差分干渉SARで捉える海洋潮汐荷重変形
Oceanic Tidal Loading Deformation detected by Differential SAR interferometry

古屋正人・大久保修平 (東京大学地震研究所)
Masato FURUYA and Shuhei OKUBO(Earthquake Research Institute, The University of Tokyo )
Email: furuya@eri.u-tokyo.ac.jp, okubo@eri.u-tokyo.ac.jp

 Abstract -- We describe an application of differential SAR interferometry(D-InSAR) to the detection of oceanic tidal loading signals. We will suggest its geophysical significance, and show our preliminary results and problems associated with this endeavor.

1. 背景
マイクロ波を用いた地殻変動を検出する宇宙技術には,すでにVLBI(VeryLong Baseline Interferometry)GPS(Global Positioning System)がある.これらで捉えられてきたシグナルは差分干渉SAR(D-InSAR)でも見えてくるはずである.大気遅延はその一例であるが,ほかに海洋潮汐に伴う荷重変形の問題がある. Massonet & Feigl (1998)の中でヨーロッパでの事例が報告されているが,日本周辺での報告事例はまだない.
   一方,最近 Matsumoto et al. (1999)は検潮場の潮位データとTopex/POSEIDON 衛星の海面高度計データを同化した高精度な海洋潮汐モデルのグローバル版と日本語版を公開した.これによって海洋潮汐荷重変形を理論的に見積もる際に必 要な外力の精度は確実に向上する.
    GPSやVLBIは各点の変位量そのものを観測するのに対し,D-InSARでは同様の物理 量の二時期の差を面的に(高空間分解能で)観測する.固体地球潮汐の変形に比べ て海洋荷重潮汐による変形は遥かに局所的なものなので,D-InSARには好都合な ターゲットとなる.海洋潮汐荷重に対する地殻の応答の理論値は,等方均質な弾性媒体が仮定されるが,この理論値と観測値の比較から,応答特性の不均一性が見えてくる可能性がある.ここではまず,D-InSARで海洋潮汐変形がどう見えるか(その大きさやパターン)を示し,JERS1のデータを用いた予備的解析結果を述べた後,現状での問題点や展望を述べる.

2.解析と結果
Matsumoto et al. (1999)による海洋潮汐モデルとGOTIC2を用いて,該当地域の合計21分潮について上下変位と水平変位を求めた後,ここで得られる三成分を SARの観測量に合わせるように,視線方向変位に変換する.衛星によるD-InSARの場合,JERS1では44日,ERSでは35日の回帰周期をもち,その整数倍の二つの時期の差が観測される.後述のようにERS1/2のtandemモードのデータを用いればほぼ一日後の差が観測される.
     解析地域の設定には,潮位の振幅が狭い領域で大きく変化しているところを選ぶ. 図1、2を見ると日本の近海で潮位変動が大きいのは,半日潮については東シナ海から黄海,一日潮ではオホーツク海なので,その周辺の陸域を調べるのが都合が良い.以下の予備解析では九州南部を選んだ.

Figure 1.  Contour map of the largest semi-diurnal partial tide M2 around Japan for the amplitude (millimeter, left) and phase (degee, right) relative to the Greenwich (right).

Figure 2. Contour map of the largest diurnal partial tide K1 for the amplitude (in millimeter, left) and phase (degrees, right) relative to the Greenwich.

     図3に示したのは九 州地方で,GOTIC2に基づいて計算した98/08/11と98/09/24での視線方向距離の変化である.等値線間隔は0.5mmである.併せて示したJERSによる1シーンの大きさ から,1シーンの領域だけで見えるべき変化量はせいぜい3mm程度で,検出するには相当難しい変化量である. SARデータにはJERS1のレベル0データ(copyright MITI/NASDA)を用いて,解析で はgamma社のMSP,ISP,DIFF,GEOを用いた.ここでは国土地理院の50mメッシュ数値地図を用いて,2パス型の差分干渉処理を行った. 図4の結果を見ると依然として地形縞らしきものが見えている.


Figure 3.  Simulated ocean tide signal expected in the orbital pair (see texts). Contour interval is 0.5 millimeter. Also shown is the continuous scene analyzed in Figure 4.

3.展望
図4での地形に相関した位相は,その大きさか ら判断して静水圧(いわゆる乾燥大気)遅延による効果と思われる.ミリオーダーの変位に迫るには,水蒸気遅延の寄与の除去が不可欠である.

Figure 4.  Differential interferogram of the JERS1 orbital pairs, 980811 and 980924 overlayed on the amplitude image.

    有意な変化量として捉えるには,出来るだけ広い(長い)領域の変化の大きいとこ ろを解析する必要があるが,そもそも量子化ビット数3でL-band(23.5cm)を用い たJERS1のデータでは位相の測定精度そのものが見ようとする現象の大きさに追 い付くか微妙である.現在,C-band (5.6cm)のERS1/2(量子化ビット数は5)の tandemモードのデータを用いることを検討中である.

4. 謝辞
高精度な海洋潮汐モデルと固体地球潮汐および海洋潮汐の影響量を計算する プログラムGOTIC2を公開してくださった国立天文台水沢の松本晃治博士に感謝し ます.なおJERS-1SARデータの所有権は通商産業省および宇宙開発事業団にあり ます.
 

5. 参考文献
(1) Massonnet and Feigl., Rev.Geophys., vol.36,4,441-500,1998.
(2) Matsumoto et al., Chikyu Monthly(月刊地球),vol.21,8,494-500,1999.
      (http://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/index.html  )