2002(平成14)年9月4日(水) 全島避難最終日から丸2年 1.観測支援: 東京消防庁ヘリ「ちどり」     クル−4名、観測員4名、計8名搭乗。立川基地発着。     クル−の親切な協力に感謝。 2.搭乗観測者 : 火口観察   : 川辺(産総研)・ 大島           COSPEC観測 : 中堀 ・ 斉藤 (気象庁)            3.天候・飛行コース・時刻等 :   晴。(安定した真夏日も今日まで。) 陸部は多少モヤ気味、雲もあるが、南海上 は視程良好、海面穏や か。三宅島は無風に近い東よりの風、山頂から西側に雲がかか りカルデラ内はなかなか見えなかったが、雲 の隙間をさがし、後半東側からどうにか 火口付近〜カルデラ内東半を見ることができた。  飛行時間 10時00分 〜 16時05分 (神津島で給油2回)  観測時刻 火口観察: 11時00分頃 〜 11時30分(終了後神津島へ)        COSPEC: 13時00分 〜 14時25分(火口観察2名は神津島待機) 立川基地(10:00搭乗、10:03エンジン始動、10:08南向き離陸)〜聖蹟桜ヶ丘(京王 線)〜新百合ヶ丘 (小田急線)〜市ケ尾(10:15東名)〜戸塚〜逗子〜葉山(10:24長 者ケ崎から海上へ)〜城ヶ島西方〜伊 豆大島東方(10:40頃)〜 三宅島に北北西より接近(10:55頃)。島は上半分雲をかぶっている。弱い東寄りの 風で、山頂から西側に かけて入道雲のように白雲が高々と立ち上がり、力強い噴煙の よう。飛行高度5500 ft まで上昇、雲の 頂 は更に高い(約2000m)。雲の隙間をさ がして東側を南北に往復、高空から低空へ。気象条件も後刻ほど 改善、雲の下の東側 から何とか火口付近〜カルデラ内東半をみることができた。雲以外に北壁崩落のダス ト (土煙)が黄土色に漂い、余計見にくい。坪田から南山麓をまわって阿古から離脱 (11:31) 〜神津島空港(11:45頃西から着陸)  COSPEC観測の間、2名空港待機(13:00〜1425)。 神津島空港(15:00搭乗、15:09東向き離陸)〜新島向山〜伊豆大島三原山〜城ヶ島西 方〜三浦半島西岸沿 い〜江ノ島から内陸へ〜厚木基地西〜多摩ニュータウン〜立川基 地(16:01着陸、16:05頃降機) 4. 観察 4−1. 噴煙とガス 往路、大島以南で多少ガスの臭がする。飛行高度3500 ft。西方空域一帯、神津島か ら大島にかけての中空 にガスの流れとみられる赤味を帯びた光学異常層が延々とひろ がって見える(写真1〜4 )。4層以上の濃 淡に分かれて見え、各島の高さと比較 すると、底面高度約850m〜600m。(断面として見ると高度 1600m程度まで厚さ少な くとも約800mの層に見えるが、気流によってひろがるガスのいわば「 lobe 」 の遠 近差である可能性もあるので、「層の厚さ」は不明確。)上空にむかって漸移的に薄 れて見えることか ら、見る角度にもよる?  ガスの赤色帯はこれまで三宅島近傍ではよく見られたが、これほど広範囲にわたるの は初めて。北から見る と、神津島東方から三宅島にかけては雲がかかってよく見えな い。 三宅島の風下側斜面沿いで普段よく見られるガスの吹き下ろしは、今日は見えない (写真5)。広範囲に拡 がる赤色帯の底面高度と考え合わせると、無風に近い状態で 火口上に上がったガス(写真6)が、カルデラ 縁上約150m(高度850m)を底面とし て外へひろがったまま気流に乗って西へ、さらに北へとたなびいて いると考えられ る。 東〜北東カルデラ縁越しに見る噴煙活動(写真6・7)は以前と比べて著しく弱い。 白色噴煙は量少なく、 排出力もない。弱々しい白煙が上空の弱い東寄りの風に乗っ て、南縁上150m程度で拡がり始め雲の底へ混 じっている。白煙周囲はわずかに青白 くガスを伴っているのがわかる。(空にすかして見ると雲底付近はわ ずかに赤い。) (山頂上空には前述の入道雲状の力強い白雲が沸き上がっている。火口から上がるこ のショボイ白色噴煙と は全く別物。遠望では活発な噴煙に見えたかもしれないが。) 4−2. 火口 噴煙排出活動は最も南東寄りの南東火口(南主火口)で行われている(写真6・ 7)。かつての主役北主火 口は沈黙同然にわずかに噴気を上げている。火口内の黄色 い硫黄付着もチラと見える。その他の付随火口 や、北西噴気帯をはじめとする火口丘 周辺の噴気域いずれも、活動は著しく低調になっている。 ヘリの頭を雲に押さえられて火口内部の詳細までは見られなかったが、見える限り、 火口に大きな変化は見 あたらない。 噴煙活動の減衰のため、以前なかなか見えなかった南側カルデラ壁がこのところ結構 よく見えるようになっ てきた。 4−3. カルデラ縁 南カルデラ縁: 南東上空(5500ft)から見ると、カルデラ南縁が以前よりわずかに 後退拡大して見え る。(細かい凸部がとれてなめらかな曲線になった?)(写真8) 北カルデラ縁: 崩壊が進んでいる。目下盛んなのは北壁最高点の西隣(写真9< 12)。ほぼ常時崩落ダス トが上がり(写真9〜12)、カルデラ内の視程を遮り、黄土 色の「火山灰」が北〜北東斜面を覆っている。 十分には観察できなかったが、崩落位 置は幅広く溝がえぐられたようにカルデラ底まで白っぽい帯になって 見え(写真10〜 11)、崩落物はカルデラ底中央近くまで張り出している。 これまでの崩落でスオウ穴西隣の縁が削れ(写真12〜13)、北縁最高点は孤立するか たちになっている (写真14)。遠目にも北縁は大分低くなだらかになった(写真 15)。 4−4. カルデラ底 カルデラ底を南西から北東へ横断するかたちで、「湖水」の跡ができている(写真 11)。降水量の多かった ときに一時的に一つの湖になったらしいが、今は元通り北東 ・中央・西の3つの主な池に分割されている。 「北東池」は昨01年12月、北壁大崩落 でかつての北池が埋没したあとに北東側にできた代替池だが、北北 東壁の崖錐発達に 伴って少しずつ位置を変えてきている。 今回北壁の新たな崩落によって崖錐がカルデラ中央にまで押し出している。このため 池はさらに中央寄りに 押しやられたように見える。 白っぽい新たな北壁崩壊物と北西側のマウンドとに挟まれた低みには小池もできてい る。 西池は崖錐発達のためか形が変わった(西の壁下沿いに幅広くなって見える)。元ど おり赤黒く見える(ダ ストと雲にさえぎられてよく見えない)が、中央〜北東の池は 黄褐色を呈する。北壁崩壊のダスト(「降 灰」)が濁していると思われる。 4−5. 北東斜面上部 植生を失った東斜面上部は谷の崩壊が目立つが当初に較べてテンポは鈍い(写真 16)。粗粒スコリア・アグ ルチネート・溶岩の互層を基本構成物とした成層火山体上 部は吸水性が高いためらしい。このため、細粒物 の多い山麓や一般に較べて土石流発 生能力も低いと考えられる。 4−6. その他 毎度のことながら、植生被害にあらわれるガスの流れが地形に大きく支配されている ことをあらためて認識 させられる。坪田地区はほとんど緑(写真19)。黄褐色に濁っ た大路池は相変わらずきたない(写真 20)。   (大島 治)