JERS-1/In-SARから得られたアファー南東部のリフト帯における地殻変動場
Crustal deformation field around rift zone in Southeastern Afar derived from JERS-1/In-SAR

小澤 拓(1),野木 義史,渋谷 和夫 (国立極地研究所)
(1)現所属:科学技術振興事業団/国土地理院
Taku Ozawa(1), Yoshifumi Nogi and Kazuo Shibuya (National Institute of Polar Research)
(1)Now at Japan Science and Technology Corporation / Geographical Survey Institute


Abstract:Afar is one of the major active rift zones recognized on the ground and located around the triple junction of Arabia, Somalia and Nubian plates. We apply JERS-1 SAR interferometry in southeastern Afar, which is the one of the most active deformation area. The crustal deformation derived from SAR interferometry increases with expanding repeat periods. These are indicated that the central area of Manda - Inakir rift is uplifted in about 20 km width and that the outside area of uplifted area is subsided in about 10 km width. Moreover, this feature is narrowed with approaching to Mak’Arrassou strike slip zone. This “V shape” crustal deformation feature may be caused that the stress is gradually changed from the extension to the strike slip.

1.はじめに
 アファーはアラビア,ソマリア,ヌビアプレートの三重プレート境界域であり( Fig. 1),紅海との海岸線地域にあるDanakilマイクロプレートがアファー北西部を中心に半時計回りに回転し,拡大していると言われている地域である(Sichler, 1980).このようにリフト帯が地上に現れている地域は,アファーから南方に続くアフリカ地溝帯とアイスランドのみであり,このようなリフト帯における地殻進化過程を調査するためには,これまでに行われてきた地質学,地震学的データなどの解釈のみだけでなく,測地学的なデータを合わせて解釈することが必要である.Ruegg et al. (1984)はAsal - Ghoubbet rift帯において三辺・三角測量を行い,年間6.0 cmの速度で拡大していることを示した.さらに,Walpersdorf et al. (1999)はGPS測量によりジプチとイエメンの間が1.6 cm/yrで拡大していることを示した.より詳細な地殻変動を知るためには,時間的にも空間的にも稠密に地殻変動観測を行う必要があるが,自然環境,社会情勢などの問題から現地での直接測量は困難であり,リモートセンシングの測地学的応用技術が有用である.そこで,本研究では,もっとも地殻変動が活動的な地域の一つであるアファー南東部(Fig. 1)にJERS-1の干渉合成開口レーダ(干渉SAR)法を適用し,地殻変動場の検出を試みた.

Fig.1

Figure 1. Map around Afar. Blue box indicates the SAR scene area in this paper. Yellow curves indicate the Asal - Ghoubbet and Manda - Inakir rift zones, and broken yellow curve indicates Mak’Arrassou strike slip zone. Color bar indicates the topography from -2000 to 4000 meters. Inset shows the schematic map around Africa.

2.SARシーンとデータ処理
 アラビアプレートとソマリアプレートのプレート境界は, Aden湾から西南西方向に続き,Tadjura湾,Ghoubbet湾を経て,Asal - Ghoubbet rift帯で地上に現れる.本研究で用いたSARシーンはAsal - Ghoubbet rift帯と,その西端から北方向に続くMak’Arrassou strike slip zone,そのさらに北端から北西方向へ続くManda - Inakir rift帯の東端地域を含んでいる.本研究では,この地域において1995/5/20から1997/5/7までに取得された6シーンのJERS-1/SARデータを用い,これらから88日間隔を2組,176,264,352日間隔をそれぞれ1組の組み合わせで干渉SAR画像を作成した.最初に,88日間隔の2つの干渉SAR画像に含まれる地殻変動成分は同じであるとして,Kwok and Fahnestock (1996)の方法により地形縞成分のみを抽出し,地形標高モデル(Digital Elevation Model: DEM)を作成した(Fig. 2).

Fig.2

Figure 2. Digital Elevation Model derived from SAR interferometry. Color bar indicates the topography from -200 to 1800 meters. X- and y- directions are range and azimuth directions, respectively.

次に,作成した DEMを用いて他の干渉SAR画像から地形成分を除去した.しかし,得られた干渉SAR画像には,軌道縞補正が不十分であったためと思われる干渉縞が残ったので,Tobita et al. (1998)が述べている“Kamaboko function”を最小二乗法で決定し,除去した.さらに,得られた干渉SAR画像には地形縞の補正が不十分であったためと思われる,等高線に類似した干渉縞が残ったので,再度DEMを用いて補正した.以上で得られた干渉SAR画像には,衛星間基線ベクトルの視線方向に対する直交成分(Bperp)に相関がある干渉縞が見られた.これは作成したDEMのエラーに起因すると思われるので,以下の手法によりBperpに依存する干渉縞を決定し,除去した.まず,地殻変動量は時間に対して一定の速度で増加すると仮定し,以下の観測方程式のパラメータを最小二乗法で決定することにより,Bperpに依存する干渉縞を決定し,除去した.

Phi(j) = T(j) * Dr + Err * Bperp(j) + v(j) −(1)

ここで,Phiは各ピクセルの位相差,jは干渉画像の番号(j = 1,2,3,4),Tは干渉ペア取得間隔,Drは地殻変動速度,ErrはDEMのエラー,vはノイズを示す.以上で得られた干渉SAR画像をFig. 3に示す.データ取得間隔が長くなるにつれて位相差が増えており,地殻変動量が時間とともに増えていることがわかる.

Fig.3(a)

Fig.3(b)

Fig.3(c)

Fig.3(d)


Phase difference, radian

Figure 3. Interferograms extracted the displacement fringes. Color bar indicates phase difference from -π to +π. Repeat cycles are (a) 88, (b) 176, (c) 264, (d) 352 days, respectively.

また,(1)式から求められた地殻変動速度場(Dr:視線方向成分)をFig. 4に示す.暖色系の色が衛星から遠ざかる(沈降もしくは西方向)地殻変動,寒色系の色が衛星に近づく(隆起もしくは東方向)地殻変動を示す.

Fig.4

Figure 4. Displacement field (line-of-sight direction component) derived from SAR interferometry. Solid and broken curves indicate tectonic lines; Asal - Ghoubbet rift zone, Mak’Arrassou strike slip zone and Manda - Inakir rift zone. Solid arrows indicate the plate motion direction of Danakil microplate (Chu and Gordon, 1998) with respect to Somalia plate (Jestin et al., 1994). Purple, red, green and blue broken curves show the schematic crustal deformation features. For details, see text.

3.干渉SAR法から得られた地殻変動場
Manda - Inakir rift帯周辺では,幅20 km程度の地表面が隆起するセンスの地殻変動構造が見られ,その外側に10 km程度の幅で地表面が沈降するセンスの地殻変動構造が得られている.一般に,riftの中心ではマグマの上昇に伴って地表面が隆起し,その外側で岩石が冷やされることによる収縮,もしくは地殻拡大に伴って中心部が落ちるような正断層運動により地表面が沈降するような地殻変動構造が予測され,この地域において得られた地殻変動構造は,そのような構造によく一致する.さらに,Manda - Inakir riftから東に進むにつれて,rift帯の走向は南北方向に変化し,Mak’Arrassou strike slip帯に続くが,それに伴って隆起する構造の幅が狭くなる“くさび形”の地殻変動構造が見られた(緑波線).ソマリアプレートに対するDanakilマイクロプレートの運動方向(Fig. 4の矢印,Chu and Gordon (1998) and Jestin et al. (1994))が地殻拡大の方向と考えると,その方向に対するManda - Inakir rift帯の走向がほぼ直交しているのに対して,東端からMak’Arrassou strike slip zoneに近づくにつれて走向が徐々に平行に近づく.それに伴って,拡大成分が小さくなり,リフト帯特有の地殻変動構造の幅も狭くなることを示しているのかもしれない.

一方, Asal-Ghoubbet rift帯周辺では,数10-20 kmの幅で沈降するセンスの地殻変動のみがみられており,リフト中心における隆起するセンスの地殻変動構造は見られない.しかし,アファー地域は,最高気温が50度にも達する地域であり,Asal湖,Ghoubbet湾のような大量に水がある地域では,そこから発生する水蒸気が常にあるため,電波伝搬遅延に起因する誤差が生じやすい地域である.よって,この地域における地殻変動場の解釈には注意を要する.しかし,内陸部は非常に乾燥した地域なので,比較的水蒸気による誤差が生じにくく,4ペアの干渉SAR画像から平均的な地殻変動量を求めることにより,水蒸気に起因する誤差は軽減できると期待される.よって,Manda - Inakir rift帯周辺で得られた地殻変動構造は有意な地殻変動構造であると思われる.

4.まとめ.
本研究では, JERS-1の干渉SAR法をアファー地域に適用し,地殻変動場を決定する試みを行った.本研究では,精度のよいGCPをとることができなかったため,軌道縞や地形縞の補正などが十分でない可能性がある.また,水蒸気による電波伝搬遅延誤差などの問題などもあり,より精度よく地殻変動場を求めるには,さらなる処理方法の改善が必要である.現時点では本研究で紹介した4ペアの干渉SAR画像しか処理できていないが,他の干渉ペアでも干渉が得られることは確認されているので,これらもあわせることにより,より精度のよい地殻変動場を検出できるはずである.このような地殻変動場から,rift帯における地殻拡大のメカニズムをより詳細に知るための,有用な手がかりになると期待される.

5.謝辞
JERS-1 SARデータの所有権は通商産業省および宇宙開発事業団にあります.

6.参考文献

Chu, D. and R. G. Gordon, Current plate motions across the Red Sea, Geophys. J. Int., 135, 313-328, 1998.
Jestin, F., P. Huchon and J. M. Gaulier, The Somalia plate and the East African Rift System: present-day kinematics, Geophys. J. Int., 116, 637-654, 1994.
Kwok, R. and M. A. Fahnestock, Ice sheet motion and topography from radar interferometry, IEEE Trans. Geosci. Remote Sensing, 34, 189-200, 1996.
Ruegg, J. C., M. Kasser and J. C. Lepine, Strain accumulation across the Asal-Ghoubbet rift, Djibouti, East Africa, 89, 6237-6246, 1984.
Sichler, B., The danakil crank-arm: a model for the geodynamic evolution of the Afar triangle, 22, 925-933, 1980.
Tobita, M., S. Fujiwara, S. Ozawa, P. A. Rosen, E. J. Fielding, C. L. Werner, M. Murakami, H. Nakagawa, K. Nitta and M. Murakami, Deformation of the 1995 North Sakhalin Earthquake detected by JERS-1/SAR interferometry, Earth Planets Space, 50, 313-325, 1998.
Walpersdorf, A., C. Vigny, J. C. Ruegg, P. Huchon, L. M. Asfaw and S. A. Kirbash, 5 years of GPS observations of the Afar triple junction area, J. Geodyn., 28, 225-236, 1999.