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地震研究所談話会 第832回 (2005年10月)

火山噴煙ダイナミクスに関する3次元数値モデルの開発
乱流混合の定量的再現

鈴木 雄治郎(海洋研究開発機構) 小屋口 剛博(地球ダイナミクス部門)

 本研究では、3次元空間の中で時間的に変化する(非定常)火山噴煙の挙動を知るために、数値モデルの作成を目的とした。爆発的噴火で見られる火山噴煙はその乱流構造で周囲の流体と混合し、その混合の効率によって火砕流として地表を流れ下るか噴煙柱として上昇するかなど挙動が変化する。したがって、目的とする数値モデルは乱流混合について正確に再現する必要がある。

 噴煙のような十分に発達した乱流ジェットは、その混合効率はレイノルズ数(粘性)に依存しないという一般的性質を持つ。本数値モデルは「非定常・噴煙ジェット」モデルだが、理想的な状態においても上記の混合効率の性質を正しく再現しなければならない。

1.定常・理想気体ジェット

 噴出する流体が周囲の流体と同じ乱流ジェットでは、噴出口から距離とともに直線的に拡大し、乱流が十分に発達していればその広がりの角度はレイノルズ数に依存しないことが実験によって知られている(図1[a])。本モデルによる計算の結果、軸対称を仮定した2次元座標系を用いた場合(図1[b])や計算精度が低い場合(図1[c])には実験から得られたジェットの広がり(図1、赤線)を正しく再現できず、3次元座標系で高い計算精度を用いた場合(図1[d])には再現できることを確認した。


図1:理想気体ジェットの実験
[a](Dimotakis et al., 1983)と本モデルによる数値シミュレーション[b,c,d]。
[b] 2次元座標系で細かなグリッドサイズ、
[c] 3次元座標系で粗いグリッドサイズ、
[d] 3次元座標系で細かなグリッドサイズを用いたシミュレーション結果。色は噴出流体の濃度、赤線は実験による乱流ジェットの広がりを示す。

2.定常・噴煙ジェット

 上記の理想気体ジェットにおいて状態方程式を代えることで、火砕流・噴煙柱が時間的に発達する様子を再現できた(図2)。一般に、数値的なレイノルズ数は計算のグリッドサイズに依存する。また、混合効率が変化すると火砕流の発生条件が変化する。そこで、本計算で定常と見なせる状態について、グリッドサイズと火砕流発生条件の関係を調べた。その結果、グリッドサイズが十分に小さな時に火砕流の発生条件は変化しない、つまり混合効率はレイノルズ数に依存しない発達した乱流状態を再現できていることが分かった(図3)。

 以上より、本研究の非定常3次元噴煙モデルは理想的な場合について乱流混合を再現でき、風などの影響が加わる実際の噴火現象にも適用可能となる。

図2:火砕流・噴煙柱形成のシミュレーション結果。火口を含む断面における、噴煙の濃度を示す。

図3:混合効率のレイノルズ数依存性。初期条件が青点では噴煙柱、赤点では火砕流となった。黒線は青点・赤点の境界で、火砕流の発生条件を示す。

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