研究集会「強震動の空間変動特性と構造物被害分布」を開催して東京工業大学大学院総合理工学研究科 山中浩明 |
案内の期間が短かったにもかかわらず,26件の発表の応募があり,それぞれのテーマの招待講演とUC Santa BarbaraのArchuleta教授(現,SSA会長)の特別講演を含め計31の発表がありました.会場の都合で,2月4日は第1会議室,2日目の5日は第2会議室と変則的になりましたが,初日は79名,2日目は47名の参加を得て,私どもの期待以上の盛況でした.
個々の講演内容や議論をここで紹介することは紙面の都合上難しいので,全体の概要について私見を述べます.ある程度は予想していたことですが,応募のあった講演の半数以上が地盤(経路も含む)の不均質・不整形性に関連した内容でした.また,直接的にリアルタイム地震防災を主題とした講演はなく,以下のようなセッションとしました. 1.地盤の不均質性・不整形性による強震動の空間変動地盤の不均質性・不整形性による強震動の空間変動に関しては,わずかな速度構造の揺らぎ(不均質)が振幅に大きな揺らぎをもたらす可能性(招待講演:干場,気象研),統計的モデルを導入した揺らぎの評価,不整形性を考慮した地震動の揺らぎなどを数値実験的に取り組んだ研究,アレイ強震記録を用いた観測研究,特に横浜の高密度強震観測網から理解されること(招待講演:石原,横浜市大),弱震動や微動を用いた地盤震動特性の評価法の検討などに分類できます.微動によるサイト特性の評価は古くて新しい問題でもあります.
震源の不均質性に関する発表は,高周波地震動を理解するための構成則に基づく動力学モデルへの期待と問題点についての招待講演(井出,地震地殻変動観測センター)のほか,兵庫県南部地震の震源過程,鹿児島県北部地震の震源要素に関する2つの講演がありました. 兵庫県南部地震による構造物の被害に関する解析例のレビューから,三宮付近だけでも,推定される地震動に大きなばらつきがあること(招待講演:吉村,都立大工)のほか,木造家屋の倒壊方向,建物の非線型応答では大振幅パルス波が大勢を支配すること,構造物の崩壊の規範に関する検討,イラン地震の被害報告などが発表されました. 建築研究所の招待でたまたまこの研究集会に参加してくれましたArchuleta教授は,ノースリッジ地震の際に震源近傍のダムサイトで得られた強震記録が,一辺2―3kmの敷地内で地震動の特性が大きく違っていたこと,それを震源と表層の影響を考慮しても説明が難しく,強震動予測の難しさを指摘されていました.この研究集会にぴたりのテーマでした.但し,表層構造が正しいのかどうかの質疑があったことも記しておきたいと思います. この種の研究集会は,学会の講演会とは異なり,より多くの質疑応答が活発に行われることが望ましいのですが,予定した1日半の日程ではやや無理がありました.講演時間を少なく質疑の時間を十分にと発表者にお願いしましたが,質疑を途中で打切らざるを得ないことが多々ありました.今後はもう少し時間に余裕をもって開催したいと考えています. なお,当日のプログラムはしばらくは地震研究所のホームページで見られます.また,当日配布したアブストラクト(各300語程度)集はご希望される方にはお送りいたします.集会に参加される方々のための手続きには事務の方々に大変お世話になりました.また,当日の受付け,会場,懇親会等にご尽力戴いた高橋正義,坂上 実,工藤和子,引田智樹さんに御礼申し上げます.Last modified: Sun Apr 19 16:09:57 JST 1998