5月1日(水) 今回の同乗者は川辺さん(産総研),飯野さん.内藤さん(以上,気象庁)他1名の 計5名.搭乗したヘリは警視庁航空隊の「おおとり」.天候は晴れ. [行程] 9時21分,東京へリポートを離陸.三宅島に向かう.10時02分,三宅島が見えた.山 頂から放出されるガスの量は,風の強さを考慮しても明らかに少ない. 10時14分,三宅空港に着陸.島内観測班が降りた後,10時22分に再離陸,火口観測を 開始.10時38分までのおよそ16分間,観測を行った.飛行ルートは,三宅空港から北 西方向に移動,スオウ穴のすぐ東側で反転し,カルデラリム沿いを時計回りに(ガス に臆することなく)5回周回した.飛行高度は,最初の3回は約3500ft,4回目は 約4500ft,最後の5回目は約5000ft. 観測終了後,新島に向かった.10時52分,新島空港に到着.給油と昼食休憩を取った. 13時53分,新島空港を離陸,三宅島に向かった.14時11分,三宅空港に到着,島内観 測班1人を乗せた後,ガス観測を行った.15時00分にガス観測が終了した後,帰途に つく.16時02分,東京へリポートに帰還した.長時間丁寧なフライトを遂行して頂い た警視庁航空隊のクルーの皆様に篤く御礼申し上げます. [噴煙] 噴煙は南南東に流れていた(写真1).噴煙の色は白色.放出量は,4/9の吉本さんの 観測時や,4/23の金子さんの観測時に比べて明らかに少ない(写真1および2).噴煙 の放出は間欠的で,条件によっては主火口内部がほぼ完全に見えることもあった(写 真3および4).噴煙の上昇高度はカルデラの縁から見積もると100m以下,主火口の縁 から見積もっても1000m以下で,今まで観察した中では最も低い.青みがかった硫酸 ミストは,白色の噴煙にまとわりつくように,南南東方向に流出していた(写真5). 白色噴煙の放出は間欠的であるが,このミストの放出も間欠的であるかどうかについ ては,現時点では判断は難しい.飛行高度が特に低かった1,2回目の旋回時には,ガ スの流下方向で硫黄臭を感じたが,やや高所から観察を行った4回目,5回目の旋回時 には,硫黄臭を感じなかった.なお,ガス観測を行った午後は,噴煙の量は若干多め になっていた.ヘリのパイロットによれば,午前より午後の方が経験的に噴煙量が多 い,とのことであった. [カルデラ底] カルデラ底は,みなさんの報告にもあるように,3/20に起きたとされるカルデラ北壁 の大きな崩壊に伴う明るい色調のデブリが,マウンドの東側に分布している(写真6). デブリの表面には特徴的な起伏が認められるほか,大小様々な岩塊が点在している. デブリの先端はカルデラの中心付近にまで達している.このデブリと北西側のマウン ド,そしてカルデラ南側のコーンおよび噴気帯との間に挟まれた低地部に,様々な色 と形状を呈する水たまりが点在している(写真7). [メインの火砕丘と主火口内部] メインの火砕丘は,外側の”外輪山”と,内側の”主火口”を持つ2重構造を呈する (写真8).噴気の激しい箇所は3つの領域-”外輪山”の縁,”外輪山”と”主火口” の間,そして”主火口”の縁-にあり,それぞれが主火口を取り巻くように分布して いる.最も噴気が激しいのは”主火口”の縁で,主火口から外側に行くほど噴煙量は 見かけ上少なくなる.青みがかったミストは,”主火口”の縁と,”外輪山”と”主 火口”の間の2箇所から放出されている(写真9).主火口の内壁はほぼ垂直に切り立っ ている(写真3および4).火口底に崖錐堆積物が認められることから,主火口の内壁 も崩落が繰り返し発生しているらしい.内壁の北側壁には,熱水活動によるものと思 われる白もしくはやや黄色みがかった筋が何本も認められる.主火口の火口底そのも のからの噴気量は少ない. [カルデラ壁] カルデラの西北壁が,明茶褐色を呈する火山灰で汚れていた(写真10).しかし,最 近火山灰放出を伴うような火山活動は観察されていないことに加え,火山灰で汚れて いるカルデラ壁の場所と,新鮮な崖錐堆積物の場所が一致する.このことから,カル デラ西北壁の汚れはカルデラ壁の崩落によるものと判断される.過去に,このような カルデラ壁の汚れは小規模な噴火によって(火山灰が張り付いて)生じた可能性が高 い,と何度か報告してきたが,その解釈は誤りであったかもしれない.その他,スオ ウ穴に続くダイク(写真11)や,カルデラ南西壁に認められる「Y」字形のダイク (写真12)も認められた. [山腹および山麓] 山腹および山麓では,砂防施設の充実ぶりに目を見張った.特に,村営牧場付近の砂 防ダムが目新しい(写真13).ただし家屋の損傷(写真14)も目に付いた. (大野希一) [写真の説明] ※撮影時刻は誤差1秒以内です. 写真1 西南西から遠望した三宅島.山頂からの噴煙量はごく少量.14時39分50秒撮 影. 写真2 南南東から見た三宅島.白色の噴煙が南南東に流れていく.噴煙の出方は間 欠的.15時05分34秒撮影. 写真3 ほぼ真南から見た主火口内部.主火口の内壁はほぼ垂直で,熱水活動による と思われる白もしくは黄色の変質帯が縦横に走る.主火口を中心に,噴気帯が同心円 上に取り巻く.主火口の底から直接放出されている噴気の量は少ない.カルデラリム には,大小様々な規模のひび割れも認められる.10時23分24秒撮影.     写真4 主火口内部の拡大写真.内部に崖錐堆積物があることから,主火口の内壁自 体も崩落を繰り返していると推定される.10時26分09秒撮影. 写真5 主火口から放出される青みがかった硫酸ミスト.白色の噴煙の放出は間欠的 であるが,硫酸ミストの放出も間欠的かどうかは,これを見た限りでは判断が難しい. 10時35分56秒撮影. 写真6 ほぼ真南から見たカルデラ底の全景.北西にあるマウンドと,メインの火砕 丘および噴気帯が作る高まりに挟まれた低地に,大小様々な水たまりが点在する.マ ウンドの東側には,スオウ穴脇の崩落に由来する,やや明るい色調のデブリが分布し ている,デブリの先端はカルデラの中心まで達している.10時31分47秒撮影. 写真7 北西から見たカルデラ底.明るい色調のデブリが目立つ.デブリは特徴的に 起伏をもつほか,表面に大きな岩塊が点在している.10時24分17秒撮影. 写真8 2重構造をもつメインの火砕丘と主火口.10時29分22秒撮影.     写真9 メインの火砕丘と主火口から放出される噴煙と青みがかった硫酸ミスト.硫 酸ミストは,”主火口”の縁と,”外輪山”と”主火口”の間の2箇所から放出され ている.放出された硫酸ミストは,白い噴煙にまとわりつくように,カルデラの外に 流出してゆく.10時26分58秒撮影. 写真10 カルデラの北西〜北側壁.写真の左端のカルデラ壁が,茶褐色の火山灰で汚 れている.カルデラ壁の崩落によって着色したらしい.10時23分05秒撮影. 写真11 スオウ穴に連続するダイク.10時29分11秒撮影. 写真12 カルデラ南西壁に認められる「Y」字形のダイク.10時28分00秒撮影. 写真13 三宅島の南西麓.深いガリーに浚渫された砂防ダムが目立つ.15時05分42秒 撮影.     写真14 屋根が壊れてしまった家屋.14時13分38秒撮影.