III.特定火山の観測研究 

1.集中総合観測と構造探査(第1次〜第5次計画)

(1)目的,経緯,実施状況

 昭和49年度(1974)に,伊豆大島と桜島の火山活動が活発化し,多種の地球物理学的・地球化学的観測が科学研究費で実施され,火山活動に対する情報量の飛躍的増大と総合的な判断に著しい成果を挙げ,噴火の可能性のある火山について,適当な間隔での集中観測の必要性が唱えられた。昭和51年度(1976)以降,火山噴火予知計画事業の一環として毎年2火山を対象として集中総合観測が実施されてきた。本事業は大学が世話役を務め,気象庁の基礎調査など関係機関の調査や民間企業の自主的調査と併せて進められてきた。本事業の一環として第3次計画では磐梯山で,第4次計画では秋田駒ヶ岳,有珠山,阿蘇山で人工地震,重力による地下構造の解明が試みられた。第5次計画ではこれを引き継ぎマグマの実体把握などを目的とし,新たに開発したデータロガーを用いた火山体の構造探査観測が新たな事業として始まった。これに伴って,集中総合観測は年1火山実施されている。

これまでに実施された集中総合観測ならびに構造探査の一覧は参考資料にまとめた。

 

(2)成果と達成度 

 集中総合観測によって,対象火山における活動時及び静穏時の多項目観測による膨大な基礎資料の蓄積がなされた。特に,三宅島(昭和58年(1983)噴火),伊豆大島(昭和61年(1986)噴火),雲仙岳(平成2年(1990)〜7年(1995)噴火)等では噴火以前に集中総合観測が実施され,観測結果が噴火発生及びその後の活動推移の把握に十分に生かされた。例えば,三宅島では過去の噴火サイクルを考慮して,噴火の3年前に第1回の集中総合観測が行われ,地震活動は静かであること,カルデラ内の熱的状態や地下水の存在を確かめるとともに,後の噴火に備えて重力の精密測定,磁気観測点の整備と観測,島内の熱分布調査等が行われた。昭和58年(1983)に実施された伊豆大島の集中総合観測の結果では,地震,地殻変動,火山ガス観測などでは活動の活発化を示す異常は検知されなかったが,全磁力観測では三原山内部の温度上昇を示唆する変化を,また,熱観測では火口内部の熱異常を検知している。これまで行われた集中総合観測によって,マグマの蓄積と地盤変動及び重力変化,マグマの移動と地磁気・比抵抗変化,火山活動と火山性微動・熱異常・火山ガスの組成及び放出量・温泉の水質との関連が明らかにされ的確な活動状況の把握がなされるようになった。

 桜島火山では9回の集中総合観測が実施され,多種の地球物理学的・地球化学的・地質岩石学的観測が行われ多角的な火山活動の評価が可能となり,個々の観測データによる活動評価法も確立された。同時に集中総合観測の結果,火山ガスの化学組成が火山活動の推移に先行あるいは調和して変化することが確かめられ,火山ガスの連続観測など地球化学的観測法も定常的観測に組み込まれ,観測井における地震傾斜観測,観測坑道における傾斜,歪み観測の整備と併せて直前予測が可能となる多項目観測網が整備された。他の活動的火山においても,20余年にわたって続けられた集中総合観測によって,観測技術の向上,観測設備の整備が進み定常的観測体制は飛躍的に拡充強化され,所期の目的が達成されつつある。また,集中総合観測の実施を契機に活動的火山において定期的な観測が継続されている項目もある。

 集中総合観測の実施での大きな成果として,多くの機関,多種の観測項目による共同観測研究体制が確立されたことが挙げられる。この体制は昭和52年(1977)有珠火山の噴火の際に生かされ,その後も三宅島,伊豆大島,伊豆東方沖,雲仙岳等の噴火時には直ちに合同観測班が組織され多項目にわたる総合観測が実施された。

 第3次及び第4次計画で試みられた地下構造の探査では,火山体の構造についての新知見,カルデラの生成過程に関する資料が得られた。第5次計画からの高密度地震観測による構造探査によって,霧島山では,詳細な速度構造や密度構造,地震波減衰域の解明に成功している。また,電磁気学的観測では火体内部の詳細な比抵抗構造が,地球化学的観測では地下の地熱構造が,重力観測では埋没カルデラの存在や新燃岳周辺には局所的な重力異常のないことが明らかとなった。しかし,所期の目的の一つであるマグマの位置,規模などその実体の把握には至っていない。

 

(3)問題点と今後の課題

 多くの活動的火山では,火山噴火予知計画発足時に比べ飛躍的に観測網の整備・充実が進み集中総合観測の所期の目的が達成されつつあり,これら火山での集中総合観測の必要性は少なくなった。一方で,活動状態の把握に必要な観測設備が未整備の火山も多くある現状を考えれば,今後これら火山で観測設備の整備を進めるとともに集中総合観測を実施し,活動状況の把握と基礎資料の収集を図る必要がある。また,必要に応じて特定の観測項目についての高密度観測の実施,マグマの動きを検知する新たな観測手法の開始,活動との対応づけのための新たな観測手法の開発,噴火ポテンシャルの評価等を目指した総合共同観測への発展も考える必要がある。 

 これまで実施された集中総合観測で得られた成果は報告書にまとめられ,以後の観測研究に利用され大きな成果を挙げてきたが,第3次計画以降は伊豆大島や雲仙岳の噴火の観測研究に追われたこともあり,成果報告書の出版は少ない。今後は,このような貴重な成果を十分生かすよう,成果報告書にまとめることに努力することが重要である。

 また,噴火の発生,活動の長期化等により多くの人員が割かれ,そのため集中総合観測に参加できないなどの問題も生じている。

 第5次計画からの構造探査は,得られる成果が大きい反面,観測の実施とデータの解析に膨大な人力と時間を必要とし,観測及びデータ解析に工夫が必要である。同時に目的であるマグマの実体及び供給系把握のための観測を一層進めることが重要である。

外国の火山噴火に対しての機動的な調査研究は,短時間に多種の噴火様式を経験でき,我が国における火山噴火予知研究推進に重要であるが,しかし,これに対応する人員は十分に整っているとはいえず,今後検討すべき課題の一つである。特定火山の観測研究の実施にあたっても,今後一層の観測設備の整備,体制の拡充強化と併せて経費の確保が必要である。 

 

2.主な火山噴火への対応

(1)実施状況と成果

 火山噴火予知計画開始以降の主な噴火活動には,桜島(1972〜),伊豆大島(1974),有珠山(1977〜1982),御嶽山(1979),草津白根山(1976,1982〜1983),阿蘇山(1979〜1980),口永良部島(1980),三宅島(1983),伊豆大島(1986〜1987),十勝岳(1988〜1989),伊豆東部火山群(1989),雲仙岳(1990〜1995),九重山(1995),南方諸島及び南西諸島の海底火山がある。このうち,御嶽山と南方諸島及び南西諸島の海底火山を除くほとんどの噴火で,事前に短期的な異常現象が観測された。桜島(1972〜)及び伊豆大島(1974)の活動に際しては,活発化した火山活動の現状を把握するために,関係機関が協力して昭和49年(1974)に総合的な観測が行なわれ,その後の集中総合観測の端緒となった。また,その後の噴火に際しては,集中総合観測等の共同観測の経験が生かされ,総合的な観測体制が迅速に構築された。その結果,各種観測結果を総合的に考察することにより,噴火前後のマグマの挙動をかなり把握できるようになってきた。以下に,主要な噴火活動について観測調査の実施状況と成果を列挙する。

 桜島南岳は昭和30年(1955)から山頂噴火活動が継続していたが,昭和47年(1972)から爆発的噴火活動が急激に高まった。爆発による火山弾の危険性のため,火口から2km以内での観測調査が不可能な状況の中で,昭和49年(1974)以降,観測網の整備と集中総合観測などによる多種目の観測調査が行われ,マグマ供給系や噴火の前駆現象の研究に大きな進展が見られた。さらに,昭和59年(1984)からは,火山体地下でのマグマの挙動を把握するために,観測坑道及び観測井を用いた高品位の地殻変動及び地震観測体制が整備された。数十年にわたる水準測量,潮位観測等の地殻変動データの解析から,桜島北方の鹿児島湾,すなわち姶良カルデラの地下約10kmにマグマ溜りがあり,それと連結したマグマ溜りが桜島南岳地下約4kmに存在することが推定された。広域的な地殻変動と火山噴出物量との関係について定量的な検討がなされ,カルデラ地下には年間1000万mのマグマが上昇供給されてきたこと,噴火活動が高まる前には桜島の地盤が周辺に対して相対的に隆起することが明らかにされた。また,火山性地震の精密な震源分布から桜島南岳直下の火道の位置と形状が明らかにされた。さらに,表面現象や地殻変動観測結果と比較対照することにより,火道周辺で発生するA型地震及び火道内部で発生する爆発地震,B型地震などの低周波地震の発生機構とマグマの挙動との関係が検討され,従来の地震観測による噴火の経験的な短期予測(A型地震→B型地震群発→爆発)に火山学的な根拠を与えた。個々の山頂噴火に対して,噴火の数十分〜数時間前からは,桜島直下のマグマ溜りや火道下部での圧力増加に伴う山頂地盤の極微小な隆起膨張が,また,噴火発生の後は,噴出物量にほぼ比例した地盤の沈降収縮が捉えられた。自動的に隆起膨張量を評価して警告を発するシステムが開発試行され,中小爆発を含めその予測成功率は70%という結果を得た。このシステムは一部の関係機関に設置され,リアルタイムでデータが提供されている。

 有珠山の活動(昭和52〜57年:1977〜1982)では,噴火前の昭和52年度(1977)に北海道大学理学部有珠火山観測所が新設され観測研究に着手していた。噴火後に現地総合観測班が組織され,観測と防災の両面で適確な対応をする上で非常に有効であった。この噴火では,本格的な有線・無線テレメータ網による観測がなされ,迅速な火山活動の把握と震源決定などが可能となった。長期に及ぶ地震,地殻変動等の総合的な観測によって,震源分布と発震機構の推移,地震と隆起運動の関連などデイサイトマグマの地下浅部への貫入過程が詳しく捉えられた。また,地震エネルギー放出率と新山の隆起速度の推移にもとづいて,活動の推移予測が行われた。さらに,噴火後長期に及んだ新山隆起運動の起源について,デイサイトマグマの緩やかな発泡によるモデルが提唱された。しかし,噴火前に観測網が整備されていなかったためもあり,マグマ溜りの存在場所やマグマ供給システムについては,ほとんど情報が得られなかった。

 三宅島の噴火(昭和58年(1983))では,割れ目噴火開始の2〜3時間前から多発し始めた地震が捉えられ噴火前に情報が出されたが,地震観測点が気象庁の1点のみであったため震源が特定できず,初期の防災対応に問題をもたらした。それ以外の前兆現象は観測されなかった。噴火後は,テレメータを用いた臨時地震観測によって,噴火直後の地震活動の特徴が明らかとなった。特に,割れ目火口付近に発生した高周波地震の発震機構として,引っ張り−せん断割れ目モデルが提唱され,マグマの移動と強く関係していることが示唆された。また,噴火前後に実施した電磁気,熱の観測データにもとづいて,昭和58年(1983)噴火とその後の推移が考察され,火山体浅部の帯水層とマグマとの熱的な相互作用を考慮することによって,これらの観測データが良く説明できることが示された。噴火前後の水準,重力測量によって,割れ目噴火にともなう変動分布が得られた。航空機による噴火状況,変色水,周辺の海底火山などの調査も行われた。火山灰の分布,量の解析から噴火の推移を再現可能であることが確認された。さらに,溶岩流のシミュレーション手法が開発され,昭和58年(1983)溶岩流に適用された。その結果が溶岩流に埋没した阿古地区の復旧計画策定やハザードマップの作成に活用されたことは,防災に対する重要な寄与であった。噴火後の集中総合観測において実施されたGPS観測によって,山体膨張の進行が捉えられている。

 伊豆大島の活動(昭和61〜62年(1986〜1987))では,山頂火口からの噴火に引き続いて,5世紀ぶりに山腹割れ目噴火が発生した。噴火前の昭和59年度(1984)に,東京大学地震研究所伊豆大島火山観測所が設置され観測体制の整備に努めていた。山頂火口の周辺では,噴火の数か月前から地磁気・比抵抗の顕著な変化や火山性微動が観測されたが,山頂部の隆起や膨張は噴火前の数年間観測されなかった。この一見矛盾するような現象のために,火山噴火予知連絡会は,近い将来噴火が起こるかも知れないが,本格的な噴火はしばらく後だろうと判断した。その後,観測データの総合的な再検討の結果,マグマの蓄積期と上昇期の2段階を経て噴火に至ったとする仮説によって統一的に解釈できることが示された。また,割れ目噴火に前駆する地震や傾斜などの異常現象は捉えていたが,割れ目噴火の可能性の認識が不十分であったこと,傾斜データがテレメータされていなかったことなどのため,事前に噴火を予測することができず,全島避難に至った防災対応にも有効な予知情報を提供できなかった。噴火後の活動状況の把握と推移の予測は,火口に近接した地磁気,比抵抗,重力等の観測データにもとづいてある程度行うことができた。その結果,昭和62年(1987)11月の噴火は,マグマが地下深部へ後退することに伴って発生したことが分かった。また,ヘリコプターを用いた観察や観測が初めて本格的に実施された。噴火前後の高密度な総合観測によって,地震・微動などの火山現象,割れ目噴火の発生機構,マグマ供給システムなどについての貴重なデータが大量に得られ,理解が大きく進展した。また,噴出物の調査分析が迅速に行われ,山頂噴火と割れ目噴火ではマグマの化学組成が全く異なることが明らかにされ,マグマ供給系のモデルを構築する上で重要な制約条件となった。さらに噴火後には,マグマの再蓄積を示す山体膨張の進行が捉えられ,詳細な構造探査の結果とあわせてマグマ供給システムについての理解がさらに進んだ。

 伊豆半島東部とその周辺海域では,昭和53年(1978)伊豆大島近海地震の後,群発地震活動とそれに伴う地殻変動が繰り返し発生していたが,平成元年(1989)7月に伊豆東部火山群の手石海丘海底噴火が起こった。この噴火に際しては,測量船,自航式ブイ,ヘリコプターによって,噴火の目視観察,映像や衝撃音の記録,海底地形などの調査が行われ,海底火山の誕生が克明に捉えられたことが特筆される。噴火前の群発地震活動とそれに伴う地殻変動は,地震予知計画に基づいて行われていた地震,傾斜,歪,電磁気等の観測によって捉えられた。噴火前後の震源の移動及び地殻変動分布とその変化から,開口割れ目モデルに基づいて割れ目の伝搬過程が詳細に推定されたことは重要な成果であった。さらに噴火後の臨時観測結果及び過去のデータと併せて,震源分布と地下速度構造との関係,過去の活動との関係等が解明された。しかし,割れ目に大規模にダイクが貫入したかどうかについては,意見が分かれている。群発地震活動とそれに伴う地殻変動は,噴火後も繰り返し起こっている。 

 雲仙岳の活動(平成2年〜7年:1990〜1995)では,関係機関の協力で噴火過程を究明するための総合的な観測が行われた。噴火前のマグマの蓄積状況については,4年前の集中総合観測で実施された水準測量結果と比較することにより,噴火前にマグマの蓄積が進行していたらしいことが示唆された。噴火開始の前兆はほぼ把握され,活動の現状把握も迅速に行われ防災に寄与した。マグマの蓄積量などについての観測データは不十分であったが,活動の推移予測も試みられた。平成2年(1990)11月噴火の1年前に火口西方の橘湾下で群発地震が発生し,その後震源域は雲仙普賢岳西麓から山頂部へと拡大し,噴火の数ヵ月前には山頂直下で火山性微動が観測された。平成3年(1991)5月の溶岩ドームの出現は,約10日前から山頂直下の群発地震,傾斜計及び光波測量による山頂部の山体膨張,地磁気観測による火口周辺での熱消磁などが観測され,それらに基づいて事前に予測された。火砕流の発生に対しては,その危険性を指摘し,避難勧告が出された。ドームの出現後は,航空機を用いた頻繁な観察,写真撮影と地形図の作成,マグマの上昇に伴う傾斜変動等にもとづいて,溶岩の噴出量が計測されたことは,火山観測史上画期的なことであった。さらに,地殻変動データから求めた地盤の隆起沈降量と溶岩噴出量とを比較することにより,深部からのマグマ供給率が推定された。また,隆起沈降の分布,震源分布,地震の発震機構,地震波の減衰などを総合することにより,山頂火口の西山麓地下に複数のマグマ溜りが存在することが指摘された。溶岩ドームの成長と崩壊によって火砕流が頻発したが,その発生状況,流動機構,堆積量等が様々な方法によって観察研究された。火砕流災害に対応するために,関係機関の協力によって,実用的な火山監視体制が構築され,情報の発信と防災関係機関への助言を行った。

 九重山(平成7年(1995〜))では,平成7年(1995)10月の噴火以降,地震,地殻変動,重力,熱,火山ガス等の観測を実施中である。火山ガス,湧水,噴出物の化学組成及び同位体組成から,活動推移の把握と噴火様式の推定がなされた。また,トレンチと古文書による調査が行われ,過去約4000年間の活動履歴が明らかにされた。九重山の熱構造についての研究が噴火前に行われていたことが,噴火活動の仕組みを考察するのに大変役立った。

 北海道駒ヶ岳(平成8年(1996))が平成8年(1996)3月5日に54年ぶりに少量の火山灰を噴出した。噴火の7年前の平成2年(1990年)ころから,山頂火口亀裂を横断する光波測量と,山麓から中腹までの水準測量によって山体の膨張が観測され,噴火に伴い膨張量の2割程度の収縮が観測された。

 

(2)達成度と課題

 常時観測が実施されている火山においては,何等かの前兆現象を捉え,いくつかの火山で噴火前に観測の強化や情報提供を行った例がある。このように,噴火の短期的予測については,貴重な実績を積みつつある。また,噴火前後のマグマの挙動も,それぞれの火山活動の特徴に応じて多項目,高密度,高精度な観測を行うことにより,定性的には把握できることがわかった。中長期的な予測については,過去の噴火履歴にもとづく予想がなされているのみで,観測データに基いた予測は,桜島のように長期の地殻変動観測データのある火山以外では現在のところ困難である。この点に関連して,伊豆大島,三宅島,雲仙岳で噴火前後の静穏期におけるマグマの蓄積を示唆する山体膨張が確認されたことは,重要な知見となった。

 噴火の様式と規模については,現在のところ,過去の噴火活動の地質学的な調査などにもとづいて予測する以外困難である。

 噴火の推移や終息の予測については,有珠山の新山隆起活動や雲仙岳の溶岩ドーム形成活動のようにある程度可能な場合もあるが,一般には極めて困難である。現在のところ,過去の活動事例を参照するしかない。活動の現状把握にもとづく短期的な推移予測はこれまでにもある程度なされてきたが,定性的なレベルを超えていない。

 火山活動にともなう諸現象の発生機構については,多項目観測,高密度観測,高精度観測等によって理解が進んできているが,今後は目的を明確にした実験的な観測を重視すべきである。

 現在のところ困難な噴火の中長期予測や様式,規模,推移の予測に向けて,マグマ溜りと火道系,マグマの供給様式,噴火の開始と終息の条件などについての定量的な理解を格段に向上させることが不可欠である。そのための方策として,火山体の詳細な構造探査,山体膨張の有無を調べるための計画的な測量,マグマの挙動を定量的に把握するための手法の開発,マグマ溜り内での揮発成分濃度を含む物理化学的状態を把握する手法の開発,状態の進化を予測するための理論的実験的研究等が重要であろう。

 これまでの主要な火山噴火活動に対しては,伊豆大島と雲仙岳の噴火に対する火山噴火予知連絡会の活動状況の表にも見られるように,異常現象が観測されてから活動の終息まで,総合的な観測結果に基づく現状把握と短期的な推移予測がある程度なされてきたと言える。今後は,さらに正確で定量的な情報を出せるよう努力する必要がある。