9月16日(火) 今回の同乗者は宮城さん(産総研),飯野さん,宮下さん(以上,気象庁)他4名の 計8名.搭乗したヘリは警視庁航空隊の「おおとり3号」.天候は晴れ. [行程] 9時34分,東京へリポートを離陸.途中式根島に立ち寄り,4名の同乗者を下ろした後 再離陸.三宅島に向かう.10時31分,三宅島が見えたが天候状況が良くないため,午 前中に予定していた火口観測を午後に変更,急遽午後に行う予定のガス観測を行った. 11時16分,ガス観測終了後,新島空港に移動.11時33分新島空港に到着.給油と昼食 休憩を取った.13時33分,新島空港を離陸,三宅島に向かう.天候状況はほとんど変 わらなかったが,とりあえずカルデラリムまで近づく事に.その結果,カルデラの南 西の極めて限られた領域から,カルデラ底と火口が見えたため,13時45分頃から火口 観測を開始.14時00分までのおよそ15分間,観測を行った.飛行ルートは,村営牧場 上空からカルデラの南南西端に移動.そのままカルデラリム沿いを北西方向に移動し, カルデラの南西付近のリム付近で数分間ホバリング.その後,さらに北西方向に移動. 噴煙にかかる手前で左旋回し,村営牧場付近に移動し,起点に戻る.このルートを2 回繰り返した. 観測終了後,式根島に移動.14時20分,式根島に到着.4名の同乗者を乗せた後,14 時22分,式根島を離陸,帰途につく.15時20分,東京へリポートに帰還した.天候状 況が良くなかったにもかかわらず,丁寧なフライトを遂行して頂いた警視庁航空隊の クルーの皆様と,火口観測を午後に変更するという的確な判断をして頂いた気象庁の 飯野さん・宮下さんに篤く御礼申し上げます. [噴煙] 夏期に特有の”島曇り”と,風が弱かったため,山頂付近は厚い雲で被われていた (写真1).この日,地上付近(300ft)は北北東風だったが,上空(3000ft)は北東 風だった.また,さらに高度が高くなると,東風の成分が強くなった.このため,噴 煙は様々な方向に流れた.山頂付近を多う大きな噴煙(+積雲)は,大局的には西に 流れていた(写真1).色は白色で,到達高度は最高で約2000m程度と見積もられる. 噴煙よりも密度が大きい青みがかった硫酸ミストは,地上付近の風に従って,白色の 噴煙とは独立に島の南西方向に流下していた(写真1および2).ガス観測時に阿古の 沖で刺激臭を感じたが,ガスに伴う弱い臭気は島の西側まで感じた.風が弱い分,硫 酸ミストがより広い範囲に拡散しているようであった. [メインのコーンと主火口内部] メインのコーンは,外側の”外輪山”と,内側の”主火口”を持つ2重構造を呈し (写真3,4),その形状や大きさに特に変化はない.主火口内部は白色噴煙が充満し ているため,内部の詳しい様子はよく分からないが,噴煙のすきまから黄色い硫黄が 火口の内壁やコーンの斜面にべったりと付着している様子が確認できる.青白い硫酸 ミストは,写真奥の主火口の縁あたりから直接放出されている.コーンの縁辺部にも わずかな噴気が認められ,その噴気孔の周辺部は,硫黄の付着により黄色く変色して いる. [カルデラ底] 島曇りのため,火口観測は不可能と思われたが,カルデラの南西側のごく限られた範 囲から,数ヶ月ぶりにカルデラ内部を観測することが出来た.カルデラ底は,これま で認められた大きな水たまりがほとんど確認できなくなり,サイズが小さくなった (写真5).カルデラ底自身は,全体的に小さな起伏が目立つようになったが,その 一方で,北西にある大きなマウンドはあまり目立たなくなったように思われる.これ は撮影方向が悪いからかもしれない.カルデラ底の南東側に,小さな黒色の水たまり を見つけた(写真5).これは従来カルデラの南西にあったものとは位置が異なるた め,別物であると考えられる.また,カルデラ北壁の崩落によると思われる大きな崖 錐堆積物が認められる(写真6).このことから,3/20以降もカルデラ北壁の崩落は 継続しているものと予想される.また,カルデラの南西側に認められた亀裂は,今も なお残存する(写真7). [山腹および山麓] 雄山の北側斜面北側斜面は,立ち枯れた木のほとんどが倒れている(写真8).その ため,北側斜面は,大量の倒木が山腹斜面に引っかかっている状態になっている.枯 れ木の一部は斜面の崩落によって深いガリーの中に落ち込んでいるほか,ガリーの中 を木が流れ下っているような様子も認められる.このような状況を見ると,土砂流出 の際に,大量の枯れ木が下流域に流出する可能性がある.大雨時には警戒を要する. (大野希一) [写真の説明] ※撮影時刻は誤差1秒以内です. 写真1 南南西から遠望した三宅島.夏期特有の”島曇り”のため,山頂付近は雲で 被われている.青みがかった硫酸ミストが南西方向(写真の左側)に流れていく.10 時46分40秒撮影. 写真2 カルデラリムの南西から南東方向をのぞむ.白色の噴煙がゆっくりとカルデ ラ縁からあふれ,南西方向に流れていく.硫酸ミストのほとんどはこの噴煙と一緒に 流れているらしい.カルデラ壁には成層した火砕堆積物層が認められる.13時50分48 秒撮影. 写真3 カルデラリムの南西からみた主火口.その形状や大きさに大きな変化はない. 白色噴煙が充満しているため,主火口内部の様子はよく分からないが,噴煙のすきま から黄色い硫黄が火口の内壁やコーンの斜面にべったりと付着している様子が確認で きる.青白い硫酸ミストは,写真奥の主火口の縁あたりから直接放出されている.主 コーンの縁辺部にもわずかな噴気が認められ,その噴気孔の周辺部は黄色っぽい.13 時50分22秒撮影. 写真4 主火口付近の拡大.主火口は2つの同心円構造をなす主火口の背後には,白色 を帯びた大きな岩脈がほぼ垂直に走る.13時57分41秒撮影. 写真5 南西からみたカルデラ底の南部.カルデラ底には複数の水たまりがあるが, どれも小さい.写真の中央やや左上付近に,小さな黒色の水たまりが認められる.こ れは従来カルデラの南西にあったものとは位置が異なるため,別物であると考えられ る.コーンとカルデラ底との傾斜の変換点が非常にシャープ.13時57分30秒撮影. 写真6 南西からみたカルデラ底の北部.カルデラ底は,これまで認められた水たま りがほとんど確認できなくなり,全体的に小さな起伏が目立つようになった.その一 方,撮影方向が良くないためか,北西にある大きなマウンドはあまり目立たない.写 真左上の崖錐堆積物の規模の大きさが際だつ.カルデラ北壁の崩落は継続していると 予想される.13時57分26秒撮影. 写真7 カルデラ南西壁付近の亀裂.13時49分49秒撮影. 写真8 雄山の北側斜面.北側斜面は立ち枯れた木が倒れ,大量の倒木が山腹斜面に 引っかかっている.土砂流出の際に,大量の枯れ木が流出する可能性がある.13時44 分16秒撮影.