2002(平成14)年11月28日(木)  1.観測支援: 陸上自衛隊(第1ヘリ団 第2ヘリ隊 第1飛行隊:木更津基地)         ヘリ: CH−47JA 52961 号機         クル−3名(深水機長)、観測員4名、計7名搭乗。   <11月の観測飛行は2回だけ> 11月のヘリ観測日は変則的だった。海上保安庁ヘリの定期点検や伊豆大島の防災訓練(20 日、21日)等のために初旬に飛行日がなく、13日(水:警視庁)、25日(月:東京消防庁)、 27日(水:防衛庁 陸自)の3回の予定になっていた。それぞれ翌日に予備日が設定されてい るため、13日以外は月末25〜28日の連続4日間に2回集中という異例の日程だった。しかし この4日間はハプニング続き、飛べたのは最終予備日の28日1回だけ。事の次第は次のとお り。   25日(月)東消庁(東ヘリ) 雨天のため中止!   26日(火) ”  予備日  伊豆大島の座礁船(自動車運搬船)で火災発生。              ヘリ緊急出動のため三宅島観測は出発直前に中止!               中堀さん・津久井さんはじめ皆さん東ヘリでガックリ。   27日(水)陸 自(木更津) 晴。しかし何と三宅島強風のため中止!              中堀さん・古屋さんほか木更津に集結の皆さん愕然。   28日(木) ”  予備日  快晴・無風! 本来 CO2 観測(火口観測なし)              の予定だったが、火口・COSPEC観測に変更して実施! 2.搭乗観測者 : COSPEC観測 : 中堀 ・ 宮下 (気象庁)           火口観察  : 大島          (重力計保守のため震研古屋氏、往復のみ搭乗) 3.天候・飛行コース・時刻等 :   快晴。視程良好、海面穏やか。三宅島は無風に近い西北西の風。白煙が間歇的に山頂上500 〜700mの高さに上がるものの途切れも多く、ガスは拡散ぎみに東側斜面にひろがっている。 はっきりは見えない。 先にCOSPEC観測、その後火口目視観察の順。はじめカルデラ上は雲もなく観察に絶好のチャ ンスだったが、火口観察時には雲の影が時々かかり、かつ午後の低い太陽でカルデラ内は暗 く、意外と多めの噴煙も災いして火口の詳細観察はいまひとつだった。  搭乗時間 13時00分 〜 16時40分 (3時間40分)  観測時刻 COSPEC: 14時30分 〜 15時08分(38分間、東海上を1.5往復)         火口観察:15時15分 〜 15時42分(27分間、西側を5回往復)           ************** 11:00 陸自木更津基地集合。第2ヘリ隊 第1飛行隊室で深水機長と打合せの後、     同室で弁当。午前中飛んでいた搭乗予定機(CH47J)が不調とのことで、     新鋭のCH47JAに機体交換することになる。(機内広々、操縦席下にレ     ドームがついている。写真19)  12:15 格納庫に移動、待機室(扉の上の表示は「喫煙所」)へ。  12:45 エプロンの搭乗機(961 号機)へ。     中堀・ 宮下さんは機体右前扉でCOSPEC設置テスト。 13:00 全員搭乗。 13:12 エンジン始動。 13:20 発進地点へ移動開始。 13:25 発進 〜 13:29 富津洲 〜 13:35 三浦半島南東端 〜 13:45 伊豆大島東 〜 14:05 三宅島空港に北から着陸、古屋さん降機。     (私にとっては2年半ぶりの空港着。)     ガスの漂う中、COSPEC 設置作業が始まる。ここでハプニング。COSPEC     測定器本体とレコーダーを接続中にフューズが飛び、中堀さんはザックから     工具を取り出して懸命の応急修理作業。 14:25 三宅島空港発進、北へ。 14:30〜15:08 COSPEC 観測。北東海上から南東海上をいつもと同じ高度 300ftで     1往復半、御蔵島北西で終了。反転、高度を上げつつ三宅島に向かう。 15:15 大路池を右下に見つつ三宅島入り。火口観察へ。     薄く東にひろがるガスを避けて、カルデラ縁西側を牧場からスオウ穴まで     5回往復。3回目まで高度 3500ft、その後 4500ft。(COSPEC 測定時に     御蔵島〜三本岳〜神津島ラインで停滞していた雲が北上、陽射しが遮られ     てカルデラ内は暗めになることも。) 15:42 スオウ穴過ぎで観察終了。     左旋回、北海上に出て高度を下げ、北から 15:49 三宅島空港に着陸、古屋さん再搭乗。     ただちに滑走路上を南端から北向きに離陸。 16:08 伊豆大島波浮東方(座礁船火災を遠目に見る。白く放水続き、鎮火の模様。) 16:26 〜 富津洲 〜 16:31 着陸、 16:39 エンジン停止、  16:40 降機。  (今日は一日好天だった。夕焼け空に東京湾越しの富士山が美しい。クルーに感謝。) 4. 観察 4−1. 噴煙    <白煙やや多め、高度約1300〜1400mまで。但し間歇的>  「噴煙」は白煙、いつもながら灰含みでない水蒸気主体。 三宅島接近時〜COSPEC観測時などにカルデラ外遠方から見ると、白煙は間歇的で、間に十分 な間隔がある(写真1〜5)。最高で島の高さの2倍弱(高度1300〜1400m程度)まで上が り、弱い西北西の風に乗って東側(空港側)に流されている。多くは山頂付近で消散、何と減 衰したことか。しかし個々のパルスは結構太く高く、このところに全体として減衰ぎみにあっ たにしてはやや量が多い(活気?もある)ように見える。  カルデラ上空から見ると、白色噴煙は主に南主火口から排出、付随的に旧(北)主火口 (群)からも出ており、火口輪郭一杯にひろがることもある。ほぼ連続的な力のない白煙排出 だが、間歇的に太く高く上がるよう。常時リークしながらも内圧が上がると間歇的に一気に、 ということか?火口(〜火道)喉元のつまりと排気圧力の戦いに見える。このところの衰弱傾 向にしては、白煙は多め・太めに見える(写真7〜9)。  現状解釈には気象庁観測による次の2点が参考になる。 (1) 11月22〜26日の5日間に100ミリ以上の降雨があった模様。(表1参照、阿古で102ミ リ・伊豆で57ミリ・神着で58ミリ・坪田で84ミリ・単純平均75ミリの降雨が観測されてい る。山頂部の降雨はこれら山麓部よりは大と解すべきだろう。) (2) 4日前の11月24日、13時16分の低周波地震に続いて13時20分頃にごく少量の降灰が確 認された(10月8日以来47日ぶりの降灰)。  降灰をもたらすこの小爆発によって、火道通気の一時的回復とそれに伴う火口下の熱源上昇 があった可能性は高い。これに多量の降雨が加わったことが、噴煙活動の多少増加につながっ たのではなかろうか?  噴煙活動は大局的に減衰ぎみにある。熱源の下降傾向もこれまで見えていた。好例は8月17 〜19日の台風13号の時で、300ミリ以上の今年最大の降雨(阿古で324ミリ・伊豆で320ミ リ・神着で290ミリ・坪田で237ミリ・単純平均293ミリ)を記録したにも拘らず、8月21日 の白煙量は大変少なく、むしろ熱源の下降(〜大量降雨によって冷やされた?)を暗示してい た。  しかし、今回のような小爆発後は一時的に火道回復・熱の上方拡大もあって活発化に見える ことがある、ということかもしれない。   (* 注)  気象庁・国土地理院のGPSデータによると、このところカルデラを中心に伸びの傾向が見 える。噴煙活動の変化はこのことに留意して見守る必要もある。上記の噴煙量解釈はこのこと を特に意識せず、従来の目視観察経験に基づいて行っている。今後の展開によっては、今の噴 煙もこのことを加味して解釈し直す必要があるかもしれない。  <参考>  表1。 気象庁観測による雨量(特定期間)        台風13号    11月28日火口目視観察前の15日間 2002年    8/17-20 11/13-16 11/17-18 11/19-21 11/22-26 11/27-28 日 数      4    4    2    3    5    2 日間 総雨量 阿古  324   0   17    0   102   0 ミリ     伊豆  320   0    7    0    57   0 ミリ     神着  290   0    6    0    58   0 ミリ     坪田  237   0   10    0    84   0 ミリ     平均  293   0   10    0    75   0 ミリ  単純日平均   73   0    5    0    15   0 mm/日 4−2. ガス    <弱風で拡散? 見かけは薄い>  問題のSO2ガスはすぐにはわからないくらい薄い。弱い西北西の風で空港方向へ東斜面に 漂っている。弱風のため拡散しているらしい。COSPEC観測の際、ヘリで東海上のガス軸部を 南北に横切っても、山頂は十分見えている(写真3)。(以前風のある時は軸部通過の際は島 の見えないことが多かった。無風時に拡散してガスの流れがはっきり見えないこともありはし たが、もう少し青白さはあった。)  それでも(重力の古屋さん降機とCOSPEC設置・修理のため)風下の三宅島空港に20分間着 陸していると、咽の奥が少し詰まりそうな硫黄臭は感じられた。(咳き込む程ではなかった が、この状態での日常生活は成り立たない。)  中堀さん・宮下さんによるCOSPEC観測結果は、10900、6600、9300トン/日だった。 見た目よりは意外に多い。(拡散ぎみだったためらしい。) 白煙噴出に強弱がある(間歇的に高く太く上がる)ことを参考にすると、SO2ガスにも排出に 強弱があり(流れていくうちに平均化されてはいくが)観測値のバラツキに反映されているの かもしれない。 4−3. 火口   <深い南主火口、南東側にえぐれ込んでいる>  既述のように噴煙活動は殆ど、最も南東寄りの南主火口+旧(北)主火口で行われている (写真7〜9)。北西噴気帯や火口丘周辺の噴気活動はいずれも低調。噴煙に隠されて火口状 況の詳細はつかみにくいが、南壁側が辛うじて見える(写真8R〜9L立体視できます)。  南主火口が以前より深くなっており、底は見えない(程に深い)。旧(北)主火口より 100m以上深そう。切立ったカルデラ南壁の下部がそのまま南主火口の南壁に連続しており、 かつて南壁下に張り出していた廂(ひさし)部分は無くなっている。その代わり、火口壁の南 東側上部(カルデラ南東壁の下部)が廂のように火口上にオーバーハングしており、火口は洞 窟状に奥に(南東側に)えぐれ込んでいる。このため白煙の一部は廂に邪魔され、脇(西側) に洩れ出てから空中に上昇している(ように見える)。 4−4. カルデラ底   <池の水位上昇中、8月21日〜9月4日の間に急減。> 4−4−1. 池の水位  カルデラ壁崩落に伴う変化を除けば、カルデラ底に特段の変化はない。南側の火口丘と北西 側のマウンドに挟まれた低み沿いに、ほぼ南西〜北東に並ぶ3つの大池が目立つ(写真8〜 11)。「西池」(旧別名「黒池」)と「東池」はカルデラ壁からの崖錐の発達で僅かずつ形を 変えてきているが(特に後者)、真ん中の「中池」は一般に崩落物の影響が少なく、形の変化 は主に水位の上下による、と見える。(崩落物により特に「東池」は茶色く濁ることが多い が、「中池」は大抵澄んでいる。)  今、「西池」「中池」とも澄み、一見繋がっているように見えるが僅かに分断されている。 「東池」は北〜東壁からの崩落物を受けて茶色く濁っている。その西端は北壁崩落物の進出で 分断され、「中池」との間に2連の小池を生じている(写真10, 11)。スオウ穴側からの大岩 塊5コ余りも目を引く(後述)。  「東池」は01年11月末〜12月初めの(誰も見ていない間に起きた)北壁大崩壊により埋没 した「北池」の代りにその東側(スオウ穴の下付近)に出来た池であり、誕生から丁度1年に なる。  3つの池の基本形はこのところあまり変わっていない。9月4日(写真11)、9月25日 (金子氏の写真2)、10月16日(吉本氏の写真4・6)、11月13日(金子氏の写真3)など と較べて、今日11月28日分まで、岸線や「島」の分布などから、少しずつ水位上昇が認めら れる。(僅かずつ岸線の変化や島の縮小・水没などがある。)  しかし水位は台風13号直後の8月21日(吉本氏の写真5・6など)が最高に見え、9月4 日にかけて急低下(最近の最低位をマーク)し、以後85日間、増加中ながらまだ8月21日レ ベルには達していない。(「中池」を基準にすると、今は7月12日(金子氏の写真3〜5)レ ベルに見える。)  台風13号の大雨で最高水位をマークした8月21日から、最近の最低となった9月4日まで の14日間に、水位が急減した理由は何か? 他の現象との関連はないか?以下は少々考察。  参考までに、気象庁の観測データ(表2:阿古・伊豆・神着・坪田の4ケ所の降水量のまと め)を示す。上記14日間は雨量が最も少ない期間であり、その直前が最多ではある。台風によ る急激な水位上昇で初めて冠水した地域では地下への吸水が容易に行なわれ、急激な水位低下 が可能だったことは想像に難くない。しかし、何故必要以上に(?)低下したのか。  9月4日の後11月28日までの85日間に雨量は721ミリ以上だったと思われる(数値は山 麓4地点の平均値で、山頂雨量はこれ以上に違いない)。現カルデラはお椀状であり、集水面 積に較べて底面積が小さいため、雨量以上の(カルデラ底の)水位上昇も考えられるが、カル デラ底の大部分はまだ十分吸水能力をもっていると見え、単純ではない。地下の状態を知る手 掛りとしても、水位・雨量の変化は、白色噴煙量等と照らし合わせて、これまで以上に細かく 見ていく必要がありそうに思える。(永いカルデラ湖生成史の最初期段階を、我々はしっかり 見ておこう!)  当面の解釈?は、「カルデラ底はまだまだ吸水能力をもっている。9月5日以降の多雨によ り水位の上昇があるらしい」というところか?今後乾季に入って「中池」の水位がどこまで下 るか(〜干上がるか)注目したい。  <参考> 表2。気象庁観測による8月1日〜11月28日の雨量(ヘリ火口観測日ごと) 2002年     8/1〜21 〜9/4 〜9/25 〜10/16 〜11/13 〜11/28  9/5〜11/28 日 数      21  14  21  21  28  15 日   85 総雨量 阿古  328  53  99 149 235 119 mm  602     伊豆  321  69 123 286 287  64 mm  760     神着  293 100 163 284 285  64 mm  795     坪田  246  50 124 242 266  94 mm  726     平均  297  68 127 240 268  92 mm  721 日平均 阿古  15.6  3.8  4.7  7.1  8.4  7.9 mm/日 7.1     伊豆  15.3  4.9  5.9 13.6 10.3  4.3 mm/日 8.9     神着  14.0  7.1  7.7 13.5 10.2  4.3 mm/日 9.3     坪田  11.7  3.6  5.9 11.5  9.5  6.3 mm/日 8.5     平均  14.1  4.9  6.1 11.4  9.6  5.7 mm/日 8.2 4−4−2. カルデラ底堆積物、その他 ○ カルデラ壁崩落による崖錐の成長が続いている(写真10)。北西・北・北北東壁下の発達 が顕著で、比較的新しいものが白っぽく扇状に展開している。(当然ながら運動量の大きい) 大型岩塊がカルデラ底中央寄りに転がり出ており、北壁の下では右翼がマウンドにアバット し、北北東壁の下(スオウ穴下付近)では大型岩塊5コ以上が東池手前で止まっているのが目 立つ。(但しこの大型岩塊は一部10月16日の吉本氏写真6にも見えており、真新しくはない が古くもない。) ○ 南東壁下から東壁下沿いに緩斜面を下って「東池」に達する「岩なだれ」ルートも東壁下 寄りがやや白っぽく、そう古くはない堆積物が「東池」の東岸に張り出している(写真10・ 11)。 ○ 北西マウンド両側の、カルデラ壁寄りにある小池2つは茶色く濁り、以前より大きくなっ ている。 マウンド上には左手前から右の火口側へ、北北西〜南南東方向の構造線にも似た列状模様 (?)が見えるが、錯覚か? 4−5. カルデラ壁・縁   <北壁崩落/後退進行中> ○ 北壁の崩落・後退が小刻みに進んでいる。北壁中下部の突出岩体がますます目立ち、その 上位の脆いアグルチネート・スコリア層が後退、部分的に(崩落物通過による)壁面の浸食谷 (溝)が切れ込んで、凹凸に富む(写真6)。 ○ 上から見ると、北カルデラ縁最高峰の東側の崩落が進み、北斜面上に開いた地割れより上 位部分がやせ細りつつある(写真11)。観察中、いつものような土ぼこりをあげる崩れは見ら れなかった。 ○ 「西池」上のカルデラ西南西縁の崩落残存部は北寄りが削れている(写真8・9)。 4−6. 南西斜面、その他周辺 ○ 南西斜面の雄山林道はヘアピン付近から先は埋没のまま(写真12)。 ○ 牧場付近の泥流跡は浸食谷がはっきり見える(写真13)。(このへんはしばらく見ていな かったので新しいことではなかろうが)鉢巻林道を遮断した泥流は完全に撤去され、新たな道 もつけられている(写真13)。 ○ 赤場暁には橋脚が、地獄谷中部には砂防ダムが姿を見せている(写真14)。三七山付近か ら砂防ダムには工事用道路が通じるいる。 ○ 一時(9月4日)茶色く濁っていた大路池は元どおりの色になっている。 << お ま け : 伊豆大島に座礁・火災の自動車運搬船 >>  帰りがけ、伊豆大島通過の際、10月1日波浮東岸に座礁したバハマ船籍自動車運搬船「ファ ル ヨーロッパ」を遠巻きに見た(写真17)。重油の抜取作業は終わりに近かったらしいが 11月26日朝出火、3日目の夕方になってもまだ放水が続いている。火は既に見えない。日没 近い逆光でしかも暗めの崖下とあって、よく見えないが、巨大な船体がくの字に折れて見え る。当初の姿(10月16日の吉本氏写真8)は見る影もない。座礁した船体への波の営力も強 い。船は車約4000台を積んでいるとされ、ニュースによれば、一部の車ははや海底に散乱し ているという。  「油まみれの筆島?」は大丈夫らしい。                             (大島 治)