着任セミナー (2021年5月7日) 行竹洋平(火山噴火予知研究センター)

箱根火山周辺域の地殻構造及び地震活動とマグマ供給過程

要旨:
本発表では、主に箱根火山に焦点をあて、地殻構造や地震活動に関するこれまでの研究結果を紹介する。箱根火山では近年、群発地震活動や水蒸気噴火などの火山活動が観測されている。こうした火山活動とマグマ供給系との関係を理解するため、地震波速度構造の推定を行った。火山の深さ6kmより深部で顕著は低速度域が推定され、深さ9km付近にマグマ溜まりを示唆する高Vp/Vs域、またその上部にマグマ由来の熱水やガスの存在を示唆する低Vp/Vs域の存在が明らかになった。また深さ20km付近に発生する深部低周波地震は、より浅部での火山性地殻変動や群発地震活動と時間的に連動していることが明らかになった。多くの場合、深部低周波地震がやや先行して活発化し、その後深さ6km付近を圧力源とする膨張性地殻変動やより浅部での群発地震活動が開始する。この結果から、深部からのマグマ供給に伴い深部低周波地震が活発化し、その影響がより浅部に伝播し火山活動を引き起こしていることが示唆される。浅部で発生する群発地震の震源位置を高精度に決定すると、ほぼ鉛直な面上に地震が集中し、また時間の経過とともにある地点から地震活動域が拡散的に移動していく様子が明らかになった。こうした震源の移動様式は、マグマ由来の高圧流体が脆性領域の断層帯に貫入し拡散していく過程を反映している可能性がある。一方、群発地震の際にわずかな地殻変動が伴っていることが最近明らかになり、流体の移動に伴い背景に非地震性の変動が生じている可能性も示唆される。