の観察後、「空振を伴う振幅のやや大きな 微動」(震度1)が2回観測 されている。6月1日 18:37(神着と坪田で震度1)、 2日 15:11(神着で震度1)。噴煙は前者は雲のため不 明、後者は特に変化なかった とされる。これらは通気回復のための「鬱憤晴らし」ではなかったか?  (その観点で考えると)前者は小規模に降灰を伴ったかもしれない。坪田でも震動 が観測されたことから、2回 目より大きな event だった可能性がある。(降灰した か否かは上空から見ればわかる。過去の経験では、カルデラ 外への降灰がわからずと も、降灰直後はカルデラ内壁はきな粉まぶしのように灰に汚れて断面の詳細が見にく くな る。一雨降ると洗い流されて、地層断面は再びよく見えるようになる。)2回目 に当たる後者も、噴煙に変化なし と言えども、きわめて小規模に、カルデラ内に降灰 させる程度の小爆発だったかもしれない。  (その観点で更に考えると)この2回の空振を伴う微動に対応して、火口は通気を 回復した可能性があるが、以 後の気象庁観測で特に高い噴煙は記録されていない。と いうことは、通気を多少よくしたにもかかわらず、出すも のもそれほど多くない状態 になっている、即ち「かなり減衰している」ことを示している、と言えるかもしれな い。本当?全くの勘違い? 次の観察まで(いや、もう雨があったので)わからない か。 4−3. カルデラ縁・カルデラ底 4−3−1. 北壁の崩壊進行中。相変わらず北斜面の後退(=カルデラの拡大)、 カルデラ底への崖錐の発達 (=カルデラの埋没)が目立つ。(写真8, 10) 4−3−2. 北東池は徐々に西にシフト、元の北池に寄ってきた。スオウ穴西隣の 壁の湾入状の後退と、北中央 の壁の崩落が顕著で、池の位置は双方の崖錐発達に押さ れたかたち。(写真8, 9) 4−3−3. 西池(黒池)、形はちがうが大きさも色も復活。(写真7) 4−3−4. 火口丘北麓の中央池は判然とせず。 4−3−5. 西や南西の地割れに大きな変化はない。(写真12, 13) 4−3−6. 北斜面上部に小規模な泥流発生。これまでの最高位。(写真11) 4−4. 海岸沿い(東〜北東〜北〜北西のみ)  久しく見る機会のなかった海岸部(今年初めて!)は、変・不変さまざま。 4−4−1. ガスによる植生被害: 東〜北東の三池〜赤場暁方面は斜面下部まで 茶色が支配的。春を越しても 緑の回復程度は低い。北側はガス流にとって高い障壁が ある北西斜面に近いほど、山麓部の緑は濃い。(写真17〜 23)。 4−4−2. 泥流対策の砂防工事はかなり進んだ。(写真18〜23)  (大島 治)