<三宅島2月25日のヘリ観察記録> 2003(平成15)年2月25日(火)  1.観測支援: 警視庁ヘリ「おおぞら2号」 JA 9678 号機(Super Puma、島機長)      東ヘリ始発、クル−4名(島機長)、観測関係者5名、警視庁8名、計 17名搭乗。      飛行計画=午前中火口観察、新島で給油・昼食の後、午後COSPEC観測。           往復路は警視庁要員8名の移動を兼ねる。 2.搭乗観測者 : 火口観察   : 宮城(産総研)・ 大島           COSPEC観測 : 中堀 ・ 池田 (気象庁)          (重力観測   : 孫(震研)、三宅空港で降乗、往復路のみ) 3.天候・飛行コース・時刻等 :   昨24日はほぼ関東全域に小雪が舞ったが、今日は天候急回復。ただ後半ほど回復が 進み、午前中は雲厚 く、視程もあまりよくなかった。曇り空ながら火口は見えた。   搭乗時間 08:47 〜 15:00(10:46〜12:45 新島空港で給油・昼食)   観測時刻 10:10 〜 10:28(火口目視 18分),        13:15頃 〜 13:45(COSPEC 30分) 08:58 エンジン始動 〜 09:06 東ヘリ離陸(北向き) 〜 09:10田町 〜 09:15丸子橋 〜 09:18横浜 〜 09:24葉山より三浦半島沿い洋上へ 〜 09:26城ケ島西方。 ここまで白雪の丹沢は見えていたが、箱根・富士・伊豆半島見えず。飛行高度1000 ft。南洋上は一時雲の 中。海面穏やか。伊豆大島(は見えないが)東方を通過したあ たりからチラホラ白波。 南下につれ視程回復、三宅島はほぼ全体が見えてきた。白色噴煙は南側に向かってい る。雲が低く噴煙の高 さは定かでない。空港東海上を通過、右旋回で南から滑走路進 入、 10:01 三宅島空港着、警視庁8名と孫さん降機。    機内の4名+整備担当氏モンキーベルト着用。ヘッドセットなし。 <火口観測> 10:05頃 三宅島空港発、北向き離陸、     北東〜北〜西斜面へと反時計回りに上昇、カルデラ南西側から時計回りで     北東縁まで予察、東斜面上空で反転後ドアオープン、     反時計回りに北東〜北西〜南西カルデラ縁沿いを2回 10:28 神着から離島、    (ヘッドセットなく、火口付近2往復であっさり終わったのは少々残念。) 10:42 新島空港着陸(西から) 10:46頃 エンジン停止、降機。    −−−−−−− 給油、昼食、休憩の後、−−−−−−− 12:48 エンジン始動、 12:56 離陸(東向き) <COSPEC観測> 13:06頃 神着接近。反時計回りに火口から3マイルの円周上を2周。     (北〜西〜南〜東〜、普段のCOSPEC観測にはない周回コース。)     中堀さんによると、ガスの主流軸は南西にあるものの他の地域でも     background まで下らぬため周回飛行をした、とのこと。 13:45 神着でCOSPEC観測終了。反転、時計回りで空港へ。 13:50 三宅島空港着、孫さんと警視庁8名搭乗。 13:55 三宅島空港離陸(北向き) 〜 往路の逆コース 〜 14:57 東ヘリ着陸(北から) 15:00 エンジン停止、降機。 4. 観察 4−1.白色噴煙:  弱い北より(北北東)の風(中堀さんによると30〜40度14ノット)を受けて南側に 流されている。上昇 後すぐ消散、遠方まではたなびかない。上限は、午前中は雲のた め不確かだったが、午後の飛行時は島の高 さの2倍(約1400m)が最高(写真1〜 4)。  白煙は連続的に上がり、ここ半年以上見慣れていた(途切れのある)パルス状噴煙 ではない。噴煙量は比 較的多い。火口全体に白く立ちこめているが、排出に力強さは ない(写真5,6,15)。このところ雨天が 続いたためと思われる。(昨日までの3 日間雨、気象庁アメダスによれば裾野の3地点平均総雨量49ミ リ。)火口丘周囲の噴 気は以前からの各点殆ど白煙を上げている。ただし弱い。 4−2.ガス:  SO2 主体の青白ガスは白煙とは別に、低く南西斜面沿いに拡散ぎみに下っている。 やっと認識できるくら い薄く、遠方が透けて見え、かつてのような視程を遮るほどの ものとはくらべものにならない(写真4)。 南西海岸富賀浜付近を通過の際は、はっ きりと硫黄臭が感じられた。  COSPEC観測の中堀さんによると、チャートには南西でピークが出るもののなかなか バックグラウンドレベ ルに下らない。結局、COSPEC観測としては異例の、島1周コー スを2回繰り返すことになった。北側のほん の一部で低レベルに下ったらしい。 曇り気味の天気で全体にかすみがちだったが、弱風時、3マイルの範囲では、ガスは ほぼ島全周にひろがっ ていた、ということだろうか。特に悪い私の鼻には、臭いは上 述のように南西側でしか感じられなかった。 4−3.火口  多めの白煙が火口のほぼ全域にたちこめ、火口内〜火口底の観察はほとんど出来な い。(上述のように、 排出力に欠ける白煙の多さは直前3日間の降雨の影響と思われ る。) 北寄りの風の(カルデラ南壁にぶつかった)反流も手伝って火口(南主火口)の南側 に多少隙間がある(写 真15)。噴煙は主に南主火口内の北寄りから出ている様子。不 活発になっていた北主火口からも出ている。  南主火口はもともとカルデラ南壁にえぐれ込んだかたちだったが、最近の写真(特 に1月22日、吉本氏 5、中堀氏6)によると、南壁と東火口壁から張り出していた庇 (ひさし)部分がほぼ無くなっている。崩 落物が南主火口底の南半を埋めたと見え、 火口底南半はいわば蒸し焼き状態。排煙活動は一時的に(〜当 分)阻害されている可 能性が高い。(今後の動向に注目。)この排気閉塞状態を受けて北主火口が再活発化 した、とは考えられないだろうか。  火口丘周辺斜面からの噴気は、北西クレバス上部と下部、北東斜面下部、東斜面中 部(昇華物による白色 化が顕著)いずれからも上がっている。火口丘北西斜面から西 池(旧黒池)西岸にかけての北西噴気帯は南 西カルデラ壁の崩落に一部埋没状態(写 真5,15)。 4−4.カルデラ縁・カルデラ壁 ○ 北半(西〜北〜東)の壁・縁 ・ 北半のカルデラ壁・縁には特に新たな変化は見当たらない。 ・ 北縁最高点はピークの東側が以前の地割れ(02年11月28日写真11参照)を境に崩 落・後退し、ますま すスリムになっている(写真7)。 ・ 北壁中上部の突出岩体が目立つ(写真8、12)。 ○ 北半(西〜北〜東)カルデラ壁下 ・ カルデラ壁直下の崩落岩塊分布に目立った変化は見当たらない。カルデラ底「東 池」付近の湖岸線は大 分変化(拡大)しているが、付近の大型岩塊の分布に目立った 変化はない(写真11〜13)。 ・ スオウ穴〜北壁下の崩落路(岩塊により壁面は削り込まれた)は集水路となり、 下部からカルデラ底に ひろがる部分に水路〜デルタをつくって「東池」に流れ込んで いる(写真10〜12)。 ・ 西壁下のマウンド西側の小池(「西小池」と仮称)わきの崖錐に10個くらい大岩 塊が目立つ(写真 13)。以前より増えたが2月19日と大差ない。白い大岩塊(D)が 1個だけ北東に離れて鎮座しているが (写真13)、これは2月19日(吉本氏写真4) に写っておらず、19日以降のもの。2月23日10:26の地震 による崩落の可能性がある (後述)。 ○ 南西カルデラ壁の崩落 西池(旧黒池)背後のカルデラ壁は崩落が進んでいる。南西壁最上部(縁)から下端 西池まで達する従来の 崩落ルートとその南隣の壁面から発する2ヶ所で3種の崩落堆 積物が目立つ(写真5,15)。 従来の崩落ルートは下端の崖錐がほぼ相似形に成長しているためわかりにくく、写真 15に見るように、表面 に茶色い新たな崩れがかぶって見える(A)。西池西岸線沿い には黒色の岩塊がばらまかれている(B)。 両者は別物に見え、(A)が(B)の壁 側部分を覆った関係にあるように見える。 西池の南側に黒色崩壊堆積物が"ローブ"状に北東に張り出している(C)。発生源は 壁面中段黒色部、浅い海 蝕洞状の窪みが残っている。この崩落堆積物(C)により北 東噴気帯は一部が埋没、目下一部噴気が途絶え た(押さえられた)状態にある。 これらは2月19日の画像(吉本氏写真4)の状況とは大分異なる。よって大部分が2 月19日以降のものらし い。 ○ カルデラ壁崩落と地震の関係   2月は久々に島を揺るがす地震があった。気象庁観測によると、 2月12日22:13阿古で震度4(M4.7、その後14日までに震度1が4回)、 2月23日10:26神着で震度2(M3.7)が観測された(震央は三宅島近海)。 (今回のヘリ観察はこれらの震動によるカルデラ壁の変化も目玉の一つだった。)  地震情報と上述の観察とを対応させると、 2月12日22:13(阿古で震度4);南西カルデラ壁の崩落、B?+それ以前 2月23日10:26(神着で震度2);南西カルデラ壁の崩落、A,C     同上         ; 西カルデラ壁の崩落、岩塊(D) の可能性が考えられる。 4−5.カルデラ底 ○ カルデラ底はほぼ南西〜北東に並ぶ3つの大池が顕著(写真10)。(南西から順 に「西池」「中池」 「東池」。「富士五湖」にならえば「三宅三湖」??) 大きな 変化はないが、直前降雨のため水位が上 り、よく見ると過去どの画像よりも最高位・ 最大になっている。(状況からすると、画像に捉えられてはい ない期間に、水位はよ り高くまで達した可能性が強い。)降雨時からあまり時間が経っていないため水は澄 んではいない。 ○ 「西池」(旧「黒池」)と「中池」は、南側への浅い拡大が目立つ。(北側を急 斜面がちのマウンドに 境されるが、南側は緩勾配の火口丘北山麓下部に接しているた め。)両池は狭い部分で繋がっている。「西 池」の変化は南西壁崩落に伴う崖錐発達 の影響もある。中池は火口丘斜面下からの水流跡が顕著。 ○ 「東池」は、スオウ穴〜北壁からの崖錐の末端と東壁下の緩い岩なだれ斜面との 間で、湖岸線を微妙に 変化させてきた。今回特に目をひくのは、スオウ穴〜北壁下の 崖錐間に刻まれた浸食谷からの水流と、「東 池」に張り出したデルタ(写真9〜 12)。2月19日の画像(吉本氏写真4)に既に見られるが、湖岸線は主 に(勾配の緩 い)北に拡がった。西隣に分離しがちだった小池とも繋がっている。  「東池」と「中池」はまだ隔たっているが、よく見ると、多少水面の高さが違う (「東池」の方がやや高 い??)ように見える。 ○ カルデラ西〜北西壁下のマウンド両側に位置する2つの小池(「西小池」・「北 小池」)も、ともに水 量を増してやや大きくなっている。これらを合わせると、カル デラ底は只今「三宅五湖」。 <付記> この観察レポートより先に、3月4日(金子氏)の報告が出ている。 氏が「池は6つある」としているのは、水位が下がり、上記の「東池」の西端が水位 低下で分離して2つに 見えるため。 氏の写真によると、3月4日、水位低下のため池は皆2月25日よりやや小さくなって いる。 4−6.その他 中腹以下の各種工事はかなり進んでいる。今回は周辺状況まで詳しく見ることは出来 なかった。 飛行コース沿いに見られた主なもののみ、写真(16〜19)紹介。 写真16。東斜面上部の浸食状況。 写真17。北東斜面地獄谷付近の状況。 写真18。赤場暁。一周都道の橋脚台座は完成済み。 写真19。伊ケ谷の海蝕崖。2000年7月〜の地震で崩落した吹きつけセメントの覆い跡 は、新たなメッシュ 状の覆いに生まれ変わった。  (大島 治) +++++++++++++++++++++++++ <写真説明> 2003(平成15)年2月25日(火)の三宅島 観測ヘリ: 警視庁ヘリ「おおぞら2号」 JA 9678 号機(EH101 Super Puma、島機 長) 搭乗時間: 08:47 〜 10:46 (新島空港で給油) 12:45 〜 15:00  観測時刻: 10:10 〜 10:28(火口目視 18分),13:15頃 〜 13:45(COSPEC 30分) 観測者:  火口: 宮城(産総研)・ 大島、 COSPEC: 中堀 ・ 池田 (気象庁) 写真撮影: 大島 治   写真の二次使用に当たっては必ずお問い合わせ下さい。 写真1。北北西から見る三宅島。太めの白煙が雲底にかかり南側に倒れている。山頂 カルデラ縁は斜めの鋸 の歯のよう。 写真2。東側(三池沖)から見る三宅島。白煙が南西に向かっている。 三池火口列の砂防堰堤が白く見える。金層に下る黒い谷筋の下端にも。 写真3。南側(古澪〜水溜り沖)から見る三宅島。太めの白煙が南西にたなびきかけ て消散している。高さ は島の高さの2倍以下。薄く青白いガスが南西斜面を這下って いる。 写真4。南西(粟辺〜新鼻)から見る三宅島。ガスの流れの軸部に近く、多少臭いは するが山頂まで透けて 見える。 写真5。北から見る火口付近。火口ほぼ全面から白煙が上がっている。昨日まで3日 間の雨のためか噴煙量 は多いが排出に力強さはない。活動休止がちだった北主火口 (旧主火口)も白煙を上げ、南主火口は内部南 寄りの活動が弱く見える。西池(旧黒 池)背後のカルデラ壁2ヶ所の崩れが目立つ(黒い崖錐"ローブ"に注 意。)北西噴気 帯はこの崖錐による埋没が進んで、一部で噴気が出ていない(押さえられている模 様)。 写真6。北西から見る火口。北主火口をはじめ火口のほぼ全面から白煙が上がってい る。南主火口南寄りが 一部閉塞状態になった代わりかもしれない。火口丘周囲の噴気 も最近にしては若干多めに見える(特に北西 斜面クレバス上部・東斜面クレバス)。 写真7。北縁越しにみるカルデラ西半。北縁最高点付近は地割れを境に少しずつ削れ 落ち、大分スリムに なった。西池(旧黒池)の西岸(向こう岸)とその左の黒さと噴 気帯の途切れに注意。 写真8。北東(スオウ穴上空)から見るカルデラ内。底に南西〜北東方向に3つの大 池が並ぶ(遠方から手 前へ「西池」「中池」「東池」、まとめて「三宅三 湖」??)。水位が上がり、過去最大(どの画像より も)になっている。右は崩落〜 後退の進んだカルデラ北縁。最上位の脆いアグルチネートの後退が進み、中 段のかた い旧岩体が突出している。火口丘東側のクレバスは昇華物の付着で白い。 写真9。西から見るカルデラ内。画面左の北壁〜スオウ穴下からの流れが「東池」に ひろがってデルタをつ くっている。「中池」右には火口丘北麓側から流入の跡。「西 池」はカルデラ縁の蔭で見えない。 写真10。東から見るカルデラ底。スオウ穴〜北壁下から東池に流入する水路・デルタ が顕著。中池にも火口 丘裾から幾筋もの流入の跡。 写真11。東池・デルタとスオウ穴下付近の岩塊分布アップ。 写真12。北壁〜突出岩体上から見るカルデラ底北〜北西部。東池に流入する水路・デ ルタ周辺の大型岩塊の 分布に大きな変化はない。(吉本氏2月19日写真4参照) 写真13。カルデラ底北西部を北壁上から見る。画面中央、マウンドの両脇(カルデラ 壁寄り)の2つの小池 は降雨によりやや大きくなっている。右側の小池(西小池)脇 に散在する大岩塊は以前より増えたが2月19 日とは大差ない様子。手前に1個だけ離 れて白く見える大岩塊は2月19日以降の新顔。2月23日10:26の地 震による崩落の可 能性がある。 写真ではわかりにくいが、画面手前のカルデラ北〜北西壁は、赤黒のバンドに見える 中上部より下部の傾斜 が急なため、下部壁面の大部分は(この位置からはオーバーハ ングしたかたちで)見えていない。 写真14。北西から見るカルデラ底西半部。画面中央は中池(左)と西池(右)。画面 右上からの南西カルデ ラ壁の崩れが西池の湖岸線を変えている。対岸(南岸)の"陸 上部"に右から張り出した黒い"lobe"に注意。 「北西噴気帯」を遮断するように覆っ ている。 写真15。西壁上から見る火口付近とカルデラ底西部。南主火口の活動は火口内北寄 り。南寄りは不活発で背 後の南壁が見える。画面手前は西池に岩塊をひろげる南西壁 の崖錐(崩落路はカルデラ縁上端まで)。南岸" 陸上部"に張り出した黒い"lobe"の発 生源は黒い壁面中段の浅い海蝕洞状の窪み(右上から2番目の白色噴気 塊の上端右 下)。 写真16。 東斜面上部の浸食状況。 写真17。北東斜面地獄谷付近の状況。 写真18。赤場暁。一周都道の橋脚台座は完成済み。 写真19。伊ケ谷の海蝕崖。2000年7月〜の地震で崩落した吹きつけセメントの覆い跡 は、新たなメッシュ 状の覆いに生まれ変わった。 写真20。お世話になった警視庁ヘリ「おおぞら2号」Super Puma JA9678。左は島機 長。右に立つのは宮 城さん。新島空港にて。